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M&A/事業再編における人事リスク とは

人事制度統合とは、企業の統合や合併といったM&A・組織再編時に、異なる人事諸制度をひとつに合わせることです。人事制度は等級・評価・給与・賞与・退職金・年金・労務管理・福利厚生・教育などの各種制度(以下:人事諸制度という)の集合体として構成されていますが、人事諸制度はそれぞれが密接に連携して整合性を持って構築されています。

従って、企業の統合や合併に際して、人事諸制度をそれぞれの単位で比較検討して統合すると、全体として矛盾や不整合を生じさせる可能性があります。望ましい人事制度統合とは、明確な人事方針に基づいて、人事諸制度が整合性を持って一本化されることであると言えます。


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M&A/事業再編の効果

M&Aによる事業の再編が活発になっている。その背景には、1997年の独占禁止法改正による持株会社制解禁、2001年の商法改正による会社分割制度と労働契約承継法の導入、2007年の三角合併解禁などにより、経営の効率化や事業の拡大・再構築を目的とした事業再編を行いやすい環境が段階的に整備されてきたことがある。

M&A/事業再編の効果として、人事や人材に関する効果を求められるケースは非常に多い。人事や人材に関する効果を主目的としてM&A/事業再編が行われる場合もある。その意味で、人事はM&A/事業再編の効果を大きく左右する。

M&A/事業再編における人事や人材の効果は、概ね次の3つの観点に集約して考えることができる。

1.人員・人件費の非効率解消

事業再編(組織再編)を通じて重複機能を削減し、そこに配置されていた人員を戦略的投資分野・業務に再配置する、もしくは採用抑制やアウトフローによって人員数を絞り込むことによって、人員・人件費の非効率を解消する。

2.多様な人材/組織風土のシナジー効果創出

多様な能力・ノウハウ・経験を持つ人材を交流させること、あるいは異なる組織風土や思考特性を持った組織を統合することで、お互いの強みを組合せ、強固な(あるいは新たな)競争優位要因の構築を目指す。

3.分割の場合

多様な能力・ノウハウ・経験を持つ人材を交流させること、あるいは異なる組織風土や思考特性を持った組織を統合することで、お互いの強みを組合せ、強固な(あるいは新たな)競争優位要因の構築を目指す。

M&A/事業再編における人事リスク

しかしながら、M&A/事業再編の場面では、人事や人材の効果を実現できないばかりか、人事が障害となってM&A/事業再編自体が頓挫してしまう場合も少なくない。

M&A/事業再編において人事が障害となってしまう背景には、人事に関するリスクの複雑さにある。例えば、給与や退職金・年金といった処遇を統一しようとすると、不利益変更の「法的リスク」と「人件費増大リスク」がトレードオフとなる。また、そもそもM&Aは多くの従業員にとって“不安要素”であり、不公平感や被害者感情などが発生しやすいといった「モチベーションリスク」も存在する。そのため、人事の統合作業には難しいかじ取りが必要となる。

一般的に事業再編が行われると、自分が所属する会社が消滅したり、組織構造や組織の統治構造が大きく変化する。新卒で入社して定年退職まで勤め上げることが一般的であった日本の大企業社員にとって、事業再編は「一大事」だ。特に、事業再編によって生じる、等級・評価・報酬・就業規則・福利厚生・教育体系といった人事諸制度の変化は、社員のキャリア設計や生活設計、日々の働き方にも大きな変化をもたらすこととなる。

事業再編が行わる際、人事諸制度は一般的にどのように扱われるのか?1つの会社となる以上、理想的には可能な限り人事諸制度を統合していくことが望ましい。しかし、人事諸制度の統合には次の4つのリスクが伴うことをまずは認識する必要がある。

《モチベーションリスク》
人事諸制度の統合によって一方の企業社員の労働条件が悪化し、不公平感や被害者意識が発生する可能性。具体的には、将来が不透明なことによる「不安感」、処遇格差などによる「不公平感」、処遇引下げなどによる「被害者感情」、公平な評価の不在などによる「閉塞感」など

《法的リスク》
労働条件を悪化させる変更(不利益変更)によって社員から訴訟を起こされる可能性。

《人件費リスク》
労働条件の悪化を避けるために労働条件の良い企業に合わせて人事諸制度を統合することによって生じる人件費増大の可能性

《運用リスク》
旧企業間で評価者の能力や労務管理の慣習などが異なることにより、人事諸制度を統合しても公正に運用されない可能性

これらのリスクはトレードオフの関係にあり、リスクを完全に排除することは難しい。リスクの発生可能性と、リスクが顕在化した場合の影響度を見極めながら、人事諸制度の統合を進めることが必要になる。

