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高齢者を活かす

加齢による影響を考慮しつつも、他世代と同様の公正・公平な処遇と適材適所の徹底が肝心


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高齢者活用の現在

2012年に成立し2013年4月から施行された改正高年齢者雇用安定法により、企業において希望者全員を順次65歳まで継続雇用することが義務付けられるようになりました。今までは一定の基準を設け、本人が希望しても基準に満たない従業員は雇用しない選択肢がありましたが、この改正によって希望者全員が雇用されることになりました。この法律は2025年に完全実施されます。

企業が雇用延長をする際の選択肢としては、(1)定年の廃止、(2)65歳までの定年延長、(3)定年後の継続雇用(再雇用)制度の3つがあります。一部の企業では定年の年齢を65歳やそれ以降に延長する動きも出ていますが、多くの企業は(3)の再雇用制度によって対応しており、約10年後の完全実施に向けて、いかに人件費の増大を抑えつつ、高齢者を継続的に受け入れていくか、試行錯誤を続けています。

こうした状況において、多くの企業が高齢者雇用に対して抱いている気持ちを一言で表すと、「再雇用後の賃金水準は下げざるを得ないが、モチベーションは高い状態で働いてほしい」ということになります。

実際の数字を見てみましょう。労務行政研究所の調査(「改正高齢法施行後の状況を見る 中・高年齢層の処遇実態」2013年)では、定年到達時に賃金を下げる企業は約65%、このうち「一律で定年時賃金より減額する」企業は52.9%と過半数を超えています。そして定率で減額する場合の減額後支給率は60~65%が最多となっています。さらに具体的な賃金水準で見ると、再雇用フルタイム勤務のケースでは年収の平均値は328万円で、80%が400万円未満となっています。

多くの企業は、成果主義を導入しつつも年功序列的な運用が続いている中で法改正への対応を余儀なくされました。企業側は定年時までの賃金カーブを元に生涯年収を試算し人件費を調整してきたわけですから、政治的要請としての再雇用に対して「出来るだけ安くあげたい」というのが企業の偽らざる意見となるのは致し方の無いことと言えるでしょう。

また、上記の調査における、企業が考える「中・高年齢層の雇用に関するこれからの課題」では、「定年後のモチベーションアップ」が63.8%とトップで、2位の「職務や役割による処遇体系の整備」の38.6%を大きく引き離す結果となっています。高齢者のモチベーションが低い、とは一概に言えませんが、今後モチベーションアップを図らないといけない、という課題認識が強いことがわかります。

しかし、法律で義務付けられたから定年後の社員を再雇用する、という後ろ向きな意識から導かれるのは、「雇用を維持するなら賃金カットはやむを得ない」という論理に他ならず、そのような考えの中で高齢者のモチベーションアップを図ることはかなりの難題です。

高齢者活用を考える際の視点

このような高齢者の状況を踏まえ、どのような視点を持って高齢者の活用を進めていくべきか。クレイア・コンサルティングでは高齢者活用について以下の3点が重要と考えています。


【1】本人も本気を出しにくく、周りも出させにくい状況にあることをまず認識する

高齢者の活用が難しい理由の一つとして、加齢による体力の衰えや判断力の停滞、健康面での不安などがあると言われます。これは全員に当てはまるわけではないものの、60歳を越えた高齢者では、その健康状態や体力などに個人差が大きく、一概に全員にそれまでと同様の業務を担ってもらおうとするのは無理があります。

厚生労働省の「高年齢者就業実態調査」(2004年)によると、59歳までは男性の8割前後が「フルタイムとして働くことが可能」と回答していますが、60歳以降その比率は低下し、65歳では41.8%、69歳では27.5%しかフルタイムでは働けないと発言しています。

また、当社が2014年に実施した大企業のビジネスパーソン1,600人に対する調査において、60歳以上のシニア社員を除く社員全員に「シニア社員が割り切って仕事をしている印象がある」かどうかを聞いたところ、「ある」と肯定的な回答をした社員が54.9%と過半数を超えました。また、シニア社員自身に「無理にがんばらなくていいと思う」かどうかを尋ねたところ、肯定したシニア社員は40.7%、否定したシニア社員は19.3%となり、仕事に全力投球していない様子が伺えます。この背景には健康状態だけでなく、雇用延長に伴う賃金の低下や、与えられた業務の内容など、様々な要因が隠れていますが、いずれにせよ、本気を出しにくい高齢者が多くいることが伺えます。

企業側も、先述の通り高齢者については賃金水準を下げていますから、定年前と同じ働きぶりをしてもらうのは難しいと認識しています。そして、そのような中でもなんとかモチベーションを高めて頑張ってもらえたら、と漠然と願っているのです。そのため、高齢者が無我夢中で一生懸命に働くイメージを持ち得ておらず、そこまでの期待もあまりかけていない、というのが実情です。


【2】高齢者が培った経験は有用

このように、高齢者の生み出す成果に対しては、一般的に企業も高齢者自身もそれほど大きな期待をしていません。しかし、広く社会を見渡してみれば、若い世代以上に活き活きと活動する高齢者を多く見ることができます。本当に高齢者が定年前と同様に働くことが出来ないのかどうかは、慎重に検証をする必要があります。

