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M&A/事業再編における人事リスク とは

SUMMARY

M&Aや事業再編時に生ずる人事リスクには、大きく4タイプのリスクがあります。すなわち、「モチベーション」「法的」「人件費」「運用」に関するものです。これらのリスクは、それぞれトレードオフの関係にあります。

例えば、給与や退職金・年金等の処遇を統一しようとする際、不利益変更に関する「法的」なリスクが生じ、結果的に「人件費」が増大してしまうケースです。(このようなケースは少なくありません。)

また、M&Aは従業員の不安を招くことも多く、不公平感や被害者感情から、「モチベーション」が低下してしまうことが懸念されます。

さらには、評価者の能力や労務管理の慣習が旧企業間で異なるため、人事諸制度を統合しても公正に運用されない可能性もあります。

そのため、人事の統合作業には難しい舵取りが必要となります。

M&Aの人事リスクとは

M&A/事業再編と人事・人材の効果

M&Aによる事業の再編が活発になっています。

その背景には、1997年の独占禁止法改正による持株会社制解禁、2001年の商法改正による会社分割制度と労働契約承継法の導入、2007年の三角合併解禁などにより、経営の効率化や事業の拡大・再構築を目的とした事業再編を行いやすい環境が段階的に整備されてきたことがあります。

M&Aや事業再編が、人事・人材に関する効果を求められて行われるケースは少なくありません。その効果は、概ね次の3点に集約して考えることができます。

効果1:人員・人件費の非効率解消

事業再編(組織再編)を通じて重複機能を削減し、そこに配置されていた人員を戦略的投資分野・業務に再配置する、もしくは採用抑制やアウトフローによって人員数を絞り込むことによって、人員・人件費の非効率を解消します。

効果2:多様な人材/組織風土のシナジー効果創出

多様な能力・ノウハウ・経験を持つ人材を交流させること、あるいは異なる組織風土や思考特性を持った組織を統合することで、お互いの強みを組合せ、強固な(あるいは新たな)競争優位要因の構築を目指します。

効果3:分割の場合

多様な能力・ノウハウ・経験を持つ人材を交流させること、あるいは異なる組織風土や思考特性を持った組織を統合することで、お互いの強みを組合せ、強固な(あるいは新たな)競争優位要因の構築を目指します。

M&Aや事業再編で考慮すべき人事リスクとは

しかしながら、人事自体が障害となり、M&A/事業再編の効果を実現できないばかりか、M&A/事業再編そのものが頓挫してしまった、というケースは少なくありません。

理由は、人事に関するリスクの複雑さにあります。

例えば、給与や退職金・年金といった処遇を統一しようとすると、不利益変更の「法的リスク」と「人件費増大リスク」がトレードオフとなります。また、そもそもM&Aは多くの従業員にとって“不安要素”であり、不公平感や被害者感情などが発生しやすいといった「モチベーションリスク」も存在します。そのため、人事の統合作業には難しいかじ取りが必要となります。

一般的に事業再編が行われると、自分が所属する会社が消滅したり、組織構造や組織の統治構造が大きく変化したりします。新卒で入社して定年退職まで勤め上げることが一般的であった日本の大企業社員にとって、事業再編は「一大事」です。

特に、事業再編によって生じる、等級・評価・報酬・就業規則・福利厚生・教育体系といった人事諸制度の変化は、社員のキャリア設計や生活設計、日々の働き方にも大きな変化をもたらすこととなります。

では、事業再編が行わる際は、人事諸制度をどのように扱えばいいのでしょうか。

理想論を言えば、1つの会社となる以上、可能な限り人事諸制度を統合していくことが望ましいです。しかし、現実的には、次の4つのリスクが伴うことを、強く認識する必要があります。

人事諸制度統合(M&A人事)の4大リスク

人事諸制度統合(M&A人事)の4大リスク

モチベーションリスク・人事諸制度の統合によって一方の企業社員の労働条件が悪化し、不公平感や被害者意識が発生する可能性
・具体的には、将来が不透明なことによる「不安感」、処遇格差などによる「不公平感」、処遇引下げなどによる「被害者感情」、公平な評価の不在などによる「閉塞感」など
法的リスク・労働条件を悪化させる変更(不利益変更)によって社員から訴訟を起こされる可能性
人件費リスク・労働条件の悪化を避けるために労働条件の良い企業に合わせて人事諸制度を統合することによって生じる人件費増大の可能性
運用リスク・旧企業間で評価者の能力や労務管理の慣習などが異なることにより、人事諸制度を統合しても公正に運用されない可能性

これらはいずれもトレードオフの関係にあるため、完全に排除することはできません。そのため、リスクが発生する可能性と、顕在化した場合の影響度を見極めながら、人事諸制度の統合を進めることが必要になります。

「統合」と「分割」、それぞれの人事課題の違いとは?

次に、「統合」と「分割」、それぞれの人事課題の違いについて解説します。

事業再編には「統合」と「分割」の2つの方法があり、統合対象企業が直面する人事課題は大きく異なります。

どちらの方法で事業再編を行うにせよ、人事部門は経営層と共に統合後の組織運営の方向性を明確に定めておく必要があります。

「統合」による事業再編の場合

はじめに「統合」の典型例である「合併」を取り上げます。

合併には、「吸収合併」と「新設合併」の2種類があり、より手続きが簡易な「吸収合併」が利用されるケースが多数を占めます。「対等合併」と報道されているような事業再編も、手続き上は「一方の企業が他方を吸収する」という形式をとることが少なくありません。

吸収合併の場合、吸収される企業の人事諸制度は、吸収する企業に包括的に承継されるため、合併後も複数の人事諸制度が併存することとなります。しかし、こうした1企業内に複数の人事諸制度が併存する状況は、様々な人事課題を引き起こします。

