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「M&A・組織再編」を取り巻く背景

近年、国内のM&A件数は、大きく増加傾向にあります。

2020年は新型コロナウイルスの影響により、国内のM&A件数は前年と比較すると減少となりましたが、2021年に入り、増加傾向となっています。特に国内企業同士のM&Aは、2016年頃から増加傾向を示しています。

この背景には、高度経済成長期の「メインバンク制」「株式の持ち合い」の解消、連結会計導入に伴うコーポレートガバナンス(企業統治) の強化、組織再編関連の法改正・法整備、資金供給源の多様化(PEファンド、CVC等)など、さまざまな要因が想定されます。人口減少に伴う国内需要の低下やグローバル化による新興国の台頭も国内企業同士のM&Aを後押ししている一因と考えられます。

特に最近のM&Aの特徴として、非中核事業を切り離す「再編型M&A」や、中小企業による「事業承継型M&A」が活発になっています。

「再編型M&A」が増えている背景には、資産効率に対する投資家の目線が厳しくなり、企業が非中核事業を切り離さざるを得ない状況が生じていることや、シェアの低さから競争力を高めにくい企業が同業他社との再編に踏み切っている状況があります。

また、「事業承継型M&A」が増えている背景には、中小企業における経営者の高齢化や従業員の採用難が根本問題として存在しています。「人口減少」「グローバル化」「デジタル化」において、M&Aは引き続き活発に行われていくと考えられます。

「M&A・組織再編」時に伴う人事リスクとは

人事制度統合 には、以下の4つのリスクを伴うことを、経営者や人事責任者は理解しておく必要があります。

1.人件費上昇リスク

M&Aや組織再編に伴う人事制度統合において、対象となる従業員の処遇条件をすべて水準が高いほうに合わせるのであれば、従業員にとってリスクは生じません。しかしながら、当然人件費は大きく増加します。M&Aの目的に照らした際に、このような人件費の増加が経営的に許容されることは殆どありません。それでも、労働条件の悪化を避けるために水準を高いほうに合わせざるを得ず、結果として人事制度統合が人件費の増加を招いてしまう例は少なくなりません。

2.法的リスク(不利益変更)

「労働条件を悪化させる変更によって従業員から訴訟を提起されるリスクです。M&Aにおいて従業員に不利益変更 が生じると、それに反対する従業員からクレームを受け、人事部門がその対応に追われるだけでなく、会社全体の評判を低下させることにもなりかねません。この点は、弁護士とも協議しながら慎重な対応が求められることになります。

3.モチベーションリスク

M&Aや組織再編に対して従業員がネガティブな感情を抱くリスクです。統合後の人心の掌握・統合が難しくなるだけでなく、最悪の場合は優秀な人材の流出につながる可能性さえあります。将来が不透明なことに対する「不安感」、処遇格差などによる「不公平感」、処遇の引き下げなどによる「被害者感情」、公平な評価の不在などによる「閉塞感」等が生じることが多く、丁寧なコミュニケーションが求められます。

4.運用リスク

管理職のマネジメント能力や労務管理の慣習・ルールなどが異なり、統合後も統一の制度やルールが公正に運用されないリスクです。人事制度統合後の諸制度は複雑過ぎて、人事担当役員ですら全貌を正しく理解できない状態になってしまうことがあります。従業員が正しく認識し、職場の上司が適切に運用できるようなシンプルな制度でなければ、人事制度統合による効果は得られ難くなります。

ここで重要なことは、「人事リスクがゼロになるM&Aや組織再編はない」ということです。人事リスクにはさまざまなトレードオフが内在しており、人事リスクをゼロにすることはできません。

仮に合併の際に人事制度を全く変更しないという方法を採った場合、人件費上昇リスクや法的リスクは回避できますが、人事制度が異なる従業員間の意識の壁(モチベーションリスク)は高まり、複雑な運用を強いられます。

そのため、M&Aの目的に照らして「回避すべきリスク」と「できるだけ軽減すべきリスク」のメリハリを付けることが必要になります。

例えば、業績が厳しい状況下でのM&Aでは「人件費上昇リスク」の回避が最重要課題となるため、「法的リスク」や「モチベーションリスク」については何らかの「軽減策」を考えなければなりません。

一方で、シナジー効果や融和を重要視するならば「モチベーションリスク」の回避が最重要課題となり、「人件費上昇リスク」と「法的リスク」を合理的な範囲に収めるための方策を考えなければなりません。

