自分でやった方が早い|仕事を手放すための任せ方
2026.06.01
2026.06.01
この記事でわかること
- 管理職になると「自分でやった方が早い」と感じ、部下に仕事を任せきれず抱え込んでしまいがちです。短期的な成果や生産性を優先せざるを得ない状況に加え、部下に任せると失敗しやすいことや、一つひとつの仕事の影響が大きくやり直しが効きにくいこと、時間的な余裕のなさが重なり、その判断は繰り返されます。本記事では、仕事を手放せない背景を整理し、誰に・どの仕事を・どのように任せるかを考えることで、任せ方の見方がつかめます。
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明日の会議に向けて、一週間前に資料づくりを任せたはずなのに、部下から今日、資料が上がってきた。内容を見るとこのままでは出せない。結局、自分で夜にやり直す。任せられるなら任せたい。でも、今は自分でやった方が早いし、時間もない。そんなジレンマを抱え、悩むマネージャーは少なくないのではないでしょうか。
コンサルティングの現場においても、経営層や人事ご担当者から「マネージャーにもっと育成に目を向けてほしいが、なかなかそうならない。どうしたらいいか?」とご相談いただくケースが多くあります。しかし、そうはいかない背景があります。マネージャーが「今は自分でやった方が早いし、失敗の影響も大きい」と感じるのは、怠けでも育成放棄でもなく、むしろ自然な反応です。短期的な成果や生産性を優先すれば、「自分でやる」判断は合理的であり、マネージャーだけに原因があるわけでもありません。
本記事では、なぜ「自分でやった方が早い」が繰り返されるのかを整理したうえで、現実的にどのように部下に仕事を任せるのか、考えます。
1.仕事を手放せない背景
(1)何のために、部下に仕事を任せるのか?
(ア)仕事を任せる必要性
仕事を任せるのは、今すぐ楽になるためではありません。任せないままでいるほど、将来も自分が抱え込むことになり、部下を必要とする大きな仕事へのチャレンジが難しくなるからです。部下に任せれば、困難にぶつかることが分かっていても、意図的に成長機会を与えない限り、「まだ任せられない」は続きます。
(2)それでも部下に仕事を任せられないのはなぜか?
(ア)部下に仕事を任せられないのは、むしろ自然である
部下に仕事を任せる必要性を分かっていても、マネージャーの立場では、そう簡単には手放せません。現場では、次のような事情が重なっているからです。
①部下に任せると、失敗する確率が高いから
部下に仕事を任せると、マネージャーが自分でやるよりも、失敗する確率が高くなります。近年は機械化・自動化・AI活用等が進み、人間がやる仕事は高度な専門性・能力が必要になりました。部下の専門性や能力が今と昔で変わっていなければ、仕事の難しさだけが上がっていることになり、部下に任せれば失敗しやすくなっているはずです。
部下が失敗すれば、部下にリトライさせるか、マネージャーが自分で対応するか、いずれかが考えられますが、時間的な制約がある状況においては、マネージャーが自分で対応するしかなくなります。
このような状況では、部下に仕事を任せられません。
②部下が失敗した場合の影響が大きく、許容しがたいから
日本経済は1990年代以降、人口減少に伴う国内市場の縮小や競争の激化が進んでいます。こうした環境では、失敗の影響が大きくなります。
例えば、営業職で考えてみましょう。高度経済成長期には、ある顧客との交渉に失敗しても、すぐに別の顧客が見つかっていたかもしれません。しかし、経済成長が緩やかになった現代では、次から次へと交渉に至る顧客は現れづらいと考えられます。
一つの交渉の重要度や組織・会社に与える影響度が高まっているのです。これでは、マネージャーは部下の失敗を許容しづらくなります。部下に任せずにマネージャーが自分でやる方が合理的です。
③ハラスメント等のリスクがあるから
部下に仕事を任せて成功させようと思えば、部下に対して厳しく指導する・長時間働かせて成功するまでやらせるなどの対応が考えられます。しかし、昨今はハラスメントや働き方改革に対する機運の高まりから、現実的ではありません。
④マネージャーの時間的な余裕がないから
組織のフラット化やプレイングマネージャー化が進み、部下の人数や自分の担当業務が増えている企業も少なくありません。時間的な余裕がなければ、説明して、途中経過を見て、修正する時間も取れません。結果として、「今は自分でやる方が早い」が繰り返されます。
以上のような要因が相互に影響し、仕事が手放せなくなっていると考えられます。
2.誰に、どんな仕事を、どうやって任せたらよいのか?
