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企業文化統合の進め方

SUMMARY

企業文化統合とは、会社統合の際に、新会社としての価値の発揮や社員の一体感の醸成を目的に、新たな企業文化を形成するために行われる施策です。

企業文化統合とは

企業文化統合が必要とされる背景

会社統合によって誕生した新会社の企業文化は、旧会社の歴史的背景や事業構造に根差した各社の社員の価値観・思考様式に基づいて形成されています。各社の成り立ちや経営方針には違いがあるため、たとえ同業とのM&Aやグループ会社間での組織再編であっても、企業文化の統一は容易ではありません。

本来、企業文化は時間をかけながら独自に形成されるものです。組織体系や人事制度といったハード面での統合が完了したとしても、新会社の企業文化が直ちに統一されることはありません。旧会社の企業文化が一朝一夕に形成されたものではないのと同様に、新会社の企業文化が自然に醸成されるのにも一定以上の時間が必要です。

当然ながら、新会社は出来るかぎり早期に統合効果を高めることが期待されます。その一方、M&A案件で期待以上/期待どおりの成果を上げたと考える企業は約半数にとどまるという研究結果があり、なかでも、組織風土・文化は組織統合プロセスにおいてとりわけ困難な事項に挙げられています(*1)

そのため、統合後、早期に社員の価値観・思考様式を統一することは重要なテーマの一つとなります。

企業文化統合の機能とメリット

企業文化は、「企業と従業員との間で意識的あるいは無意識的に共有されている独自の価値観・思考様式」と定義されます。

企業文化は社員の行動指針として機能します。企業文化が浸透していれば、日常業務においてトラブルや迷いが生じた際にも社員が自発的に行動できるようになるため、意思決定の迅速化が図られます。

また、価値観・思考様式の共有・統一はチームワークの強化や社員間の協力の推進をもたらします。中長期的には、帰属意識の醸成が図られるため、採用活動の成功や離職率の低下への影響も期待できます。

企業文化を統合しない場合に起きる障害・影響とは

新会社の社員が各社の企業文化の違いを最も感じやすい場面は、統合後の日々の業務です。同じ業種や業態の顧客を相手にしていた営業部隊であっても、各社員の出身会社によって、クライアントに対するアポイントメントの取り方や訪問時の人数、プレゼンの内容やキーとなる発言者、見積もりの出し方、社内承認の取り方など、ありとあらゆる要素が出身会社ごとに違うことを肌で感じることになります。

新会社の企業文化が自然に統一されるのを待つとなると、その間、社員の価値観・思考様式のバラつきが放置されたままになります。

統合を機にせっかく導入した新しい仕事のやり方も、その重要性が理解・実践されない状態が続くと、新会社のあるべき姿はなかなか実現されません。例えば、旧会社のやり方が温存されるために、お互いの違いがチームとしての一体感を低下させたり、反対に過度な他者尊重が生じて適切に理解されなかったりすることなどが危惧されます。

また、新会社としての判断基準や拠り所となりうる企業文化が統一されていないと、一人ひとりの社員が旧会社での判断基準をもとにばらばらに意思決定をすることになります。そのため最悪の場合、統合効果を得られないだけでなく、組織の停滞さらには会社業績への悪影響さえ懸念されます。

クレイア・コンサルティングが提供する企業文化統合の特長

企業文化統合は、旧会社同士の違いを受け入れたうえで、新会社の方針に照らし合わせながら、最適な方法を一つひとつ選択していく作業です。

クレイア・コンサルティングでは、現状とあるべき姿を明示しながら、新たな企業文化の浸透を妨げる要因を十分に検討したうえで、各社の状況に応じて適切な対策を講じます。

企業文化統合手法

①新会社における価値観・思考様式の定義

新会社における価値観・思考様式の統一を図るために「統合時点における旧会社の価値観・思考様式の現状」を把握したうえで「新会社の価値観・思考様式」はどうあるべきかを定義します。

具体的には、従業員サーベイや探索型インタビューをつうじた現状分析をもとに、新会社のあるべき姿を構築します。

従業員サーベイと探索型インタビューの事例

旧会社の価値観・思考様式を把握する目的で、当社が実際に行った「従業員サーベイ」という調査手法を用いた事例をもとに解説します。

まず、調査の実施にあたり、分析のフレームワークを設定しました。

次に、業務遂行プロセスを「問題の発見⇒問題への対応⇒解決策の模索⇒結果の検証」の4つに区分し、各プロセスで現れる「標準化されていない行動(具体的な手順・ルールが決まっていない行動)」における各社の価値観・思考様式を、旧会社それぞれの共通点・相違点から分析しました。

