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【コンサルティングコラム】
「やる気」の構造 ~これがモチベーションを高める組織だ!~ - 2章 日米の「人事制度」を再点検する①

日米の人事制度を比較すると?

人事制度は、社員のワーク・モチベーション(労働意欲)に多大な影響を与えます。

社員のやる気を高めるために、人事制度改革に着手する企業も少なくありません。しかし、どのような人事制度をめざせば、やる気がよりかき立てられるのでしょうか?

日本企業における人事制度改革のトレンドは、「年功的な日本型から、合理的成果主義の米国型へ」といわれています。しかし、米国型人事制度を直輸入した企業で、それらがうまく機能しているとはいいがたい状況にあることは、1章で紹介したとおりです。

人事制度のような、企業実績にも社員の生活にも多大な影響を与える改革を行うためには、現状認識や将来像を明確にもつことが必要です。ただ漠然と「日本型人事制度は年功的」「米国型人事制度は合理的成果主義」のようなイメージで捉えているだけでは、充分とはいえません。

本当に社員のやる気を喚起する人事制度改革や人事マネジメントを実現するための第一歩として、ここでは、そもそも「日本型人事制度」や「米国型人事制度」とは何なのかを確認してみましょう。


日米の人事制度の特徴



日米の人事制度の特徴を簡単にまとめると、上図のようになります。

人事制度の特徴

①日本の人事制度
日本型人事制度は、「人」を基準にしています(このことから、日本型の人事制度を「人間主義人事制度」と呼ぶことにします)。
企業と社員は長期安定的な契約関係にあり、労働と報酬の関係は、長期間かけて清算されます。新入社員のうちは、労働に対して過分な報酬をもらえますが(報酬の前払い)、その後は労働に見合った報酬をその時々にもらうことはできません。退職金など後払いの報酬が多くなるわけです。
報酬などの処遇を決定する際には、社内のバランスに気を配ります。社内労働市場が上手く機能することが重要であり、個々の職場の事情よりも、職場間のバランスを重視します。
バランスのとれた運用を行うために、さまざまな職務に従事する職員を統一的に管理できる基準を整備し、人事制度の運用は人事部が集中的に管理しています。しかし当然ながら、人事部は各職場の細かい状況や事情まですべてを把握することは不可能です。

②米国型の人事制度
米国型人事制度は、「職務」を基準にしています。(このことから、米国型の人事制度を「職務主義人事制度」と呼ぶことにします)。
企業と社員は、必ずしも長期契約を前提としているわけではありません。そのため、労働と報酬の関係は、その時々に清算されます(pay for nowといいます)。
報酬などの処遇は、社外労働市場を意識して決定されます。処遇は、それぞれの職務の社外価値に応じた水準となり、社内バランスはあまり重要視されません。
人事処遇上の決定は、人事部ではなくラインマネジャーが行います。これは、人事上の決定(職務グレード職務アサイン成績評価など)を職務基準で行うためです。人事部には、各職務の内容や処遇決定の要因を判断することはできません。

次に、「日本型人間主義人事制度」と「米国型職務主義人事制度」のメリットとデメリットを見てみましょう。

人事制度は、企業にとっても社員にとっても重要な制度ですから、「企業の視点」と「社員の視点」でメリットとデメリットを整理することにします。

日本型人間主義人事制度のメリット(企業側)

①能力のある優秀な社員を抱えておくことができる
これが最大のメリットです。
人間主義人事制度のもとでは、「資格等級制度」「評価制度(職能考課)」「賃金制度(職能給)」が、一貫して“能力向上”に対するインセンティブになっています。
また、「職務」(ポスト、ポジション)の有無にかかわらず、能力の高い社員を厚遇できますし、長期勤続が有利な仕組みであり、優秀な社員をリテンションすることができます。
たとえば、不況の波を受けて組織が縮小した場合でも、常に優秀な社員を確保しておけますから、次の好況の波を受けて組織が拡大する場合に、それらの優秀な社員をすぐに活躍させることができます。(下図参照)