(1)誰に仕事を任せるか?
では、誰に仕事を任せたらよいのでしょうか。ここでは、能力以外の要素での峻別の方法を考えます。
(ア)報連相ができる部下
まず、失敗する確率をできる限り抑えることを考え、報連相ができる部下に任せるべきでしょう。仕事の途中で報連相があれば、マネージャーが軌道修正でき、失敗の確率を減らせます。
(イ)最後までやり切る部下
失敗が許容できないことからすると、そもそも失敗しない、または成功するまでやり切る部下に仕事を任せるべきでしょう。多少の困難や厳しい指導があっても、最後までやり切るモチベーションやコミットメントが高い部下に任せましょう。
(2)どんな仕事を任せたらよいのか?
コミットメントやモチベーションが高い部下に、高いモチベーションやコミットメントを維持させながら、育成していくためには、どのような仕事を任せればよいのでしょうか。
(ア)達成できるかできないか、ぎりぎりの仕事を任せる
達成できるかできないか、部下にとってぎりぎりの仕事を任せましょう。目標設定理論では、モチベーションにとって最も効果的な目標の水準は、個人にとって成否の確率が五分五分のときと言われています。
(イ)ぎりぎりは、部下の強みが活きる要素とチャレンジングな要素を組み合わせて作る
成否のバランスを調整するため、部下の強みを把握し、部下の強みが活きる仕事と、活きない仕事が織り交ざった仕事を渡しましょう。強みが活きる仕事ばかりであれば、部下にとっては簡単な仕事であり、つまらないと感じるでしょう。逆に、部下の強みが活きるところがまったくない仕事になれば、達成確率が著しく低く、モチベーションを損なう恐れがあります。双方のバランスを考慮して、任せる仕事を決めましょう。
(3)どうやって仕事を任せたらよいのか?
部下の任せ方にも工夫余地があります。
(ア)うまく進めるためのポイントを伝える
例えば、「来週火曜の部長会議に向けて、売上の進捗と対策を3枚でまとめてください」と任せたとしましょう。部下は、我流もしくは先輩・同僚に聞きまわりながら、部長会議の資料を作ると思われます。
しかし、部下なりのやり方でまとめた資料は、おそらく失敗作でしょう。ここで伝えるべきは、「先月の資料を見本にする」「最初に見出しだけ並べる」「数字は経理に確認してから入れる」といった「うまく進めるためのポイント」です。
特に、報連相やコミットメントが十分でも経験や能力がまだ十分でない部下には、このような伝え方で成功をサポートする必要があります。
(イ)仕事の目的を伝える
「この会議では細かな経緯より、今どこに課題があり、次に何を打つかを検討したい」といった目的まで伝えると、部下は単に作業をこなすだけでなく、何を重視してまとめればよいのか、自らで工夫・判断しやすくなります。任せたことをこなしてくれるようになった部下には、工夫余地を与える伝え方が有効です。
(ウ)余裕があるときとないときで、任せる仕事を変える
ただし、いつでも同じように背伸びした仕事を任せればよいわけではありません。マネージャー側に時間的な余裕があるときは、多少ストレッチした仕事でも任せやすいでしょう。
一方で、余裕がないときに難しい仕事を無理に任せると、部下が苦しくなるだけでなく、最後は自分で巻き取ることになりかねません。そうしたときは、「少し頑張ればできそうなこと」にとどめた方が現実的です。
任せる仕事の難易度は、部下の状態だけでなく、その時の自分の余裕も踏まえて調整することが大切です。
3.任せられないと感じてしまう部下にはどうしたらいいのか?
