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企業不祥事発生後の風土改革

SUMMARY

企業不祥事が発生した際、その原因の1つとして、その企業独自の「組織風土 」が挙げられます。

独自の「組織風土」の構築に成功した企業では、その「組織風土」自体が、競合他社との競争において模倣困難な競争優位の源泉となる一方、その「組織風土」の存在故に、組織構成員の価値観や思考が均質的・画一的となり、社内の不正や不祥事を客観的・中立的な視点で捉えることが難しくなる、といった副作用も生じます。

社内の不正や不祥事の予防および事後対応に向け、人事面から様々なアプローチを講じることが可能です。

企業不祥事とは

企業による不祥事とは、一般的に「企業の役職員が起こす、不正行為または法令に反する行為で、その行為により企業に対する社会・ステークホルダー からの信頼を著しく損なわせる事象」と定義されます。一般的に、企業不祥事の種類は下記8つに分類されます。

企業不祥事の種類

企業にとって、事業の差止や損害賠償など短期的な業績や財務数値に直接影響を与えるだけでなく、社会的信用の失墜に伴う顧客の離反、取引先との取引停止、採用募集への悪影響など、様々なステークホルダーとの関係において中長期なダメージを負うこととなります。

様々企業不祥事が起きる中、企業内におけるコンプライアンス 意識は従来に比べ、確実に高まりつつあると言えますが、今一度、企業不祥事を起こさない、あるいは、万が一企業不祥事を起こしてしまった場合でもその後の再発を防止するために組織的な対策が必要となります。

企業不祥事が起こるメカニズム

下表のとおり、企業不祥事の原因は大きく分けて、「①社内体制」「②経営者の意識」「③従業員の意識」「④社内体質」「⑤経営環境」の5つに分類されます。

企業不祥事が起こるメカニズム

更に、様々な企業不祥事を研究した警察大学校の樋口教授(*1)は、企業不祥事の根源的な原因には、「アウトソーシング が浸透した影響」「作業効率の追求やコスト削減強化の影響」「成果主義型人事制度の浸透の影響」「組織文化の影響」の5つの影響があることを指摘しています。そのうち、ここでは「組織文化の影響」に着目したいと思います。

そもそも、「組織文化」あるいは「組織風土」とは、組織構成員(=従業員)の価値判断や行動の規範となるだけでなく、外部環境の変化に対応したり、組織内部をまとめたりしたり、組織内でのコミュニケーション・意思決定の円滑化を促す機能があります。

「組織風土」はプラスに影響するだけではなく、マイナスの影響を及ぼすこともあり、外部環境への適応の障害となったり、中長期的な業績向上に悪影響を及ぼしたりする場合があります。また、「組織風土」が強すぎる結果、その状態を維持することが社員にとって自己目的化し、社員の内向き化や手続き主義が進行することとなります。

事業環境が構造的に変化した場合や強力な競合他社が台頭してくる環境変化の中で、均一化した思考様式しか取れない結果、競争から取り残されたり、逆に過度な逸脱行為が見過ごされたりすることで、企業不祥事の発生の一因になることもあります。

岡本・今野氏(*2)は、組織不祥事の原因として、「属人思考の風土」を挙げています。「属人思考の風土」とは、仕事にかかわる判断や意思決定の過程で「その提案は自社におってプラスとなるか否か」といった“ことがら”の是非よりも、「誰が提案者か」「支持者は誰か」といった“ヒト”の要素が重視される風土である、と定義しています。

彼らは、「属人思考」の強い職場では、対人関係が必要以上に濃密となり、権威主義的な行動が取られるようになることを指摘しています。(例えば、属人思考の強い組織ほど、「上司」の指示には絶対服従すべき、との規範意識が強い)

また、彼らが実施した調査によれば、多くの組織が取り組むコンプライアンス部門が取り組む規程類の整備に関する諸活動は、個人的な違反行為の減少には一定程度効果があるものの、組織的な違反行為の防止にはそれほどの効果は期待できず、組織的違反を減らすためには「属人風土」を改める必要があることを指摘しています。

「属人思考の風土」の強い組織では、「法令違反の放置」「不正のかばいあい」「不祥事隠ぺいの指示」「上司や同僚の不正容認」「規定の手続きの省略」といった組織的違反が減ることは望めない、と指摘しています。そのため、企業は自社の「組織風土」を絶えずモニタリングし、自らコントロールしていくことが益々重要となります。

クレイア・コンサルティングのアプローチ

企業不祥事に際し、人事面でのアプローチとしては、一般的に、「①企業不祥事を生まないための予防」と「②不祥事発生後の事後対応」の2つのアプローチが挙げられます。

不祥事の予防策と再発防止策

「①企業不祥事を生まないための予防」の具体策としては、「健全な組織風土の確立」が挙げられ、自社の組織風土の状況を定期的に測定し、拠点別・部門別の組織風土の健全度をデータで確認することが有効となります。

経営陣が自社の組織風土の現状を認識し、改善に向けて定期的に話し合いの機会を設けることにより、トップダウンで不正予防に向けた取組みを実行している、とのメッセージを全社に発信していくことが期待できます。

