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学校法人における人材育成(職員編)

針生 俊成、金田 宏之 2012.3.23

前回は教員、前々回は職員の人事評価制度について、その課題と対策を考えてみました。今回は、大学における人材育成、特にSD(スタッフ・ディベロップメント)について、民間企業における人材育成の考え方と比較しながら考察してみたいと思います。
(※SDにはいくつかの定義がありますが、ここでは職員の能力開発とします)

はじめに、学校法人職員にはどのような能力が必要とされているのかを見ていきましょう。
「大学事務職員の専門職化に関する調査(2002年、福留(宮村)、主な回答者属性は、理事・事務局長職・事務局長と複数の役職者によるものが38.9%、課長職(次長・課長補佐含む)が46.3%)」では、大学事務職員に求められる能力を質問したところ、「情報を収集する力(55.4%)」、「幅広い視野から職務を見通すことのできる力(54.1%)」、「特定の専門的な知識(50.8%)」が上位3項目となっていました。この結果からは、職員が自分の担当職務について、先を見通しながら自律的に遂行・完結することを最も重要視していることがわかります。(調査では職務別に求められる能力を質問していますが、本コラムでは職務別の回答をまとめた全体結果を使用しました)

一方で、調査実施者の福留氏も指摘していることですが、「相手の立場や気持ちを適切に感じ取る力(31.8%)」、「同僚と協調して職務を遂行する力(22.5%)」、「人の能力を的確に判断して仕事に活かすマネジメントの力(19.2%)」、「仲間の中で率先して仕事を遂行していこうとするリーダーシップ(16.1%)」といった、いわゆるヒューマンスキルについては、あまり重視されていない傾向にあるようです。

この点について、民間企業を対象とした調査を見てみると、だいぶ様相が異なります。産業能力大学総合研究所が民間企業を対象に行った「経済危機下の人材開発に関する実態調査(2010年)」では、「特に強化すべき能力・知識(複数回答)」として、若手は「コミュニケーション力(77.5%)」、中堅リーダー層は「リーダーシップ(73.5%)」、「後輩を指導する力(72.0%」といったヒューマンスキルが上位に挙げられています。

民間企業でヒューマンスキルの強化が重視されている背景には様々な要因がありますが、その中でも大きな要因としては、以下の3つが考えられます。一つ目は、グローバル化や競争激化等の環境変化の中での生き残りをかけて、変革を推進できるリーダーの育成が急務となっていること。二つ目は、成果主義の導入によって個人主義が強くなり、チームワークやコミュニケーションが弱くなってしまっている、あるいは、ポスト削減によって後輩や部下の指導経験を積む機会が減ってしまっていること。三つ目は、近年の新卒世代を中心に、社会一般的にコミュニケーション力の低下が懸念されていること、この3つの要因です。

このうち、特に一つ目の要因は、これからの学校法人経営にも共通する要因であると考えられます。これまでの学校法人職員の人材育成では、リーダーシップやチーム連携など、組織力を高めていくことはあまり重視されてこなかったのかもしれませんが、今後は、個人を鍛えるということ以上に、厳しい経営環境の中で特色ある魅力的な学校法人となるために、組織力(それを支えるヒューマンスキル)をいかに高めていくか、という視点が必要になってくるのではないかと思います。組織力を高めていくために特に重要な存在がリーダー層(経営幹部、管理職層)です。リーダー層の人材育成に関しては、次回のコラムで掘り下げて考えてみたいと思います。

さて、ここまで学校法人職員の人材育成において重視されている能力について見てきましたが、次は「どのようにして人材育成を行っているのか」についても確認してみたいと思います。

広島大学高等教育研究センターの山本眞一氏が平成19年に実施した「大学職員の能力開発に関するアンケート調査」によると、私立大学の66.2%が研修制度を持っているようです。また、学外の研修に対する経費補助を行っている私立大学の比率も69.1%と、高水準です。この調査からは、私立大学法人が職員の人材育成に力を入れている様子が窺われます。しかし、同調査において山本氏は、「学習の奨励」を制度化している大学法人が少ない事を指摘しています(私立大学で20.2%)。つまり、研修などの「教える」環境は整っているが、「自ら学ぶ」意欲を喚起するような制度や仕組みが不足しているのではないか、ということです。

この点について、民間企業はどのような状況になっているのでしょうか。先出の「経済危機下の人材開発に関する実態調査(2010年)」で、民間企業の人材開発ポリシーを調査している項目があります。その中で、人材開発の主体について「従業員の能力開発は、本人の責任であるという考え方が強い」という企業が半数を超えています(55.7%)。つまり、民間企業では「自ら学ぶ」が基本であり、企業はそれを支援する、という人材育成の考え方が主流になりつつあると考えられます。

そうすると、企業が人材育成において注力すべきことは、「自ら学ぶ」意欲を掻き立てる事、具体的には、中長期的なキャリア目標を見つけられるようにする、自分に合った研修や学習方法を選択できるようにする、あるいは、学習した結果としての実力差を評価して処遇に反映する、等が必要となってきます。

今回のコラムの最初に見たように、学校法人職員には「自分の担当職務について、先を見通しながら自律的に遂行・完結すること」が求められています。しかし、少子化や国際化等の環境変化が著しい学校法人において、「先を見通して、自律的に動ける人材」を育成する手法として、「研修」という方法が本当に有効なのでしょうか。研修は必要ではあると思いますが、それ以上に「自ら視野を広げようとする」「自ら学ぼうとする」という意欲をどうやって刺激していくか、ということが、人材育成において課題となっているのではないかと思います。

次回は、リーダー層(経営幹部、管理職層)の人材育成について考えてみたいと思います。

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針生 俊成

ディレクター

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金田 宏之

シニアコンサルタント

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