事業再編の種類と人事課題

事業再編には「統合」と「分割」の2つの方法があり、それぞれで人事の課題も異なる。はじめに「統合」の典型例である「合併」を取り上げる。

合併には、「吸収合併」と「新設合併」の2種類があるが、手続きがより簡易な「吸収合併」が利用されるケースが多い。「対等合併」と報道されているような事業再編も、手続き上は「一方の企業が他方を吸収する」ことが多い。吸収合併の場合、吸収される企業の人事諸制度は、吸収する企業に包括的に承継されるため、合併後も複数の人事諸制度が併存することとなる。しかし、合併企業において複数の人事諸制度が併存することは様々な人事課題を引き起こす。

まず、勤務時間や休憩時間、休日などの基本的な就業条件が異なると、一緒に仕事がしづらい。例えば、同じ職場なのに始業時間が異なると朝礼ができない。出張時の宿泊代が異なれば、出身元が異なる社員同士が一緒に出張しても同じホテルに泊まれない。

また、同じ業務や役職に従事する社員の評価基準や賃金水準が異なれば社内の公平性が保てない。特に収益性が低い企業の賃金水準が高い場合は、もう一方の企業の社員から大きな不満が出る。賃金水準が低いものの収益性が高い(労働生産性が高い)企業の社員のモチベーション低下や転職は大きなダメージとなる。

次に、「分割」による事業再編時の人事課題としてどのようなものが挙げられるか? 事業分割の主な目的は、業種業態に適したマネジメントの追求、成長事業の分離独立、事業売却等である。事業分割の方法には「新設分割」と「吸収分割」がある。新設分割とは、新設した企業に分割事業の権利義務を移す方法、吸収分割とは、既存の企業に分割事業の権利義務を移す方法であり、いずれも分割後に人事の統合が行われる。事業分割では、一部の社員が別の企業に転籍することになる。通常、転籍には従業員の個別同意が必要となるが、会社分割制度を活用した事業分割の場合は、労働契約承継法(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)に従って分割前の労働条件を包括的に継承するため、個別同意の手続きをとらずに事業分割を行うことが可能となる。しかし、労働契約承継法による分割手続きは、事業分割の目的達成の観点からいくつかの課題も残っている。

まず、業種業態に適したマネジメントの追求が目的である場合、人事諸制度も業種業態に適した内容にすることが必要だ。例えば、給与水準を職種別の外部労働市場水準に合わせて中途採用の競争力を高める、評価基準や昇格基準に業種特有の要件を反映する、固定給と変動給の割合を変えて社員のモチベーションを高める等の工夫がある。

社員の同意を得られる前提であれば、会社分割制度を活用して人事諸制度を変更することも可能だ。ポイントは、分割後の明確な事業ビジョンと社員のコミットメントを強化することだ。例えば、分割前には実現できなかった抜擢昇格制度の導入、業種業態に適した勤務体系や教育制度の整備、業績連動型の賞与制度の導入など、分割された社員が「移籍してよかった」と実感できる施策が必要だ。

また、事業分割後は企業規模が小さくなるため、キャリアの選択肢を狭めないよう、グループ会社間のローテーションや幹部人材向けの登用制度を整備しておくことも必要となる。

このように、事業再編の種類によっても統合対象企業が直面する人事課題は異なる。事業再編に直面した際、人事部門は経営層と共に統合後の組織運営の方向性を明確に定めておく必要がある。

ハードとソフトの統合

事業再編では、人事諸制度などハードの統合だけでなく、社員の思考様式や価値観など、ソフトの融合も重要となる。「統合会社の企業文化」は一朝一夕には形成されない。元来「企業文化」とは各社の歴史的背景や事業構造に根差したものであり、人事諸制度等のハードが統合できたとしても、新たな企業文化の形成にはやはり時間がかかる。一方で能動的な働きかけを行わなければいつまでも新しい企業文化が形成されず、従来のやり方が温存され、統合会社としての判断が遅れたり、非効率が生じる恐れがある。早期に統合効果を実現するには、統合前の旧社のいずれにもよらない「新たな企業文化」を設定し、経営陣が様々な場面や機会を通じて統一のメッセージを発信し続けるほかない。

そのためには、多くの社員がM&A/事業再編の目的とビジョンをできるだけ前向きに受け止められるような情報発信(コミュニケーション)が重要だ。

そもそもM&A/事業再編は社員にとって不安要因である。また、M&A/事業再編では秘密裏に検討が進むことも多く、社員にとっては背景や趣旨を十分に理解・咀嚼する余裕がない場合も多い。何も手を打たなければ、M&A/事業再編に関わる情報発信を保守的・保身的な受け止め方で解釈する可能性が高い。

このような認識に立ち、M&A/事業再編を成功させるためには、ハード(仕組み)の構築・統合だけでなく、ソフト(人心)の変革・統合に対しても周到な準備を行うべきである。具体的には、様々なメッセージ発信を、整合性を持って適切なタイミングで行うためのコミュニケーションプランや、社員の理解度やモチベーションの状況を把握するための社員意識調査などについても準備しておくことが求められる。

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