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第5回:グローバル人材に求められる行動力

クレイア・コンサルティング株式会社 2012.10.2

最終回の今回は、グローバル人材の重要なポイントのもうひとつ、「実際の行動量をどれだけ増やせるか」という点について掘り下げていく。

そもそも、なぜグローバル人材にはより多くの行動量が必要とされるのだろうか。

一つの理由は、第3回のコラムで指摘したように、「肌感覚」のような暗黙知的な現地情報を獲得する必要があるためである。ビジネスを進めるにあたり必要な情報はすべてが形式知化されているわけではない。むしろ、目に見えない暗黙知の形で蓄積されているほうが圧倒的に多いといえる。ビジネスを進めるにあたり重要な情報を大量に含む暗黙知を無視して、形式知だけでビジネスを展開することは難しい。「セーターを重ね着して外に出ると、外の寒さを知ることは難しい」というジャック・ウェルチの言葉があるように、机上だけでは、ビジネスの実態を把握することは難しいのである。

至極当然の話であるが、日本人社員にとってこの暗黙知的な情報は、日本国内市場では収集しやすい。日本人社員の多くは、日本で育ち、日本で生活してきており、暗黙知的な情報をそれまでの人生の中で蓄積できていることが多い。また、少なくとも自らの周囲には、暗黙知的な情報を蓄積した日本人社員が存在し、彼らに話を聞くことによって暗黙知をある程度取り込むことができる。

しかし、海外市場においては暗黙知をそれまでの人生の中で蓄積をすることは難しく、また新規海外市場への進出であるならば周囲に暗黙知を蓄積した人物も少ないと想定される。このため、海外市場においては、自ら暗黙知を蓄積することが必要といえる。自ら暗黙知を蓄積するためには、机上にあって思考を巡らすだけでなく、実際に行動し、現場の情報を収集するとともに、トライアル・アンド・エラーで情報収集を行っていく必要がある。

グローバル人材に行動量が必要とされるもう一つの理由は、ビジネスを行うための環境・インフラが未成熟であることである。特に、新興国市場ではこの要因が重要である。

そもそも、新興国市場が決定的に日本の国内市場と異なるのは、その成長性でも、ニーズの違いでもなく、ビジネスを行うための環境・インフラが未成熟であるという点である。ビジネスを行うための環境・インフラが未整備であるとは「買い手と売り手を容易に、あるいは効率的に引き合わせて取引させる環境が整っていないこと」(*1)を意味する。日本国内市場においても、製品によっては市場が急成長しているし、顧客セグメントによってニーズも異なるのは確かだ。しかし、ビジネスを行うための環境・インフラに関しては、日本と新興国では大きな差があるのが実情である。

*1)『新興国マーケット進出戦略』タルン・カナ/クリシュナ・パレプ著 上原裕美子訳 日本経済新聞出版社 2012年

ビジネス環境とインフラが未成熟であるということは、取引をする相手を見つけづらく、もしうまく見つけたとしても信頼できる相手かどうかがわからず、継続的に取引を結ぶことが難しいということを意味する。例えば、新興国市場に進出する企業の頭を悩ませる問題の一つとして、優良な現地の協力企業を見つけにくいという点がしばしばあげられる。往々にして、新興国市場に進出する外資系企業は間違ったパートナーを選び、進出に失敗してしまうケースが多々発生している。アメリカ人で各国企業の中国進出の仲介・コンサルティングを行っているポール・ミドラーには、中国市場に進出したある外資系企業(仮にA社とする)と中国の現地取引先企業との間の確執を描いている著書がある(*2)。そこでは、要求する品質水準を満たさない製品が現地の取引先企業で生産され、なかなかそれを是正させられない外資系企業A社の様子が取り上げられている。外資系企業A社は様々な取引先を見つけようと現地の仲介業者を頼ろうとするが、その仲介業者がまた悪徳であったりするのだ。結局この外資系企業A社はこの取引先企業以外を見つけられず、最後には中国市場からの撤退を余儀なくされてしまった。この例のように、新興国現地の情報ネットワークを持たない外資系企業からすると、どの協力企業が優良企業で、自社に品質の高い製品を安定的に供給してくれるのかはわからず、双方の満足がいく取引を成立させられなくなってしまう事態が生してしまう場合がかなり高い。これは新興国市場ではそもそも情報が少なく、かつ企業の信用を担保する機関が存在しないためである。これが先進国であったならば、取引先企業の実態について調査会社を用いるなり、政府や証券取引所に問い合わせるなり様々な確認方法があるはずであり、信頼できる相手と取引を成立させることも容易だったはずである。

*2)『だまされて。-涙のメイド・イン・チャイナ』ポール・ミドラー著 サチコスミス訳 東洋経済新報社 2012年

このような新興国市場では信用を担保するために自ら足を運び情報を確認しなくてはならない。つまり、先進国市場であればすでに整備されているものを自らの手で集めなくてはならない。先進国市場では他者の力を借りることができたものを、新興国市場では自ら行動することによって得る必要がある。

このようにグローバル人材には圧倒的な行動力が求められる。では、どのようにそのような行動力を持つ人材を選抜していけばよいのか?

人が行動力を発揮する背景には様々な要因があるが、ひとつ大きな要因として挙げられるのは職務に対するオーナーシップであろう。オーナーシップとは職務に対する責任感、そして成果に対するコミットメントである。オーナーシップを持つ人は、「やりすごそう」「誰かがやってくれる」という感覚が存在しない。むしろ、「誰かがやらなくては」「自分がやらなくては」という気持ちが常に存在するため、何か必要とされることがあったならばすぐにそれに取り掛かる。

しかし、このようなオーナーシップの存在や、そもそも海外市場において行動力を発揮できるのかどうかは、なかなか確認しづらい。オーナーシップは社員の姿勢の中にあるものであり、外部からの観察では確認しがたいものであるし、海外市場において求められるレベルの行動力は日本国内市場ではなかなか発揮機会が存在しない。つまり、日本国内における業務上の評価だけでは、グローバル人材としての資質を持っているかどうかは確認しづらい。このため、グローバル人材としての資質の一部は、例えば構造的に練られたインタビューや、外部の視点を活かした人材アセスメントなど、通常の人事考課以外の手段の活用も検討していくことが望まれる。

【了】

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