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【事例2】 若手・シニアを含む全社員の活躍を促す定年延長

SUMMARY
  • 定年延長・再雇用制度の見直しと人事制度改定を同時に実施した事例
  • シニア社員だけの一側面に着目するのでなく、若手社員からシニア社員に至るまでの包括的な人材マネジメントの見直しを実施
  • 制度上は大幅な処遇改善を実施しつつ、単なるコストアップでなく生産性向上を意識した制度と運用とするため、人材のポテンシャルを引き出し、年功的処遇でなく実力に応じた処遇を徹底できる仕組み、例えば外部のモノサシによるアセスメントの導入や、同僚や部下の立場で上司のマネジメントを観察する多面評価の導入により、より実力を見極めた昇格・役職任用ができる仕組みへと見直した
  • また単に定年を延長するだけでなく、現行の定年年齢である60歳を境に後進の育成に軸足を置いた役割へシフトできるよう、1年以上前から60歳以降の役割を会社と個人の間ですり合わせる機会を設け、60歳に到達した時点で新たな役割と、それに応じた処遇へ移行できるよう、無理の無いコミュニケーションが行われる運用を設計した

クライアントプロフィール

業種
東京に本社を置く、全国規模で工場を持つ化学繊維メーカーA社
従業員数
約1200人

プロジェクト開始の背景

順調に業績拡大・拠点拡大を続けるA社でしたが、新たな製造拠点の拡大に伴う人員確保に課題があったと伺っています。これまで中途中心で採用してきたため社内の高齢化が進み、また、20年ほど前から新卒採用も始めたそうですが、若手の定着が悪い状況でした。頼みの古参のベテラン社員は年の離れた若手とうまく連携できず、特に60歳定年後は処遇も半減となりモチベーションも大きく低下する状況で、年下上司にとってやっかいな存在になるベテラン社員が多く存在するなど様々な要因があり、せっかく育ったリーダー層も疲弊し、退職に至るという悪循環が発生していたそうです。

想定された課題とは

定年延長をするにあたり、シニア社員の安全や健康に配慮した職務を確保と、役職定年後の職務に応じた処遇決定方法が大きな課題でした。また、若手社員にとっては、何の得にもならない制度改定だと思われモチベーションを下げる懸念があり、若手社員へのケアも併せて行うことが求められました。

どのような形でプロジェクトが始まったのか?

定年延長の実施だけでなく、会社全体の課題を的確にとらえながら全人事制度の改定をすすめていく、という出発点からスタートしました。A社の人事チームと部門別に丁寧なヒアリングを通して課題を洗い出し、その課題に対応する人事制度の設計をすすめました。設計する上では、単なる定年延長に終わらず、若手~シニアの全社員の包括的なマネジメント施策の1つとする、ということがキーポイントの1つでした。

プロジェクトの内容

1. 人材活用の阻害要因の調査

人材活用の阻害要因を調べるべく、キーパーソンへのヒアリング調査を実施しました。

1-1若手の定着が悪い原因は多く存在していましたが、主に以下のような原因が想定されました。

①若手にとって将来のキャリア・パスが見えていなかったこと(会社としても示せていないこと)

退職者の実態

②余裕のない人員の中でシフトを組んでいたため自由に休みを取ることもできず、残業や休日出勤を要請されることも多く他社に比べてプライベートの充実が見劣りしていたこと

休日数と労働時間が採用競合に見劣り

③様々な研修等は用意されていたが現場でのOJTに問題があり、個々人の特性に合わせた仕事のきめ細かなフォローも十分でなかったこと

人員配置

1-2シニア活用がうまくいっていない原因は以下のようなものが想定されました。

2013年の継続雇用義務化にあわせ、60歳定年後に希望者全員を再雇用する仕組みを整えたが、本人にとっては仕事や期待役割がほとんど変わらないまま給与だけが半減され、それまで活躍していたベテラン社員も言われたこと以上のことをやらない状態になってしまっていたこと

賃金カーブ

②旧定年の名残で管理職には55歳での役職定年ルールが存在していたが、後任がいないという理由だけ55歳を過ぎても役職から外れない社員が多数存在し、発言力の強い社員が自身の処遇を下げたくないという理由で役職をはずれても処遇が維持されるケースがあるなど明らかな不公平が横行していた

シニア人材処遇制度

③シニア社員本人に対しても、年上部下を扱う上司に対しても、双方にとってWinWinとなる役割付与やマネジメント教育がされておらず、定年後はお互い不干渉とすることが暗黙の了解となっていたこと

2.人材活用シナリオの設計

若手社員が定着し、年齢に関係なく長く働き続けられる環境になるよう、制度と運用を再構築しました。
①若手社員には早く成長実感が得られるよう、中長期のキャリアを含めた育成・評価・処遇ルールへ変更

