シニア人材アセスメントが必要となる背景
70歳までの就業機会の確保が求められる中、40代後半~50代以降のシニア人材を多く抱える企業では、定年延長等の様々な施策を通じて、年齢に関係なく長く働き続けられる職場・制度づくりが重要になってきています。(以降、およそ40代後半以降の年齢の高い社員のことを単に「シニア人材」と呼びます)。
一方で年齢に関係なく長く働き続けられる環境を整備することは、高齢化が進む企業にとっては人件費の上昇やポスト不足の問題が深刻になることを意味します。多くのシニア人材の立場から見ると、昇格・昇進や昇給のチャンスが減少していく中で、モチベーションを維持しながら働き続けることはますます困難になっていきます。
人事運用の中で、シニア人材のモチベーションに最も影響を与えるタイミングは、①役職定年と②定年の2つです。企業は役職定年と定年の2つの方法で、ポスト不足や人件費の問題を解決しようとしますが、従業員にとっては、急激な役割・処遇の変化を受け止めることは容易ではありません。これまで思い描いてきたキャリアイメージが短期間のうちに崩れ去り、自らが蓄積してきたスキルや経験が無価値になったように感じる人も少なくありません。
シニア人材がキャリアショックを乗り越え、年齢に関係なく長くやりがいを持続し、いきいきと働き続けるためには、本人が役割の変化を正しく受け止め、期待される貢献を果たそうとする意欲を引き出すことが必要です。ところが、役職定年や定年などを間近に控えた社員やそれを過ぎた社員に、期待役割の変化を明確に伝えているケースはまだ少ないのが現状です。本人からすれば「役割は変わっていないはずなのになんとなく居心地が悪い」「給料が下がり期待もされていないように感じる」などと感じることが多いのではないかと想定されます。こうした状態を放置してしまうと、本人が元々持っている前向きな意欲や長年にわたって培ってきたスキル・経験を活かせないばかりか、職場の周囲のメンバーにネガティブな影響を及ぼす原因になりかねません。
シニア人材アセスメントの機能とメリット
1. 本人の適性に合わせた新しい役割の設定
役職定年や定年などの節目を機に、本人がそれまで担ってきた職務とは異なる立場・役割で組織に貢献してもらうことが必要とされます。例えば、「後進のトレーナー/コーチ」「他部門とのリエゾン(調整役)」「社外関係者に対するスポークスマン」など多様な役割設定が考えられます。
新たな役割を設定するためには、本人の知識・経験・適性に照らして、どのような役割を担ってもらうことが組織にとって有効かどうかを検討しなければなりません。ところが、それまで担っていた職務において発揮してきた成果やパフォーマンスを見るだけでは、本人の適性を正しく測ることはできません。
シニア人材アセスメントは、疑似的な場面を設定して本人の適性を客観的に測るツールです。新しい役割で求められる多様な能力項目を分解的に測定することで、本人の適性に合わせた役割設定・配置の参考材料として活用することができます。
2. 役割の変化に合わせた意識改革の促進
組織から期待される役割が変われば、求められる能力や行動のポイントも変わってきます。シニア人材アセスメントは、本人が役割の変化を正しく受け止め、期待される貢献を果たそうとする意欲を引き出すための意識改革ツールとして活用することができます。
期待役割が変わっても、与えられた役割を全うし、今後も成長し続けたいというシニア人材の前向きな意欲を引き出すためには、期待される役割を明確に伝え、そのために必要な能力・行動の発揮を意識づけるためのコミュニケーションとフィードバックが重要です。シニア人材アセスメントは、このようにシニア人材の役割認識と能力開発を方向付け・動機付けるためのツールとして活用することができます。
クレイア・コンサルティングが提供するシニア人材アセスメントの特長
1. 多様な役割パターンを想定した診断項目の設定
本ツールでは、役職定年や定年再雇用など、一定年齢の節目以降にシニア人材に期待される役割パターンを次のバリエーションで想定しています。
- 「トレーナー」:指示・命令的な指導スタイルによって未習熟者の教育を行う役割
- 「コーチ」:中堅・管理職クラスの社員に対して、自律性を尊重しながらキャリア開発 を後押しする役割(後継者育成など)
- 「スペシャリスト」:専門的な知識・技能を活かして、業務の品質・生産性の向上に寄与する役割
- 「生き字引」:特定部門で長年にわたって培った経験を活かして、文書化されていない知識・知恵を供出する役割
- 「アドバイザー」:社内外の多様な部門での経験を活かして、経営層の確からしい判断・意思決定を後押しする役割
- 「リエゾン」:部門間の連絡・調整や組織連携のキーマンとして管理職を補佐する役割
- 「スポークスマン」:社外に対して自社・自部門の発信したいメッセージを伝える役割