また、暗黙的である組織の価値観・思考様式をより具体的に抽出するために、サーベイの実施にあわせて複数の社員に対して探索型のインタビューを実施し、仕事の実例を掘り下げたヒアリングを行うことにより、背景にある価値観・思考様式の「共通性」と「再現性」を分析しました。

このように調査・分析の結果をもとに旧会社の価値観・思考様式の特徴を把握したうえで、新会社の価値観・思考様式のあるべき姿を構築していきます。

②新会社の企業文化浸透・定着にむけた課題と対策の検討

①で定義したあるべき姿を社員に浸透させつつ、業務手順や思考様式を統一することが重要です。

企業文化の浸透を阻害する要因についての仮説をもとに、優先的に手を打つべき課題の抽出と対策の検討を実施します。

新会社の新企業文化浸透課題の事例

上図の事例では、新会社の新しい企業文化浸透を阻害する要因として2つの課題が挙げられます。

  • 【課題1】異なる出身会社の管理職に対する部下の信頼度が低い場合、管理職を通じて新しい企業文化を伝達しても説得力がない。
  • 【課題2】同じ職場内に出身母体が異なる社員が混在することで、横のコミュニケーションを通じた新しい企業文化の浸透が困難である。

これら2つの課題を解決するために、この企業では次のようなアプローチを検討しました。

新しい企業文化の伝道者の設定

企業文化の浸透度合いは、「何を浸透させるのか」だけでなく「誰の発言であるのか」にも大きく依存します。

【課題1】が発生している場合、管理職を通じて全社員へ新しい企業文化を浸透させることは困難となります。

この課題を解決するために、この会社の場合では新しい企業文化の「伝道者」を設定しました。

管理職と伝道者に最優先、かつ、集中的に新しい企業文化を理解させることで、双方から全社員に向けて浸透させていくことが可能になります。【課題2】をふまえ、伝道者を選定する際は、職場内の管理職と異なる会社の出身者であり、他者に対する影響力が大きい「高業績者」を対象にすることが効果的です。

課題解決のアプローチ検討事例

③課題解決にむけた対策の実行

検討した課題の対策を実行します。

新しい企業文化が社員に浸透していない段階では、旧会社の文化が混在している現状とのギャップから反発や誤解が生じることが想定されます。

新しい企業文化を確実に浸透させるためには「新しい企業文化は建前上のものではない」と社員が認識する必要があり、「新しい企業文化は実現可能である」という自己効力感・自信を醸成することが重要です。

適切な段階を経ながら各社の状況に応じた必要な施策を講じ、反発や誤解の回避と自己効力感・自信の醸成を実現していきます。

新企業文化の浸透_4つの施策

上図では、社員に対し「A.新企業文化を理解させる」「B.すでに実践できている新企業文化の効果を伝える」「C.新企業文化のもたらす効果に気付かせる」「D.新企業文化の実践を促す」という4つの施策を展開しています。

これら4つの施策は、社員一人ひとりが新しい企業文化の意味を主体的に考えながら行動できるようになることを目的としています。導入にあたっては、次のようなステップを踏みました。

4つの施策の説明

さらに、「A.新企業文化の理解」を促進し、「B.すでに実践できている新企業文化の効果」を実感してもらうため、あらゆるコミュニケーションの機会を通して社員に繰り返しインプットを行いました。

施策の具体例

例えば、理念推進委員会を立ちあげたり、理念共有会を実施したり、理念ブックを配布しました。

施策の具体例

また、「C.新企業文化のもたらす効果に気付かせる」「D.新企業文化の実践を促す」の施策については、社内外の関係者との相互啓発・研修を通して、一人ひとりが新しい企業文化の実践を体験できる場を構築していきます。

例えば、本事例の企業においては、新しい企業文化を体現した好事例やエピソードを共有するワークショップを実施し、「新しい企業文化の実践こそが会社の発展につながるのだ」という実感と、自信を醸成してもらいました。

このように、「新しい企業文化は実現可能である」という認識が、社員の間で共有できる施策・機会を数多く展開することで、企業文化の統合・浸透を図っていくことができます。

AUTHOR
桐ヶ谷 優
桐ヶ谷 優 (きりがや まさる)

クレイア・コンサルティング株式会社 執行役員COO マネージングディレクター
慶應義塾大学文学部卒業

大手人材派遣会社および外資系コンピューターメーカーの人事部門にて、人材開発や人事制度設計に携わる。その後、国内系人事コンサルティング会社を経て現職。
主に人事制度改革を中心にコンサルティングを行う。最近では、企業再編に伴う人事制度改革や組織改革に従事。また、制度設計だけでなく、人事制度導入局面でのコンサルティング経験も豊富に持つ。

参考

  1. 森口毅彦(2017)『わが国企業におけるM&Aの成否評価とPMIの実態 ~アンケートによる実態調査研究にもとづいて~』

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