組織診断とは、組織成員の意識状態や職場行動の実態/背景要因を明らかにすることによって、組織変革(チェンジ・マネジメント)を成功させる上で着目すべき課題の特定や解決策の立案、効果測定に役立てるものです。
組織診断が必要となる背景
組織変革のプロセスを適切にコントロールするためには、組織の「ハード構造部」と「ソフト構造部」の2つに着目する必要があるといわれています。
「ハード構造部」とは、戦略・計画・組織構造・制度・仕組みなど、変化が目に見えやすいものをいいます。会社を変えるためのオーソドックスなアプローチは、まずこれらのハード構造部からつくり変えていくことです。つまり、環境の変化に合わせて戦略を見直し、新しい戦略を実行するための組織をつくり、組織を機能させるための制度・仕組みを構築する、というステップになります。
「ソフト構造部」とは、人材やスキル、風土・価値観といった、変化が目に見えにくいものをいいます。これらのソフト構造部をいきなり変えることはできません。ハード構造部(組織や制度・仕組み)を正しく機能させることで、だんだんと人の能力や意識が変わっていくという関係にあります。
つまり、会社を変えようとするには、まずハード構造部を変えることが必要ですが、それだけで人の能力や気持ちが期待したとおりに変わっていくとは限りません。
新しい仕組み・制度がうまく機能するかどうかの確証を得るためには、「なぜこれまでうまく機能しなかったのか?」「うまく機能していたことは何か?」という現状を正しくおさえておくことが欠かせません。こうした現状を把握しないまま、新しい仕組み・制度に移行したとしても、これまでと同じような問題が発生したり、これまでうまくいっていたことが失われてしまう恐れがあります。
このように、組織変革の仮説を検証し、実行を管理するためのツールが組織診断です。
組織診断の機能
1. 組織変革を促進または妨げる要因(変革ドライバー)の実態を把握すること
組織変革の最初のステップでは、「変革のゴールに向けてどのような施策が効きそうか?」という問題を探索する必要があります。変革のレバーがどこにあるかを探索するためには、組織変革を促進または妨げる要因(変革ドライバー)を構造的に把握することが重要です。
変革ドライバーには次のようなものがあります。
問題意識の強さ
社員が今の業務の進め方や品質について強い不満や問題意識を感じている場合があります。こうした問題意識は決して悪いものではなく、変革を促進する原動力として活用しうるものです。逆に、そもそも問題意識を感じていない組織は、変化の必要性や方向性を浸透させるためにかなりの労力を要する手ごわいケースです。
解決への自信
社員が現状に強い問題意識を感じており、変革の必要性を感じている場合でも、「自分たちでは何も変えられない」とあきらめ感が蔓延しているケースがあります。自分たちで組織を変えていけるという自信や手ごたえが乏しい場合には、そのような気持ちに陥らせている要因は何か(解決すべき障害はどこにあるのか)を探索しておかないと、変革を推進する心理的エネルギーを確保することができません。
上司のマネジメント力/部下との関係
上司のマネジメント能力は、変革を実行する上でカギを握ります。上司の問題解決機能(例:意思決定・判断・調整)を部下が日頃から頼りにしている状態であれば、上司に強力な責任意識と権限を与えることで、変革を効果的に実行できると期待されます。ところが、上司の問題解決機能が乏しい(権限が与えられていない)組織は、一般に部下と上司の人間関係は良好(仲良し)で、上司が経営的な視点で問題を捉えていないケースがよく見られます。
社員のモチベーションの源泉
社員が日常業務を遂行する上で、何に関心を持ち、何を重視し、何に達成感を感じているのかを深いレベルで理解しておく必要があります。これらの根源的なモチベーションの源泉を顧みずに、キャリアパスや評価の仕組み・基準の構築を進めてしまうと、現場での運用にあたって矛盾や不都合が必ず起こってきます。
2.変革を実行・継続する上で手を打つべき問題の所在を特定すること
組織変革のゴールと大まかな施策の方向性が決まったら、次はそれぞれの施策の要件を具体化していく必要があります。例えば、業績評価制度や人事評価制度を通じて、人の意識や行動の変革を図っていく場合、どの社員層にどのようなメッセージが伝わるようにしなければならないか、といった要件を具体的に検討していくことが求められます。
