クレイア・コンサルティングは、人事コンサルティングを専門領域とするコンサルティングファームです。
クライアントの企業価値向上、経営革新、持続的な成長を支援します。

企業を取巻く環境が目まぐるしく変化する中で、これまで自社の収益を生み出してきたビジネスモデルが陳腐化し、短期間でビジネスモデルの再構築を迫られるケースが増えています。しかし、多くの企業では既存のビジネスモデルを支えてきた組織や人材が足枷となって身動きをとることができずにいます。先行きが不透明な現在の経営環境において、新しいビジネスモデルに合わせたスピーディーな組織・人事制度の再構築ができるかどうかは、企業の成長または存続にとって、より重要な課題になっていくと考えます。
A社は、高級宝飾品や工業用精密機器などを取り扱う総合商社です。創業以来、信用やブランドが重視される希少性の高い商品の取り扱いに強みを発揮してきました。会社組織は事業部制になっており「宝飾品事業部」はその一つです。海外の著名ブランドから輸入販売権を獲得し、日本市場における総代理店として全国の小売業者に卸売を行うことを主な収益源とし、あわせてショールームも兼ねた自社直営店での小売事業も展開してきました。
ところが、昨年、大きな転換点を迎えます。商品の供給元である現地企業が投資ファンドに買収されたことを契機に、A社との輸入販売権の更新を突然打ち切ってきたのです。宝飾品事業部は収益の柱だった卸売事業を失っただけでなく、仕入価格や販売価格をコントロールできなくなったために、小売事業の利益率も大きく低下することになりました。宝飾品事業部は、総代理店であることを前提としたビジネスモデルを捨て、小売事業だけで利益を生み出すことができる体制を作り出さざるを得なくなったのです。
ここで足枷となったのが宝飾品事業部の人件費の高さでした。宝飾品事業部に所属する社員の処遇体系は他の事業部と同様「商社マン水準」であるため、卸売事業での安定した高収益を期待できなくなった今、この給与水準では到底利益を出すことができません。また、総代理店から小売業に事業を特化するにあたり、これまで重要な役割の担い手だったマーケティング人材が役割を失うことになり、いまや人件費を引き上げるコスト要因と化してしまっていました。
このような状況を踏まえ、A社の経営陣は、小売事業だけで利益を生みだし成長し続けることができる組織に再生するべく、宝飾品事業部を社内の一部門から切り離し、半年以内に人員削減のうえ分社化することを決断しました。こうして宝飾品事業部の分社化と新会社の人事制度構築のプロジェクトがスタートしました。
【現状分析・組織設計】
■分社後に目指す姿の明確化
本プロジェクトでは、現状の問題点を共有し、分社化した会社では、どのようなビジネスを行うのか、その為にどのような組織と人材を必要とするのかを具体的に検討することから着手しました。
前述したように人件費の削減は喫緊の課題ではあるものの、テーマが「ヒト」というセンシティブなものであるが故に、数字の議論からスタートすると議論は往々にして紛糾、停滞し、そればかりか不正確な情報が独り歩きし、優秀人材が社外に流出するなど様々な弊害が生じることになります。そうした状況を回避する為に、今回は、はじめに目指す姿を明確にし、その後、必要な組織、人材についてステップを踏んで確認していくことによって、関係者の認識を確実に共有することを徹底するようにしました。結果として、最後まで大きな議論の揺り戻しは発生することがなく、最終段階での「厳しい案」に対しても、「これまでの議論を踏まえれば、そうせざるを得ない」という合意形成がスムーズに行われることになりました。
ただし、分社化のスキームについては早い段階で明確にする必要があります。これはスキーム次第で法的な制約条件が異なり、分社までの準備タスクが異なること、また準備期間にも影響が生じることによります。時間をかけて議論をする場合であっても、この点には注意が必要です。
【詳細設計】
■段階的なゴールの設定と人事制度の検討
分社化した後の新会社の人事制度設計においては、分社時に実現することと、分社後に進めることの適切な切り分けが必要になります。分社までに全てを網羅的に議論し実現しようとすると短期間での変革は不可能です。一方、分社時点で何も変えなければ、分社の目的が果たせず、社員に対する意識変革の絶好のチャンスも逃すことにもなります。
今回は、総額人件費のコントロールと社員の行動変革を徹底できる「仕組み」の導入を最優先事項とし、「仕組み」をどのように運用していくかは分社後に少しずつブラッシュアップしていくことにしました。具体的には、年功的要素の強かった総合商社時代の報酬体系を全廃し、営業職に対しては個人実績に基づくインセンティブ中心の報酬体系に変更、営業職以外には会社業績と連動した変動割合を高める変更を行いました。卸売事業での安定した収益に支えられ、小売事業で「一円でも多く売ろう」という意識が希薄だった営業職の行動を改善し、自身の専門性への拘りが強く会社業績に無関心だった営業職以外の行動を改善する為です。一方でインセンティブの支給基準に用いる指標など、何によってメリハリをつけるのかについては拙速な変更を行わず、新会社がスタートした後に時間をかけて見直していくことにしました。
分社までにやるべきことの優先順位付けは、時間との競争になりやすい分社化プロジェクトにおいては重要なポイントになります。
■処遇条件とパッケージの設計
分社化プロジェクトが、通常の人事制度構築プロジェクトと異なる点は、社員の移行とアウトフローが発生することです。設計内容が分社化スキームに応じた法的制約をクリアしなければいけないことは当然として、戦力として期待する優秀人材に確実に新会社に移って貰うとともに、一部の社員には自発的にアウトフローして貰えるような仕組みを適切に組み込むことも重要になります。その為の鍵は新しい人事制度の処遇条件と早期退職優遇パッケージの条件のバランスです。本プロジェクトでは、理屈だけではなく全社員を対象とする個別のシミュレーションを何度も繰り返すことにより「優秀社員にとっては新会社に移ったほうが得だが、そうではない社員にとっては早期退職優遇パッケージを選択するほうが魅力的に見える」内容となるよう、条件を精緻に詰めていきました。
【導入支援】
■社員への伝達
リストラクチャリングが目的の一つとなりえる分社化においては、人員削減や報酬ダウンといった厳しい内容の施策を行う為、社員への説明プロセス及び説明内容については特に慎重を期す必要があります。特に、誰が、どのタイミングで伝えるのか、伝え方は説明会形式と文書通知のどちらがよいのかといった点は、組織文化も十分に考慮した上で決定する必要があります。実際に外部コンサルタントが説明しただけで「このような大事なことを社外の人間が決めるのか」という思わぬ反発を引き起こす場合もあります。今回は社員とのコンタクトを人事部に一本化し、我々コンサルタントは後方支援に徹することにしました。具体的には分社までのスケジュールの計画管理、質疑応答リストの作成、配布資料の文言レベルに至る細かいチェック等を行っています。
分社化においては、最終段階でトラブルが発生し、進捗が停滞することがないよう、最後まで会社の状況をしっかりと踏まえた導入計画の立案・運用が重要なポイントになります。
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