(1)任せられない部下への対応方法
部下の全員が、報連相ができ、コミットメントやモチベーションが高い人材なら困りません。しかし、現実は異なるでしょう。報連相は不足しており、コミットメントも感じられない人材には、難易度が低い仕事を任せるほかありません。しかし、難易度が低い仕事をそのまま渡すと問題が生じます。
(2)難易度が低い仕事を任せた場合の問題点
難易度が低い、そもそも失敗しにくい仕事を任せた場合、部下はできたつもりになります。しかし、マネージャーは低い評価をつけるため、部下から不満が生じるリスクが大きいです。このすれ違いが面談での不満につながっているケースが多くあります。
例えば、部下は「任された仕事はきちんとやったのに、なぜ評価されないのか」と受け取りがちです。一方でマネージャーは、「今の仕事はできて当然で、本当はもう一段難しい仕事を任せたい」と見ています。この期待水準のズレが言葉にされないままだと、評価面談で不満だけが残りやすくなります。
また、部下からの「低評価の理由を教えてほしい」との質問に対する答え方は、よくご質問をいただくひとつです。この不満をできるだけ抑え、部下からこのような不満・質問が生じないようにする方法を考える必要があります。
(3)難易度が低い仕事の任せ方
難易度が低い仕事を任せる場合、コミュニケーションに配慮します。
具体的には、「部下の等級要件などから考えると、任せている仕事の水準が期待に満たない」旨を伝えます。「この仕事はできて当たり前の水準であるが、より大きな期待の仕事に取り組む意欲はあるか?」を確認し、部下にチャンスを与える姿勢を示すことが大切です。
部下からの回答が、「より大きな期待の仕事に取り組む意欲がない」場合は、低評価をつける根拠になります。「より大きな期待の仕事に取り組む意欲がある」場合は、成果へのコミットメントや部下からの報連相を約束させ、やや難しい仕事を与えてみます。
(4)追加で留意しておくべきこと
他のマネージャーや上位者、人事・経営を巻き込んで、組織的な方針として「報連相ができ、コミットメントが高い社員に成長機会を与え、評価する」ことが示せると更によいでしょう。まずは、マネージャー個人が一つの仕事・一人の部下で任せ方を試してみることが出発点です。そのうえで、同じ悩みを持つマネージャーが複数いる場合には、上位者や人事も交え、「誰に仕事を任せるのか」を組織的に考える段階に進むとよいでしょう。
4.明日からできる一歩:マネージャーができること
最後に、部下に仕事を任せるためにできるアクションを整理します。
- 仕事を棚卸しする
自分が今抱えている仕事を具体的に書き出してみてください。そうすることで、何を自分で持つべきか、何を任せられそうかが見えやすくなります。たとえば、次の会議資料づくり、定例会の準備、顧客への回答整理など、思いつくものをそのまま並べるところからで構いません。 - 部下ごとの任せやすさと強みを整理する
次に、各部下について、今どこまで任せられるか、どんな場面で力を発揮しやすいかを整理します。能力だけでなく、途中で相談してくれるか、最後までやり切ろうとするかも含めて考えることが大切です。 - 仕事と部下を対応させる
仕事と部下を対応させてみましょう。誰に何を、どこまで任せるかをあらかじめ考えておくことで、無理のない任せ方を設計しやすくなります。最初は、一人の部下に一つの仕事を当てはめてみる程度でも十分です。 - 部下と面談する
部下に対して、任せる仕事の難易度(期待水準)と、本来は求めたい(等級要件などと比較した)期待水準を分けて伝えます。任せられない部下との面談については、特に留意して進めます。
いきなりすべてを任せる必要はありません。まずは一つの仕事の一工程からでも、任せ方を意識して変えてみることが、将来の抱え込みを減らす第一歩になります。
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