要件を具体化していく上で役立つのが組織診断です。部門別、職種別、職位別など属性別に、社員の意識状態と組織行動の実態を集計・分析することができるので、どこの層を重点的なターゲットとして変革を図るべきかを検討するための材料となります。また、同じ部門・職種であっても、高スコア/低スコアの職場を抽出し、回答傾向に影響を与えている要因を明らかにすることによって、施策の要件を考えるためのヒントを導くことができます。
3.組織の現状を見える化して、社内キーマンの危機感を醸成すること
人の能力や気持ちといったソフトの要素は、経営幹部や管理職が日頃から違和感を持っていても、「何がどう問題なのか」、ということをわかりやすく整理して社内に伝えることが難しいという問題があります。
組織診断は、組織の現状を見える化し、社内の関係者に危機感を醸成する上で有効なツールとなります。例えば、同じ業態・業種の会社と比較して、ビジネスの特性から本来持つべきマインドの醸成や組織行動の発揮が阻害されているとしたら、今後も会社が競争力を維持していく上で危機的な状況であるというメッセージを伝えることができます。このように、「現状を変えなければならない」という危機意識を喚起し、キーマンを巻き込んでいく過程で効果を発揮するのが組織診断です。
クレイア・コンサルティングが提供する組織診断の特長
1.パッケージ化された診断ツールではなく、仮説に基づいてカスタマイズしたオリジナルの診断を提供
クレイア・コンサルティングは、パッケージ化された診断ツールだけでなく、それぞれのクライアント企業が抱える組織変革のニーズに基づいてカスタマイズした診断を提供します。
ある企業の事例では、新たに社外から登用された代表取締役社長から次のような要請がありました。
- 「まだ着任したばかりだが、この会社の仕事のやり方に非常に違和感を持っている。」
- 「業界の常識に照らして解決すべき問題が山ほどあると感じているが、社内の人は『おかしい』と思っていないようだ。私が口で言っても理解してもらえないので、何らかの方法で『これは問題だ』という事実を突きつけて、危機意識を持たせられないだろうか。」
- 「そもそも社員に問題意識がないのか、問題だと感じているが変えられないと諦めているだけなのか、どっちなのかよくわからない。」
- 「組織変革のテーマはだいたい目星がついている。ただ、それを実行したときに、社員のマインドや実力、組織のキャパシティが追い付いてこられるか心配だ。事実やデータで裏付けを持っておきたい。」
この事例においては、新社長の感じる「違和感」をデータで浮き彫りにできるような質問項目の設計を行いました。質問項目ごとに、どういう分析をしてどういう示唆を導き出したいか、の仮説を事前に議論しながら、質問項目の絞り込みや修正を行いました。
また、この会社の競合相手と考えられる業種・企業規模のサンプルを抽出して、ベンチマーキング調査も実施しました。この会社の特性(強み・弱み)がくっきりと表れるように、質問項目の絞り込みや修正を行いました。
さらに、新社長が構想していた将来施策(組織編成の見直し/リーダーシップ開発の強化/評価・報酬制度の改定)を企画・実行する上で有益な示唆が得られるように、現状の問題と背景要因が浮き彫りになるような質問項目の設計・分析を行いました。
2.自社が比較したい対象業種・職種のサンプルを対象にベンチマーキング
分析にあたっては、比較の対象として相応しい業種・職種をサンプルに選んで同じ質問項目について調査を実施し、結果の比較ができるようにしています。
→詳しくは従業員満足度調査(ES調査)を参照
3.社員やキーマンとのコミュニケーションツールの開発
社内の関係者に危機感を醸成し、キーマンを変革のプロセスに巻き込んでいくために、組織診断の結果をわかりやすく整理し、伝えたいメッセージを強調した形で発信していく必要があります。
クレイア・コンサルティングでは、目的に応じて組織診断の発信の仕方をカスタマイズします。例えば、以下の場面に対応したコミュニケーションツールの作成をご支援しています。
- 親会社に対して、経営陣が組織の現状と課題をレポートし、支援を要請する場面
