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【コンサルティングコラム】
「やる気」の構造 ~これがモチベーションを高める組織だ!~ - 2章 日米の「人事制度」を再点検する⑤

職能資格制度を構成するサブシステム

また、職能資格制度のサブシステムである次のような各制度にも、日本企業のマネジメントに合致するような工夫が見られます。

職能資格制度を構成するサブシステム

①資格等級制度
②評価制度
③賃金制度
④福利厚生制度
⑤退職金制度
⑥教育制度

では、順に特徴を見ていきましょう。

①資格等級制度

資格等級制度は、次の要素から構成されます。



≪資格等級制度の構成要素≫
(a)職掌
職掌とは、職種の違いを反映した職能の種類のことです。「営業職掌」「管理職掌」「製造職掌」など、大きな職種単位で設定されています。
(b)等級
等級とは、職能レベルの違いのことです。等級数(職能の段階数)の決め方は、各企業によって異なります。たとえば、 『職能資格人事制度』(竹内裕著)では、「職能資格等級の数は、企業規模、つまり社員数の多寡によって基本的には決まる」としています。

資格等級制度によって、企業はさまざまな種類やレベルの職務に従事する社員を、“資格等級”という統一の基準にしたがって管理することができます。

たとえば、職掌に着目すれば、「どのような種類の仕事ができる」社員なのかがわかります。また、等級に着目すれば、「どのくらい高い能力を保有している」社員なのかがわかります。

また、資格等級制度によって、「職掌ごとの等級の関連づけ」を行うことができます。

たとえば、「営業職掌」の1等級と、「製造職掌」の1等級は、同等の位置づけ(職能の高さ)とみなします。同じ1等級であれば、職掌に関わらず、処遇は同等になります。

これにより、さまざまな種類の職務に従事する社員の処遇水準を、“統一の基準”で管理でき、広範な社内異動によって職掌間の異動があったとしても、処遇も一定に保つことができます。組合交渉も、職掌ごとではなく、全職掌を代表する組合と行うことができます。

しかし現実的には、「営業と製造では求められる知識の内容がまったく異なる」など、職掌ごとに質の異なる能力をバランスよく関連づけるのは難しいのです。

そこで、「その職能を習得するのに、通常はどのくらいの時間がかかるか」という基準でバランスをとるようになります(質の異なる能力であっても、それぞれ習得に3年かかる能力ならば、同じレベルと考えます)。

ですから、各等級には「標準滞留年数」という年功的な基準が付加され、「○○君も3等級になって5年経ったし、そろそろ昇格かな」というような、標準滞留年数を意識した昇格運用になりがちです。

資格等級は、社員にとっての能力開発の指針という側面ももっています。社員は等級を一つひとつあがることを目標とし、実際に等級がひとつあがるごとに、能力アップを実感できます。

この側面に着目すれば、等級数は多いほうが、能力アップを実感する機会が増え、社員にとってのインセンティブ性が高まるように感じられます。

しかし、等級数を多くしてしまうと、「等級間の能力レベルに明確な違いを見いだすことができなくなってしまう」という問題があります。この結果、「等級基準(能力定義)」が非常に曖昧になり、適切な昇格管理ができず、「入社年次や年齢による昇格判定を行わざるをえない」といった状態に陥っている企業が多数存在します。