具体的には、各拠点・部門の従業員に職場における上司や同僚とのコミュニケーションの状況、自身の業務量や同僚の業務量の状況、職場における提案活動や改善活動の実施状況、現在の担当業務を入社以来何年間続けているか、といった職場に関する質問事項をアンケート形式で回答してもらい、拠点や部門毎にスコアを算出し、潜在的な課題を抱えている職場を特定します。

また、可能な場合には、アンケート調査のスコアが全社平均に比べ極端に低スコアに留まっている拠点や部門の従業員に対し、追加のヒアリング(定性インタビュー)をサンプル調査として実施します。そうすることで、アンケート調査の背後にある従業員の率直な意識や価値観を把握することが可能となります。

実際、多店舗チェーン展開を行っている販売・流通業や飲食・サービス業では、店舗ごとのアンケート調査を毎年定点観測で実施し、店舗の品質管理の一環として活用しています。調査自体を中立的・客観的な第三者機関が実施することで、拠点責任者に対する牽制機能を働かせることにもつながります。

このような組織風土に関する調査の実施以外に、「継続的なコンプライアンス研修の実施」「OJT における職業倫理や規範意識の指導」「内部通報制度の整備」といった日常的な取組みも、当然必要であることは言うまでもありません。

「②不祥事発生後の事後対応」についは、不祥事発生の内容やその原因にもよりますが、人事面から様々なアプローチが想定されます。ここでは「②-1 人材アセスメント と人材配置」と「②-2 評価・処遇制度の見直し」を取り上げます。

1つ目の「②-1 人材アセスメントと人材配置」については、不祥事が発生した際、その事案に関わった関係者たちは厳正な処分を受けるだけでなく、トップを含めた経営陣が退陣や刷新に追い込まれることもあり、その後の経営の立て直しに向け、企業としては後任者をスムーズに選定・配置することが不可欠となります。不祥事発生後は、社会的な倫理観や判断力を備えた後任者をしっかり選定・配置し、いち早く事業の立て直しを図りながら社会からの信頼回復に努める必要があります。

実際、ある製造メーカーでは、不祥事が発生したことで業績が長らく低迷し、海外企業から追加出資を受け入れることとなりましたが、海外本社から送りこまれた外国人経営陣のもと、全管理職に対して人材アセスメントが実施され、各部門の管理職を強制的に入れ替えることで再出発を果たした事例があります。この事例は、不祥事の発生に伴い、株主が変わり経営陣まで刷新された特殊事例と言えますが、不祥事発生後の人材配置・人材選抜の取組みとして、人材アセスメントが用いられ、組織の人心が一新された事例と言えます。

もう1つの「②-2 評価・処遇制度の見直し」については、企業不祥事が発生した際の第三者委員会の報告書において、「業績を過度に追求する組織の価値観や結果に対する過剰なインセンティブの仕組みが営業担当者の不正行為を招いた可能性がある」といった指摘が繰り返し行われます。それまで適用されてきた極端な人事制度を見直し、従業員な健全は行動を促すための評価・処遇制度を再構築する取組みが挙げられます。

具体的には、評価基準自体の見直し(定量要素100%から定量と定性のバランスを重視した評価基準の設定)のほか、評価期間の見直し(短期評価から長期評価へ)、評価者の見直し(直属の上司による評価だけでなく複数の階層・関係者による評価へ)、評価結果の報酬への反映度合の見直しなどに着手します。

複数の営業担当者による不正が発覚した某金融機関では、不祥事発生後の組織改革の一環として、それまでほぼ100%定量評価となっていた評価制度の見直しに着手しました。その金融機関では、新たに定性評価も組み入れつつ、結果だけでなく途中経過や期中の活動も評価の要素に組み込むことで、「結果がすべてである」「結果を出した従業員こそ最も報われるべき」という従来の組織の価値観を徐々に変容させていき、「社会とお客様の信頼を回復すること」に最優先で取組むこととなりました。

当然ながら、これまで最終的な結果だけでメンバーたちを評価してきた管理職にとって、定性的な評価やプロセスを評価する仕組みが導入されることは最終結果の説明責任を含め、評価運用そのものの難易度を高めることに繋がりました。しかし、そのことも含め、当該金融機関では制度の見直しと運用プロセスの変革を通じて、組織全体の意識改革が行われました。

このように、組織の不祥事に関連した組織風土改革の取組みは、「予防」と「事後対応」の2つの観点で多面的・継続的に実施していくことが不可欠です。今後、組織の多様性(ダイバーシティ)が益々高まっていくことが予測されますが、それ故、企業は自組織の風土を常に確認し、健全な規範意識を醸成しながら、メンバー一人ひとりの価値観(バリュー)や意識により強く働きかけていくことが重要となります。

参考

  1. 日刊工業新聞社 樋口晴彦 著『なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか』(2015年)
  2. 新曜社 岡本浩一, 今野裕之 著『組織健全化のための社会心理学』(2006年)

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