- 部長クラスに対して、全社で取り組むべき組織課題を認識させ、危機感を持たせる場面
- 課長クラスに対して、自組織のマネジメントを改善していくための問題発見と対策考案の方法をトレーニングする場面
- 全社員に対して、会社の新しい制度・仕組みを導入するに至った背景/危機意識/目指す姿を前向きに捉えてもらう場面
組織診断を実施する際の流れ
1.分析仮説と質問項目の設計
設計フェーズで行うタスクは以下のとおりです。
- 【タスク1】
- プロジェクト責任者にヒヤリングを行い、調査をどのように活用するかの目的を設定します。
- 【タスク2】
- 活用目的を踏まえ、調査でどのような示唆を導き出さなければならないかを検討します。
- 【タスク3】
- どのような質問項目を聞いておけば、モレなく組織の問題を把握できそうか検討します。
- 【タスク4】
- 回答結果をどのように分析すれば、求める示唆が導けそうかを検討し、必要に応じて質問文の内容や順序、聞き方を見直します。
- 【タスク5】
- 質問文が誤解なく伝わるかどうかの検証を行います(一部の部署を対象にパイロット調査を実施する場合があります。)
下表は、調査項目を設計する流れ(上記、タスク2~3)の例です。まず組織行動モデルを仮定して、今回の調査で測定したい対象分野を特定します。
次に、それぞれの対象をどういう切り口で測定すべきかを検討し、網羅的に質問項目を導き出します。フレームワークに沿って網羅的に項目を洗い出すことによって、問題把握のモレを回避すると同時に、問題の所在を具体的に特定できるようにします。
2.実査
組織診断では、人の気持ちや職場の雰囲気といったソフト面の現状把握が重要になるため、調査手法としては社員へのアンケート/ヒヤリングを主体に行う場合が多くなります。ただし、実態をより正しく把握するために、客観的なデータとの比較・分析を組み合わせて実施する場合もあります。
全社的な生産性向上プロジェクトの一環として設計・実施した組織診断の例では、生産性向上に対する社員の意識やお互いが感じている組織行動の問題についてアンケート調査を行うとともに、客観的なデータ(部門別の予算達成率や残業時間実績)と意識調査結果を比較することによって、なぜ実態と意識に乖離があるか解釈を加えながら分析を行いました。
社員へのアンケート方式で組織診断を行う場合、PCで行う場合と紙媒体で行う場合の2つに対応できます。販売店のように端末が一人一台貸与されていない場合には、紙媒体で実施することがあります。
PCで回答してもらう場合、クライアント企業のイントラネットを活用することもあれば、インターネット上に専用の回答ページを用意して回答していただくことも可能です。
アンケートで従業員の率直な回答を引き出すためには、匿名性が確保されているという安心感が不可欠です。安心して回答してもらうためには、
- 外部の企業が集計・分析を行うこと、
- 回答データは加工して活用すること(回答内容がそのまま伝わることはないこと)、
- 現状分析の目的以外には使わないこと、
を強調することが重要です。
3.分析
設計段階での仮説に基づき、データ分析を進めていきます。問題のテーマごとに、「1. どういう疑問に答えを出したいのか」、「2. 意識調査から読み取れることは何か」、を論理的な筋道に沿って分析していきます。
下図は分析レポートの例です。人事評価・報酬制度が正しく機能しているかどうかを、質問項目間の回答のギャップに着目して分析しています。
4.フィードバックと社内コミュニケーションの支援
調査から読み取れる示唆をキーマンにフィードバックし、ディスカッションを通じて課題認識を共有・深堀していきます。
経営幹部など意思決定者クラスに調査結果をフィードバックするときには、調査による結論がどのようなデータの分析・解釈に基づくものであるかを引用しながら、回答傾向の背景にある本質的・構造的要因を明らかにすることで、組織変革の方向性を判断する上で有益な材料を提供できるようにしています。
部門ごとの責任者に危機意識を持たせたい場合には、部門別に着目・改善すべき項目をハイライトしたフィードバック・レポートを作成・配布したり、管理職層のワークショップ/トレーニングの場で議論の材料として活用することもあります。