まず、勤務時間や休憩時間、休日などの基本的な就業条件が異なると、一緒に仕事がしづらくなります。例えば、同じ職場なのに始業時間が異なると朝礼ができません。出張時の宿泊代が異なれば、出身元が異なる社員同士が一緒に出張しても同じホテルに泊まることができません。

また、同じ業務や役職に従事する社員の評価基準や賃金水準が異なれば、社内の公平性が保てません。特に収益性が低い企業の賃金水準が高い場合は、もう一方の企業の社員から大きな不満が出ます。賃金水準が低いものの収益性が高い(労働生産性が高い)企業の社員のモチベーション低下や転職は大きなダメージとなります。

「分割」による事業再編の場合

次に、「分割」による事業再編時の人事課題としては、どのようなものがあるでしょうか。

事業分割を行う主な目的は、「業種業態に適したマネジメントの追求」、「成長事業の分離独立」、「事業売却」等が挙げられます。

また、事業分割の方法には「新設分割」と「吸収分割」があります。

  • 「新設分割」とは、新設した企業に分割事業の権利義務を移す方法
  • 「吸収分割」とは、既存の企業に分割事業の権利義務を移す方法

いずれも分割後に人事の統合が行われます。

そして、事業分割では、一部の社員が別の企業に転籍することになります。

通常、転籍には従業員の個別同意が必要ですが、会社分割制度を活用した事業分割の場合は、労働契約承継法(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)に従って分割前の労働条件を包括的に継承するため、個別同意の手続きをとらずに事業分割を行うことが可能です。

しかし、労働契約承継法による分割手続きは、事業分割の目的達成の観点からいくつかの課題も残っています。

特に事業分割の目的を「業種業態に適したマネジメントの追求」に重点を置く場合、人事諸制度も業種業態に適した内容にすることが必要です。例えば、給与水準を職種別の外部労働市場水準に合わせて中途採用の競争力を高める、評価基準や昇格基準に業種特有の要件を反映する、固定給と変動給の割合を変えて社員のモチベーションを高める等の工夫があります。

社員の同意を得られる前提であれば、会社分割制度を活用して人事諸制度を変更することは可能です。ポイントは、分割後の明確な事業ビジョンと社員のコミットメントを強化することです。

例えば、分割前には実現できなかった抜擢昇格制度の導入、業種業態に適した勤務体系や教育制度の整備、業績連動型の賞与制度の導入など、分割された社員が「移籍してよかった」と実感できる施策が必要です。

ただし、事業分割後は企業規模が小さくなるため、キャリアの選択肢を狭めないよう、グループ会社間のローテーションや幹部人材向けの登用制度を整備しておくことも大切です。

分割後における、具体的な人事統合の流れについては、「会社分割」をご覧ください。

M&A事業再編後、新たな企業文化を形成するには?

事業再編では、人事諸制度などハードの統合だけでなく、社員の思考様式や価値観など、ソフト面での融合も重要です。

統合会社の企業文化」は一朝一夕には形成されません。

元来「企業文化」とは各社の歴史的背景や事業構造に根差したものであり、人事諸制度等のハードが統合できたとしても、新たな企業文化の形成にはやはり時間がかかります。

一方で能動的な働きかけを行わなければいつまでも新しい企業文化が形成されず、従来のやり方が温存され、統合会社としての判断が遅れたり、非効率が生じたりする恐れがあります。

早期に統合効果を実現するには、統合前の旧社のいずれにもよらない「新たな企業文化」を設定し、経営陣が様々な場面や機会を通じて統一のメッセージを発信し続けるしかありません。

そのためには、多くの社員がM&A/事業再編の目的とビジョンをできるだけ前向きに受け止められるような情報発信(コミュニケーション)が重要です。

そもそもM&A/事業再編は社員にとって不安要因になります。また、M&A/事業再編では秘密裏に検討が進むことも多く、社員にとっては背景や趣旨を十分に理解・咀嚼する余裕がない場合も多いです。何も手を打たなければ、M&A/事業再編に関わる情報発信を保守的・保身的な受け止め方で解釈する可能性が高くなります。

このような認識に立ち、M&A/事業再編を成功させるためには、ハード(仕組み)の構築・統合だけでなく、ソフト(人心)の変革・統合に対しても周到な準備を行うべきです。

そのためには、整合性を持って適切なタイミングで行うためのコミュニケーションプランや、社員の理解度やモチベーションの状況を把握するための社員意識調査などについても準備しておくことが求められます。

具体的な企業文化を統合していくプロセスについては、「企業文化統合」をご覧ください。

M&A/事業再編に関する弊社コンサルタント執筆記事

日経BizGate 「M&A時代の組織マネジメント戦略」(全4回)

日経BizGate 「M&Aは社員にどう影響を与えるのか」(全4回)

『人事マネジメント(2014年7月号)』

日経産業新聞『企業力アップ!組織人事マネジメント講座』

M&Aに関する弊社主催セミナー実施レポート

M&A/事業再編に関するコンテンツ

その他M&Aに関するコンサルティング実績(一例)

  • 大手情報システム設計・販売関連企業5社の統合に伴う人事制度設計と導入
  • 大手総合商社の子会社4社の統合に伴う、人事制度統合の設計、および従業員向け説明会、評価者トレーニング、規程のレビューの支援
  • 自動車部品製造分野における複数企業の統合に伴うダウンサイジング(リストラ)支援と人事制度設計
  • 運輸関連分野での事業清算に伴う、従業員の転籍・退職条件の設計とコミュニケーションプラン構築
  • 出版社における一部事業の営業譲渡と事業清算に伴う、社員の転籍や整理解雇の処遇条件の設計、コミュニケーションプランの構築、説明会等の実施支援

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