これらの役割で求められる能力を共通的な要素に分解し、診断するコンピテンシー項目を設定しています。
診断項目A:対人関係力(組織・人材マネジメント力)
- 指導・育成力
- エンパワーメント (委譲・委任)
- 対人・組織感受性
- 対人影響力
診断項目B:課題解決力(個人の業務遂行力)
- 分析的思考力
- 概念的思考力
- 計画管理力
- 課題解決・改善力
2. 加齢によって衰えやすい能力項目の診断
対人関係力・課題解決力に加えて、業務遂行スキルの発揮やその効果に影響を与える「基盤的な能力特性」についても診断します。発達心理学の知見に基づき、特に加齢によって衰えやすいと言われる能力特性(流動性知能)に着目して診断項目を設定しています。
診断項目C:基盤特性(思考・行動・自己統制に関わる性質)
- 柔軟性
- 改善志向
- 率先性
- バイタリティ
- 謙虚さ
3. テスト形式の簡易診断
本アセスメントでは、ケースメソッドの手法を応用した演習で、具体的な職務場面を設定して思考や行動を問う方式により、コンピテンシー の保有度を診断します。診断は簡易的に行えるように、テスト形式で回答できるようになっています。所要時間は、対人関係力・課題解決力のテスト(業務遂行スキル診断)が併せて約80分、基盤特性のテスト(パーソナリティ診断)が約50分となります(ケースの読み込み・回答時間含む)。
4. 自己診断・多面観察
本アセスメントで診断するコンピテンシー項目ごとに、本人がセルフチェック方式で能力発揮度を確認する自己診断を行います。また、職場のメンバーから客観的な評価が得られるように、多面観察用のチェックシートも用意しています。所要時間は、自己診断・多面観察ともに約20分です。
5. 診断結果のレポーティング
アセスメント結果は、全体レポートと個別レポートの2種類のレポートを提供します。
全体レポートは、受検者全体のスコア一覧表やスコアの度数分布、強み・弱みの一覧表で構成され、アセスメント結果の全体傾向が把握できるようになっています。経年で活用する場合は、過去からの推移のデータもレポートに追加します。
個別レポートでは社員個々人のコンピテンシー・プロフィールを詳細に確認できるようになっており、強み・弱みや役割適性に関するアドバイスを記載しています。
シニア人材アセスメント実施の流れ
1. 人材アセスメントの設計
アセスメントの演習を設計します。クレイア・コンサルティングのこれまでの知見を集めた標準的な仕様をそのまま利用することが可能です。必要に応じて、特に細かく診ていきたい能力を2つ以上のコンピテンシーとして分割して評価を行ったり、各社の人材戦略上特に不要と思われるコンピテンシーを削ったり、企業独自の能力要件となるコンピテンシーを追加したりといった調整を行います。そして変更が加わったコンピテンシーについては演習自体に加筆修正を行います。
また、毎年、あるいは隔年で継続して使用する際は、過去の受診者から情報が漏れる可能性も考慮し、各回新たな演習内容を作成し、回答パターンを変更するなどの調整を行います。
2. アセスメント演習の実施
シニア人材アセスメントでは、原則として「コンピテンシー診断」「基盤特性診断」「自己診断/多面観察」の3つの演習を行います。
「コンピテンシー診断」「基盤特性診断」では具体的な職務場面を設定して、そこで個人がどのような行動を選択するかを問うことで、個人の能力を測定します。
【アセスメント演習の設問例】(対人関係力診断に関する設問)
「自己診断/多面観察」は役割ごとのコンピテンシーが特徴的に表れた行動を質問文として設定し、基盤特性や業務遂行スキルが、普段の業務でどの程度実践されているかを、本人と周囲の人間が評価します。
これらの演習を各社の担当者の方々が社内で実施できるようマニュアルを送付します。
【アセスメント演習における自己診断と多面観察】
3. 測定・評価・フィードバックの作成
筆記試験の結果を集計し、コンピテンシーを測定します。測定結果はフィードバックレポートにまとめた形で提出します。
フィードバックレポートは、原則として企業全体の傾向を記載した全体レポートと、各社員の保有コンピテンシーを記載した個人別レポート(本人用と企業用)を作成します。
全体レポートは、全体スコア一覧表やスコアの度数分布、強み・弱みの一覧表で構成され、アセスメント結果の全体傾向が把握できるようになっています。過去の履歴があれば、過去からの推移のデータと弊社の考察もレポートに追加しています。能力開発時の参考情報としての利用を想定しています。
個別レポートでは、個々の社員が今後必要となるコンピテンシーの項目や、強み・弱みの一覧を記載しています。また、自己啓発に関するアドバイスも記載しており、社員自身による成長を促します。
更に、必要に応じて、アセスメントの診断結果をもとに、組織的な課題についてアドバイスを行います。
【アセスメント演習における自己診断と多面観察】