②評価制度

評価制度は、「職能考課」「業績考課」「情意効果」で構成されています。



≪評価制度の構成要素≫
(a)職能考課
これは、資格等級を決定するための考課であり、賃金上は昇給に反映されます。「職能考課」が、発揮された能力を評価するのか、それとも保有している能力を評価するのかは、きわめて曖昧です。
多くの企業では「発揮能力」を建前としていますが、この場合、あとで述べる「業績考課」と大部分が重複することになります。一方で、保有能力を評価しようとした場合、評価者の主観や推測に左右される余地が大きく、その評価が恣意的になる傾向があることは否めません。
(b)業績考課
この考課では、仕事の成果(出来栄え)を評価します。業績評価は、多くの場合、MBO(目標管理)と連携して行います。また、単純な結果だけでなく、外部要因の影響や、職務や目標の難しさなどを考慮して、評価を行うのが一般的です。企業によっては、「結果」と「プロセス」に分けて評価を行っているケースもあります。
しかし、日本企業のマネジメントでは、もともと職務の概念が曖昧であり、仕事の結果に対する個人の責任を明確に判断することが困難です。また、そもそも「個人の仕事の結果をきちんと測定する仕組み」も整備されていないケースがほとんどです。
業績考課は、賃金上は賞与に反映されます。しかし、このような評価の難しさから、思い切った評価をつけることができず、処遇が画一化する一因となっています。
(c)情意考課
この考課では、意欲や態度といった「仕事に対する取り組み姿勢」を評価します。じつは、この考課の基準・位置づけは明確ではありません。「職能には“意欲”も含まれるのだから、『職能考課』の範疇に入るべき」という考え方もあれば、「働き振りを評価しているのだから、『業績考課 』の範疇に入る」という考え方もあります。
このような曖昧な考課を長年続けてきたのは、「日本企業が社員のモチベーションの状態を重視してきたから」と考えられなくもありません。なぜならば、モチベーションが高い人材は、それだけで情意考課が高得点となるからです。
③賃金制度
賃金制度は、「月例給与」と「賞与」で構成されています。



≪賃金制度の構成要素≫
(a)月例給与
月例給与は、資格等級に応じて決定する「能力給」がメインとなります。しかし実際には、社員の生活保障の観点を配慮し、「年齢によって決定する給与」(年齢給・本給などと呼ばれる)のウエイトが大きい企業が多くなります。
能力給は、先に述べたようなあいまいな能力考課を行っている影響で、年功的に積みあがっていく傾向が強いのです。加えて、毎年必ず昇給する年齢給があるのですから、月例給は年齢とともに確実に上昇し、賃金格差の最大要因が「年齢」という事態に陥ります。
一般的に、「経験年数が長い年長者ほど職能が高く、賃金も高くなる」という傾向は、否定されるべきではありません。しかし、日本企業の賃金カーブは、欧米の賃金カーブと比べても、年齢にともなう上昇率が高いといわれています。
これは、終身雇用と生活保障の考え方を背景として年齢とともに上昇する生活コストを強く意識しているためです。日本の企業では、生活保障的な賃金カーブを維持することが必要であり、年齢給だけでなく能力給においても、毎年昇進させることが重要だったのです。
(b)賞与
賞与とは、企業の業績変動の影響を受けて変動します。
しかし、賞与も社員の生活給の一部と考えられていて、たとえ企業が赤字になったとしても、賞与がゼロになるということはめったにありません。大企業ならば、赤字であっても“相当の賞与”(月例給の4か月分程度)を支給する企業がほとんどです。
また、個々の社員の業績考課に応じて格差がつけられますが、先に述べたように業績考課自体が心もとないので、大きな格差はつけられません。

月例給と賞与を組み合わせてみると、社員の賃金の重要な決定要因となるのは、第一に「年齢」、第二に「企業の業績」ということがわかります。

社員にとっては、「どの企業で職業人生まっとうするか」という選択肢が、“生涯年収”を決定づけることになります。

※この内容は2003年に書かれたものです。



標準滞留年数
通常の場合、その等級に位置づけられていることが期待される期間。たとえば、「5等級の標準滞留年数が5年」という場合には、ほとんどの人材が5等級に5年間位置づけられるということを意味する。5年以内の昇格や、5年以上の滞留については、相応の説明(優秀である、無能である)が求められる。

MBO
目標管理(Management by Objectives)の略。経営学者のドラッカーがはじめに提唱したといわれている。職務遂行上の目標を掲げ、その目標を達成するという視点で日常生活をマネジメントしていく考え方。
当期の業務計画を上司と充分にすり合わせ、自分自身で仕事の目標設定をする。また、進捗管理や達成状況の評価も自らが行う。上司から一方的に割り振られた仕事やノルマをこなすのと異なり、目標を自ら設定することにより、仕事に対する自己統制とコミットメントが醸成されている。

賃金カーブ
賃金の上昇(下降)の経過をたどったグラフ。日本企業では通常、年齢を横軸にとり、年齢を意識した賃金の上昇(下降)のコントロールを行う。

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