②社員の“忠誠心”(ロイヤリティ)を高める
企業の置かれている環境は常に変化しており、職務の内容も変化します。そのようなときに、「会社のために」と進んで新しい仕事にチャレンジしたり、余計な業務も進んで引き受ける社員を多く育てることができます。
詳しくは後で述べますが、日本型人間主義人事制度のもとでは、会社の拡大こそが、自分の処遇を向上させる最大の要因なのです。


一方で、日本型人間主義人事制度には、次のようなデメリットがあります。

日本型人間主義人事制度のデメリット(企業側)

①企業業績と人件費の整合性を確保することが難しい
これが最大のデメリットになります。
企業業績が下向きのときには、職務内容が縮減したり、職務そのものが削減されたりしますが、処遇は能力によって決定しているため、そのような職務の変化を処遇に反映することができません。
もう一度上図を見てください。職務の縮小に関係なく、処遇は安定しています。
それどころか、社員の能力は企業の業績に関係なく向上するものですから、能力を基準に決定する処遇もまた、企業の業績に関係なく、伸びていく可能性があります。
つまり、「企業業績」と「企業が抱えている能力」(=人件費)がどんどん乖離していく可能性を秘めているのです。もちろん、企業の拡大期には、このことがメリットになる(職務の拡大ほどに人件費が増えない)こともあります。しかし、現在の日本企業では、デメリットが表面化しています。

②実態以上に、高資格社員・高給社員が続出する可能性をはらんでいる
人間の能力という比較的あいまいな要素によって処遇を決定しているためです。
人間の能力を厳密に測定することは非常に難しいことです。「能力が伸びた」ということを証明することも難しいですが、同様に「能力が伸びていない」ということを証明することも難しいのです。
一般的に、経験年数や習熟によって、能力はある程度までは伸びていきます。そして、能力の伸びは止まります。しかし、「能力の伸びが止まった」ということははっきりといえないため、「経験年数や習熟による能力の伸び」がずっと続いていきます。その結果、実際の能力以上に高資格・高処遇の社員が続出するのです。
実際の働き振りと、資格や処遇の間に乖離があれば、社員はこの人事制度を信用しなくなります。人件費も浪費していることになります。能力測定を適切にできない企業は、社員からの信頼を失い、人件費も浪費してしまうのです。

※この内容は2003年に書かれたものです。



社内労働市場
社内(大企業の場合、グループ会社も含む)における人材流動の場。日本企業は、幅広い人事異動を行うことによって(人材の入れ替えよりも)現有人材の活用を優先する。典型的には、幹部候補生に幅広い経営知識を身につけさせるために、広範な異動を行ったり、現在の職場で活躍できない人材の配置換えを行ったりする。

pay for now
現在の貢献に、今この時点で報いること。すなわち、貢献のタイミングと報酬支給のタイミングが近接していること。日本企業は、貢献のタイミングに対して、報酬支給のタイミングが後ろにズレる傾向が強い。

社外労働市場
社外における人材流動の場。企業にとっては社外からの人材調達を行う場であり、社員にとっては転職先を探す場である。米国では、企業の人材調達ニーズと社員の転職ニーズをマッチングさせる場が幅広く準備されているが、日本では、新卒採用以外に企業と社員のニーズをマッチングさせる場は発展していない。

ラインマネジャー
現場管理職。現場において意思決定権限をもっている人。

職務等級(職務グレード)
職務の価値に応じたランクづけの仕組み。職務を等級に格つけることで、多種多様な職務価値の相対的なコントロールができる。職務等級が同じなら、職務価値は同程度ということになる。

職務アサイン
職務に人材を配置すること。具体的には、職務内容を定義し、その職務を遂行する人材を決定すること。日本企業では、職務範囲を明確にすることが少なく、「職務アサイン」という考え方は希薄である。

成績評価
その人の働きぶり(与えられた責任を果たしたか、期待されたアウトプットを達成したか、など)を評価すること。

資格等級制度
付与された資格を基準に等級を決定し、人材を管理する仕組み。資格は通常、「○○のレベルの仕事ができる能力を有している」という基準に従って付与される。

職能考課
人材の職務遂行能力(職能)を評価し、人事処遇に結びつける仕組み。

職能給
職務遂行能力の高さによって決まる報酬。

リテンション
人材の引き止めを図ること。

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