慶應義塾大学の髙山准教授の研究によると(ワークス研究所 機関紙Works No.91 2008年)、生涯発達心理学においては、記憶や認知機能といった基本的な能力とは別に、知能や知恵、創造性といった高度な知的能力があると位置づけられており、それらの高度な知的能力は年をとっても伸長したり、衰えにくいことがわかってきたようです。中でも過去に積み重ねた知識や経験の量・機会に大きく左右される「結晶性知能」は、“何かの課題にぶつかったとき、過去の引き出しからそのヒントを取り出し、それを応用することで乗り越える力”になるということです。これこそがまさに高齢者が強みとできるものと言えるでしょう。

先の当社の調査においても、職場にいるシニア社員に対して、「明確に伝えなくても、過去の経験から適切に判断してくれる」という設問には38.4%が肯定(14.7%が否定)、「与えられた仕事は確実に遂行してくれる」という設問には46.3%が肯定(10.5%が否定)しており、これまでに培った経験が有用であることを指し示しています。

また、高齢・障害・求職者雇用支援機構の2013年の調査(「60歳以降の人事管理と人材活用に関するアンケート」)においても、60代前半の活用に関する満足度において、「専門能力」への満足度が86.5%と最も高くなっています。このような高齢者の持つ強みを活かし、企業の業績向上につなげていくことが必要です。


【3】高齢者活用を妨げているのは人事マネジメントの不徹底。当たり前を当たり前に実施すべし

豊富な経験に高い評価を受けつつも、高齢者と企業それぞれがなかなか本気を出せない背景には、人事マネジメントの不徹底が存在しています。

内閣府が行っている「高齢者の経済生活に関する意識調査」を見てみると、「収入のある仕事をしている理由(対象は60歳以上の男女)」が2001年から2011年にかけて変化をしていることがわかります。「生活費をまかなうため」「将来に備えて蓄えをできるだけ増やすため」「生活費を補うため」「おこづかいがほしいから」という賃金に関する項目がどれも上昇をしているのです。

一方、「生きがいを得られるから」「健康によいから」「何もしないと退屈だから」「家業の後継者(子どもなど)を助けるため」「友達がほしいから」といった、賃金と関係のない理由は低下しています。一般的に高齢者はお金よりもやりがいを求めている、といった風説が信じられることが多いですが、実態としては、高齢者は年金支給時期の先送りなどを見越して、以前よりも再雇用後の賃金水準に対する意識を確実に高めていると考えられます。経済協力開発機構(OECD)の調査では、日本の所得代替率(年金支払額が定年前の給与支払額の何割かを示す)が他国に比べ、低いという結果も出ています。

では高齢者が仕事を頑張って成果を上げれば、きちんと評価をされ、より高い処遇が得られるのか、というと、必ずしもそのような状況にはなっていません。そして、これこそが現在の「割り切り」状況を生み出しているのです。

当社の調査では、「がんばってもがんばらなくても評価がかわらない」という質問に肯定回答したシニア社員が、「仕事を割り切る」社員では44.1%、「仕事を割り切らない」社員では10.7%となりました。頑張りや成果が評価に影響しないほど仕事を割り切るシニア社員が増えることがわかります。

また、50代から60代にかけて、評価結果が昇進や昇格、年収に影響を与える割合がいずれも低下しており、60代のシニア社員に対する人事マネジメントが希薄化していることがわかっています。

先の高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査でも、企業における人事評価方法を59歳以前と60歳前半で比較した場合、65.1%が「同じ・どちらかといえば同じ」と回答している一方、34.6%が「異なる・どちらかといえば異なる」と回答しているほか、基本給や賞与、一時金の決め方、昇給方法などを変えている企業が多数にのぼることが明らかになっています。

高齢社員に対しても正当な評価とそれに見合った処遇を行い、能力や知識など、彼らがこれまでに培ってきた経験を十二分に活かせる仕事へと配置するなど、人事マネジメントを一層充実させることこそが、高齢者活用の鍵となります。

当社の具体的な調査結果については、こちらのリンクを参照ください。

高齢者活用に関するサービス・事例集

高齢者を活用していくには、高齢者特有の物理的な制約も考慮しつつ、実力本位での公正、公平な人事・処遇制度を導入していく必要があります。以下はその一例です。

  • 人事制度改革 / 人材ポートフォリオ設計
    ~高齢者を含めた多様な人材ポートフォリオを整備し、適性に応じた人事制度を構築します

  • 中高齢者アセスメント
    ~中高齢者の真の実力を正しく見極めることで、人材の棚卸や本人の意識改革、配置等に活用いただけます

  • 人材育成/人材開発 / 中高年キャリア研修
    ~中高齢者が前向きにキャリア開発に取り組むきっかけを提供する人材育成コースです

    ※ウェブサイトに記載していない各サービスは個別にお問い合わせください

高齢者活用の理解に参考となるリンク集

以下は高齢者活用の理解に参考となるリンク集です。高齢者活用を考える際の参考にどうぞ。

連載系解説記事一覧

2013年10月から現在まで続くシリーズ。明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授野田 稔氏によるコラム。50歳で人生を黄昏(たそがれ)にしないためのマインドセットと自分を変えるための方法論を解説
2013年10月から2014年04月までの連載。これから会社で増え続ける「中高年社員」は、どうすれば50代以降も活躍できるのか、周囲は彼らをどう動機づければ戦力にできるのか、日本マンパワー取締役の片山繁載氏が解説

政府系高齢者関連サイト一覧

効率的、効果的な高齢者雇用を推進するために、高齢者の雇用や再就職支援に関わる具体的な諸問題についての調査研究がまとめられています。

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