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成長企業における人事基盤制度

SUMMARY
  • デジタルを活用した事業機会の急速な成長に伴い、事業構造の大きな転換を迫られる企業における人事制度改革
  • 新たな事業を担う専門人材の吸引・確保と同時に、既存事業から新規事業への人材配置/既存人材の意識・行動変革が課題となった
  • 新たな戦略実行のための組織再編と人材再配置を機動的に行うため、職務変更による処遇変更の影響を緩和することを優先した一方で、事業構造の変化に合わせて等級ごと/職系ごとに期待されるミッションとコンピテンシーを再定義。期待されるミッションを担って貢献できる人/より大きなミッションを担える人を見極められるように、評価や昇格の視点・基準を再構築した
  • 数十年にわたる「勝ちパターン」を持った企業で育てられた既存人材の意識・行動を変えていくことは容易ではない。外部からの専門人材(IT・DX)の採用・確保はもちろん重要だが、これらの業務はあくまで局地的であり、大多数は既存事業に従事する社員である。成長が停滞する既存事業においては、必然的に短期志向や現状維持に陥りやすい社員の意識・行動面のメカニズムをよく把握した上で、あるべき方向性に向けて既存人材の隠れた意欲と能力ポテンシャルを引き出す人事制度の仕組み・運用を設計した。

クライアントプロフィール 

業種
ヘルスケアサービス企業A社
従業員数
数百人
期間
現状分析2か月、人事制度構築3か月、導入支援3ヶ月、計8ヶ月

プロジェクト開始の背景

プロジェクトの背景を教えてください。

A社は企業向け・健保向けにヘルスケアサービスを提供する会社で、様々な資格を持った専門人材を抱えていることを強みとしていました。これまでは基本的に対人のサービスが収益の中心でしたが、デジタルを活用したヘルスケアサービスが急速に成長しており、こうしたマーケットに対応した新たな事業の立ち上げや事業構造の転換が課題となっていました。デジタル化・新業態への取り組みを積極的に推進するため、組織の枠組みや職務編成も大幅に見直し、ヒエラルキーが明確な従来の組織階層から、より機能分化されたフラットな組織編成に変わりました。部署の新設・統廃合に伴い、社員の配置転換もかなりの規模で実施しました。

当初どのような課題が想定されていたのでしょうか。

事業と組織が大きく変質する中で、それまでの人事制度のままでは様々な不具合が起きることが予想されました。当時の人事制度は、職務階層を上がれば等級や処遇が上がっていくシンプルな仕組みでした。ところが、ヒエラルキーが崩れ、多様な機能・職務に分化していくことが想定される中で、単線型で職務ベースの等級制度のままでは限界があることは明らかでした。職務ベースの等級制度の弊害としては、職務が変わると処遇が下がる可能性がある点です。経営としても組織再編と人材再配置を機動的に推進したい考えでしたが、職務と処遇の紐付きが大きい人事の仕組みのままでは変革の障害となる恐れがありました。

一方で、従事する職務と処遇のギャップを放置することも問題と捉えていました。例えば、高い処遇を得ているベテランの社員であっても、配置転換によって本人の専門性や経験を活かせない低付加価値な業務に従事してもらわざるを得ない状況が多く発生していました。当面の措置としては、配置転換をスムーズに行うことを優先して、職務が変わっても処遇が変わらないようにする運用にしていましたが、経営からはそのままでよいのか検討を迫られていました。

さらに、組織全体に蔓延する閉塞感を打破し、あるべき方向性に向けて既存人材の活力を引き出すことが課題でした。成長が停滞する既存事業においては、社員は目先の売上を確保しようとする傾向が強くなり、部署間での数字の取り合いや意味のないセクショナリズムが目立つようになりました。新たな戦略の下で部門ごとの責任やKPIを改めて再定義し、あるべき方向に向けて組織活動と人の意識・行動を強力に方向付けていくことが求められました。

どのような形でプロジェクトがスタートしたのでしょうか。

解決すべき人事課題として以下の3つを設定しました。

  • 成長領域であるデジタルヘルスケア事業を支えるIT人材/デジタル人材の獲得と定着

  • 会社が目指す新たな付加価値の発揮を動機付け・方向付ける人事マネジメント(キャリア開発・評価・処遇)への改革

  • 会社が目指す付加価値への貢献に応じた人件費コントロール(適正配分)

①のIT人材/デジタル人材の確保は極めて厳しい状況にありました。労働市場は圧倒的な人材供給不足で採用相場は高騰しており、他のテック系企業との採用競争に巻き込まれることは得策ではないと判断しました。そのため、開発機能は当面は外部委託に依存し、M&Aを通じて中期的にリソースを獲得する戦略としました。