人材育成の全体像

②現在の定年後再雇用者も含めてシニア社員の役割を明確にすると共に職務に応じた処遇に改善する

処遇改善イメージ

③今後10年以内に全社員の1/3超の人員が60歳超となるなどさらなる高齢化が想定されるため、定年を65歳に引き上げ、年齢に関係なく働くことができ、年上部下も当たり前にマネジメントできる環境を整備する

3.定年延長・再雇用制度見直しを含む新人事制度のグランドデザイン

若手社員の処遇改善、定年後再雇用者の処遇改善、定年延長と、総人件費が大きく増加することが容易に想定されたため、中長期的に見て単なるコストアップとならないよう、いかに生産性向上につなげる仕組みとするかが最大の焦点となりました。

新人事制度グランドデザイン

一方で、前述の方針では現状のように一定年齢で一律給与をカットするような施策は採れないため、従来よりも人材のポテンシャルを引き出し、年功的処遇でなく実力に応じた処遇を徹底できるよう、制度と運用を設計することとなりました。

人材育成と処遇改善

例えば、従来管理職への昇格は一定年齢になればほぼ全員が上司から推薦され、実質的な審査がされないままほぼ全員が管理職に昇格する仕組みでしたが、外部のモノサシによるアセスメントの導入や、同僚や部下の立場で上司のマネジメントを観察する360度評価の導入によって、より実力を見極めて昇格させ、昇格後も安泰でなくいつでも適切な人材に入れ替えることができる仕組みへと見直しました。

アセスメントの特徴
アセスメントと360度評価の特徴

また単に定年を延長するだけでなく、現行の定年年齢である60歳を境に後進の育成に軸足を置いた役割へシフトできるよう、従来は60歳定年の3か月前に定年後再雇用の希望を打診し一律処遇を下げるような運用でした。しかし、新制度では30代から自信の実力や付加価値を高めるための意識付けを行うと共に、50歳時点で60歳以降の役割や働き方について研修を通じて意識させ、59歳時点で60歳以降の役割を会社と個人の間ですり合わせる機会を設け、60歳に到達した時点で新たな役割と、それに応じた処遇へ移行できるよう、無理の無いコミュニケーションが行われる運用を設計しました。

キャリア研修プラン

4.等級・評価・報酬(給与・賞与)制度の見直し

若手社員には早期に成長実感が得られるよう、キャリアステップの明確化と安定的に昇給する仕組みに加え、実力次第で大きく昇格できる仕組みを整備しました。

典型例1管理職コースキャリアパス
典型例2管理職コースキャリアパス
典型例3専門職コースキャリアパス
典型例4専門職コースキャリアパス

評価制度についても、業績数値など自身ではコントロールしにくい評価項目が中心であったため、将来的に組織成長を牽引するリーダーとなるためのコンピテンシーを定義し、自律的な能力開発を促すとともに、上司側でも実力を見極めた上での配置・登用ができるような新たな評価の枠組みを構築しました。

能力定義

シニア社員には60歳を境に後進の育成に軸足を置いた役割へシフトしてもらえるよう、60歳以降の役割や本人が希望する働き方に応じた職務へ見直し、それに応じた処遇に見直せる仕組みを構築しました。

シニア人材の処遇制度改定

5.退職給付制度の見直し

退職給付制度については、65歳への定年延長に伴い退職時点の給付水準をどうするかが議論となりました。①60歳時点の給付水準と同じ水準を65歳時点に支給するようにモデルを見直す、②60歳時点の給付水準は変えず給付タイミングだけ65歳まで遅らせる、③60歳時点の給付水準は変えず65歳まで働いた場合以前よりも良い給付水準となる、の3点で検討し、勤続年数が短い中途社員が多数を占めるA社では③を採択することとなりました。
但し追加コストがどの程度になるのかは慎重に検討してテーブルを設計しました。

退職一時金

その後

現在の状況について

定年延長から数年が経過しましたが、特に大きな混乱もなく、業績も順調に拡大しています。以前よりも若手社員の定着が良くなり、キャリア・パスの提示により働く上での安心感が生まれた、との声も出ているようです。定期的なコミュニケーションが継続して行われることにより、個々の体力や希望に沿ったシニア社員の活用も進んでいるとの話を聞いています。

プロジェクトの成功要因

特に、導入にあたって社員説明をより丁寧に実施し、管理職向けのトレーニングも手厚く実施したことがスムーズな導入につながったと想定されます。当初は、役職定年以降の職務に応じた処遇のイメージを共通化できず「厳しい制度になるのではないか」という懸念が出されていましたが、評価制度を丁寧に設計し、社員目線での説明の徹底や、職層別の説明を実施することで、納得感を醸成することができました。管理者向けのトレーニングでは、長期的なコミュニケーション方針の共有を行い、新しい制度での摩擦を最小限にし、運用していくことができたと聞いています。

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