「M&A・組織再編」時の人事課題とは

M&A・組織再編時に、存続会社および消滅会社の社員に発生する代表的な人事課題は以下の通りです。

  1. 業務プロセス、人材に求められるスキル・ノウハウなどが異なるため、統合の効果が発揮できない
  2. 両社の人員構成や企業文化、価値観が異なるため、統合会社社員としての意識が醸成されない
  3. 両社の等級制度(等級数や役職名など)が異なるため、人材異動(人事交流)が難しくなる
  4. 両社の報酬水準が異なるため、社員間に不公平感や不満が発生する
  5. 両社の人事評価の運用や判断基準が異なるため、評価者(管理職)の負担が増加する
  6. 両社の労働諸条件が異なるため、人事制度の運用に関わる業務が複雑かつ非効率になる

1.業務プロセス、人材に求められるスキル・ノウハウなどが異なる

ビジネス上の人材に対する考え方が両社で大きく異なる場合、「評価基準」や「報酬ルール」を明確に定めなければ、社員の混乱やモチベーションダウン、今後の人材採用の障害を招く可能性があると考えられます。

M&A・組織再編における現状分析_比較分析からの課題抽出

2.両社の人員構成や企業文化、価値観が異なる

現状分析では、最初に人員構成を確認する必要があります。下記の例では、新規採用をゼロと仮定した場合の両者の年齢構成の推移から、今後高齢化が進んでいくことが分かります。

M&A・組織再編における現状分析_人員構成

3.両社の等級制度(等級数や役職名など)が異なる

どの職群を主軸とするか、等級は何階層か、職群を切り分け、それぞれの職群ごとに期待される能力・貢献にあわせた評価・処遇の仕組みを適用する必要があります。また、役職名や対外呼称も統一するのが望ましいです。

M&A・組織再編における新等級制度

4.両社の報酬制度が異なる

報酬水準については、下記の例では、E社では一般社員の年収水準の部門間格差が無いのに対し、F社では営業部門が明らかに優位な状況にあることが分かります。

M&A・組織再編おける現状分析_報酬水準

5.両社の人事評価の運用や判断基準が異なる

評価の運用については、下記の例では、両社とも経営陣による柔軟な運用が行われている点が特徴です。両社とも人事評価に基づき年俸を改定する仕組みですが、E社はルールに基づく運用を重視し、F社では調整会議での合意に基づく運用を重視する仕組みとなっています。

M&A・組織再編における現状分析_評価の運用

6.両社の労働諸条件が異なる

就業規則上の必要記載事項やその他規程類に関して、両社ですりあわせが必要な項目を洗い出し、協議を行う必要があります。下記の例では、両社間で休日等が異なっており、統合方針を定めた上で、個別に判断を行っていくこととなります。

M&A・組織再編における現状分析_就業規則

人事課題解決までのプロセス

ここでは課題解決に至る全体の流れを簡単に説明します。

まず、2社の現状分析を行い、その分析結果を基にどのように人事の仕組みを統合していくのか、シナリオを設計します。

続いて、等級、評価、給与・賞与、退職金・年金、就業条件など、人事制度のグランドデザイン・あるべき姿を設計します。ここでは、現状分析において規定した新会社の基本コンセプトをもとに、各制度それぞれに求められる要件を抽出します。

次に、人事制度のグランドデザインを基に、等級、評価、報酬の各制度を詳細化させます。等級、評価、報酬の各制度を詳細化と並行または先行して、労働条件・福利厚生の統合を行います。各制度の設計が完了した後は、新会社の基準に沿って新たな等級への格付けを実現するため、統一基準に基づいてグレード決定を実施します。

最後に、社員へのコミュニケーションとして、両社経営幹部が中心となり、全社員に対して説明会等を実施します。

人事課題解決までのプロセス

M&A・組織再編時の課題の詳細な解決プロセスについては、「M&A人事(M&Aに伴う人事統合) 」をご参照ください。

AUTHOR
桐ヶ谷 優
桐ヶ谷 優 (きりがや まさる)

クレイア・コンサルティング株式会社 執行役員COO マネージングディレクター
慶應義塾大学文学部卒業

大手人材派遣会社および外資系コンピューターメーカーの人事部門にて、人材開発や人事制度設計に携わる。その後、国内系人事コンサルティング会社を経て現職。
主に人事制度改革を中心にコンサルティングを行う。最近では、企業再編に伴う人事制度改革や組織改革に従事。また、制度設計だけでなく、人事制度導入局面でのコンサルティング経験も豊富に持つ。

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