②③は既存の人事制度の見直しが中心となりました。今の仕事の枠を超えようとしない職人気質の人や変化に対応しようとしない管理職が温存されている状況を打破するために、等級ごと/職系ごとに期待されるミッションとコンピテンシーを再定義し、期待されるミッションを担って貢献できる人/より大きなミッションを担える人を見極められるように、評価や昇格の視点・基準を再構築しました。

プロジェクトの内容

1. 人材ポートフォリオと人材フローのあるべき姿の検討

会社が求める人材の種類とそのキャリアステップを再検討することから始めました。それまでの人事制度はよくある単線型・総合職型の等級体系で、全員が管理職になることを前提としたキャリアモデルでした。事業の競争優位が明確で変化も少ない環境であればこのような一律のキャリアモデルにも合理性がありましたが、これからの事業環境では限界がありました。

新しい事業環境で必要な人材の種類(ポ―トフォリオ)を「事業系」「IT系」に分けて分析しました。事業系には、多様な職場を経験して幅を広げる経営幹部人材とITリテラシーの高い事業系人材に分かれました。また、IT系には、ピュアIT人材とウェブ系スペシャリストの2種類があり、後者は未経験者から育ててキャリアアップできそうだとの結論に至りました。

以上のような検討を経て、キャリアの系列(職系)とキャリアステップ(等級)の2つを等級制度として具体化しました。

2. 職系・等級ごとの期待役割の定義

ビジネス感度に優れた経営幹部人材・事業責任者人材を育てるためには、ローテーションを通じた人材育成・人材活用が必要であることが改めて認識されました。そのため、コンセプトとしては職系ごとのプロを育てる制度枠組みをベースとしながらも、キャリア転換を繰り返してキャリアアップしていく運用を想定した仕組みを目指しました。

キャリア系列(職系)は人材活用の柔軟性を重視し、キャリア転換の制約(審査等)は設けない運用としました。非管理職層はキャリアマップ方式で等級×職系ごとに期待されるミッション・役割・人材要件を定義し、育成・評価に役立ててもらう運用としました。

職系の最上位(=キャリアゴール)の定義や見せ方についてはかなり議論がありました。「専門性を極めれば高い処遇が得られる」というメッセージではなく、「新業態に適応して新しい付加価値を創出できる人が高く処遇される」というメッセージが伝わるように、経営幹部との議論を通じてブラッシュアップを繰り返しました。

3. 報酬制度の見直し

いわゆる職能資格型から役割・職務等級型への見直しが元々のコンセプトでしたが、新たな戦略実行に伴い組織の枠組みや職務編成は今後も頻繁に変わる見通しであり、職務の変更で処遇が変わってしまう人事制度ではうまくいかないことがわかっていました。そこで、職務と処遇の紐付きが緩い制度体系(ミッショングレード/ブロードバンド型)をベースとし、グレード変更時の給与決定ルールも柔軟な運用が可能な形につくりこみました。

4. 評価制度の見直し

事業構造の転換期においては、様々なミッションの違いに応じて適切な視点で評価できる制度にしておくことがポイントです。

A社では当期の売上・利益を厳しく管理する風土がありましたが、すぐに結果が出ない新規の取り組みや仕掛けがおろそかにされる傾向がありました。成長が停滞する既存事業においては、社員の意識・行動は必然的に短期志向や現状維持に陥りやすいといえます。

新たな人事評価の仕組みでは、それぞれのミッションの性質の違いに応じて、評価の視点も変える設計にしました。例えば、利益率の最大化がミッションの部署(担当者)と不採算事業のスクラップ&ビルドがミッションの部署(担当者)では、評価の視点は異なります。収益の柱である既存事業に関わる人たちのモチベーションを阻害せず、かといって新規事業に取り組む人たちの目線を下げないようにするために、ミッションのバリエーションに応じた評価の仕組み・運用を構築しました。

その後

現在の状況はいかがですか?

人事制度改定は、「会社を変えるんだ」という経営の強いメッセージとして受け止められました。既存人材の意識・行動にも大きな影響を与えたと見られます。若手・中堅層では変化に前向きに取り組む言動や雰囲気が芽生えてきました。

今後の課題は、新たな事業に合わせて人材育成体系を再構築することです。変化しなければという意識や意欲は強いが、何から始めていいかわからない、という人たちを支援することが狙いです。

成功要因は何だったのでしょうか?

長い歴史を持った会社だったので、これまでの価値観を変えていくことは容易ではありませんでした。日々の発信や行動を通じて実際に意識改革を行うのは現場の組織マネジャーたちです。説明会やトレーニングの場を通して、マネジャーたちを勇気付け、新しい方向に向かって後押しすることができたことが成功の要因だと考えます。

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