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【コンサルティングコラム】
学校法人における人材育成 - 学校法人の人件費改革施策(1)

前回は、大学の人件費が年功型の人事処遇制度によって上昇し続ける構造になっていること、そして、組織運営と意思決定スタイルが人件費改革を難しくしている状況を指摘しました。今回は、こうした状況下で、一体どのような人件費改革が行われているのか、その具体的な施策について考えてみます。


人件費改革(人件費削減)には大きく分けて2つの方法があります。(1)1人当たりの人件費単価を下げることと、(2)人員数を減らすことです。(1)の人件費単価を下げるために一般的に用いられる方法は、俸給表(給与水準)や賞与月数の切り下げ、あるいは諸手当を統廃合などです。一方で、(2)の人員数を減らすためには、まず退職者数よりも採用者数を少なくすることが通例ですが、早急に人員数を減らさなければならない場合には、有期雇用(非常勤)教職員の雇い止めや、専任教職員の希望退職募集にまで踏み込むことも必要となります。


上記のような施策は、民間企業ではよく行われています。2010年に労働政策研究・研修機構が上場企業(有効回答数:223社)に対して行った「今後の雇用ポートフォリオと人事戦略に関する調査」では、「過去2年間の具体的な雇用調整策(複数回答)」のうち、「新規採用の抑制(53.2%)」、「契約社員、臨時・パートタイム労働者の雇用契約の不更新(52.0%)」、「不採算部門の縮小・廃止、事業所の閉鎖(45.6%)」が上位3項目となっており、どれも人員数を減らす施策と位置付けることができます。大半の民間企業が、新規採用の抑制によってインフローを縮小し、有期雇用社員の削減と不採算部門の縮小・廃止によってアウトフローの拡大を行っていこうとしているわけです。


一方で、学校法人ではこれらの施策がどの程度行われているのでしょうか。前回のコラムでも紹介した「学校法人の経営改善方策に関するアンケート調査」(日本私立学校振興・共済事業団、平成20年実施)では、「人件費削減への取り組み」として、「派遣職員の雇用(61.9%)」、「アルバイト・パートタイム職員の雇用(55.9%)」、「新規採用の抑制(46.8%)」が上位3項目となっています。上位2項目を「非正規職員の活用」と一括りにして考えると、「事務効率化等の推進による人員削減(39.9%)」が上位3項目になります。読者の皆さんは、この3項目について何か共通項が思いついたでしょうか。私は、2つの共通項(特徴)が表れていると思います。第一に「インフローは改革するが、アウトフローにはなかなか手がつかない」こと。第二に「改革の対象が職員であること」です。


新規採用の抑制や有期雇用への切替えという手段は、既存教職員の処遇に影響を与えることなく人件費を削減できる手段であり、最も手をつけやすい手段です。しかし、この手段には懸念があります。それは、既存の教職員の意識改革(言い換えれば危機感の醸成)の効果がほとんどないということです。


新規採用を抑制(厳選)すると、その狭き門をくぐりぬけてきた新入教職員は、学校経営の厳しさや自身の雇用確保に対する危機感を意識せざるを得ません。また、能力的にも厳選されている可能性が高いです。このような新入教職員から見て、既存の教職員は年功的処遇が温存されていて危機感が足らないように見えます。評価や人事処遇に対する不公平感や不満を常に感じながら仕事をすることになりますし、本当に実力がある教職員はより魅力的な学校法人に転職しようと考えるでしょう。


このような現象は、民間企業でもよく見られがちです。但し、これまでにご紹介した調査結果でも確認したとおり、既存社員であっても人員削減の対象となる可能性があること、そして人事処遇が成果主義型になっていることから、既存社員の意識改革(危機感の醸成)を促す仕掛けも同時に行われているため、評価や人事処遇に対する不公平感や不満を軽減させることができます(評価や人事処遇に対する不公平感や不満を無くすことは極めて困難ですが、無くそうとする意志や姿勢を示すことはできています)。


ちなみに、職員の改革が中心となる背景には、学校教育法における大学設置基準が関係しています。大学は収容定員に応じて最低限満たすべき専任教員の数が学校教育法で定められています。たとえば「教育学部では収容定員400人に対して、専任教員は最低限10名が必要」というようなルールです。要するに収容定員を維持したまま、教員の新規採用を抑制することできないのです。このルールがあるため、職員は別として専任教員の数を短期間で大幅に減らすことはできません。また、人件費単価を下げるという視点で見た場合の人件費改革(賃下げや賞与カット等)も、専任教員の退職リスクが大学の存続に直結するため、慎重にならざるをえません。ただし、職員だけが人件費改革の対象となり、教員は関係ないという構図では、とても職員の納得感を得ることはできず、改革は道半ばで頓挫してしまうのではないでしょうか。


人件費改革は痛みを伴うものであり、できるだけ痛みの少ない改革を志向するのは当然のことです。しかし、ある改革を行ったことによって一部の人件費を削減できたとしても、そのことが組織全体の公正感・公平感を壊してしまうことがあります。場合によっては、少しの人件費を削減するために、組織全体に大きな混乱をもたらしてしまうことも懸念されます。人件費改革において「組織全体の公正感・公平感」は非常に重要なキーワードです。


長くなりましたので、次回も人件費改革に関する具体的な施策を考えていきたいと思います。


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