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学校法人における人事評価制度の課題

針生 俊成、金田 宏之 2012.2.29

前回は、1人当たりの人件費単価を下げる方法に関連して、一律の給与カットや賞与月数引下げによる負の影響を紹介し、個人の実力差を処遇へ反映させることの必要性を述べました。今回は、個人の実力差を処遇へ反映させるために不可欠である人事評価制度に関して、学校法人ならではの課題を考えてみます。

民間企業では、人事評価制度によって従業員の働きぶりを査定し、昇給・昇格や賞与に反映させることは「あたりまえ」のことになっています。労務行政研究所が平成22年に実施した「人事考課制度に関する実態調査」によると、目標管理による達成度評価は管理職で85.1%、一般社員で79.2%、成果に繋がる行動や業務プロセスに着目した評価は管理職で73.3%、一般社員で73.9%、発揮された能力を重視した評価は管理職で63.4%、一般社員で59.9%の民間企業で実施されており、人事評価の結果はほぼすべてのケースで昇給と賞与に反映されています。また、人事評価の結果を昇格へ反映している企業も管理職は88.2%、一般社員で89.8%に達しています。一定以上の評価を得る事ができなければ昇格できず、昇格できなければ給与や賞与は頭打ちとなりますが、このような評価と処遇は、民間企業であれば一般的なことになっているのです。

一方で、学校法人の人事評価制度の実施状況はどうでしょうか。「学校法人の経営改善方策に関するアンケート調査」(日本私立学校振興・共済事業団、平成20年)によると、「人事考課制度を実施している」大学法人は、教員で20.4%、職員で42.9%となっています。民間企業のように「教職員の働きぶりを評価する」ことは、まだまだ一般的なことではないようです。更に、同調査では32.0%の大学法人が「今後も教員は人事考課制度を実施する予定がない」と回答しており、教員の人事評価制度の導入と定着には相当の時間がかかりそうな状況です。

学校法人、特に教員に関して人事評価制度の導入が進まない(または定着しない)のには、いくつかの理由があります。まず、教員は、多様性に富んだ学問領域がある中で、特定の専門領域に関するスペシャリスト人材であり、自分の専門領域外の教員を評価することがそもそも難しい、という問題があります。これは、民間企業でも「専門職」と言われる人たちの専門性を評価することが難しいことと似ています。

但し、営利企業である民間企業ならば、業績という観点で専門職の評価を行うことが可能です。しかし「教員の業績とは何か」と問われると、極めて難しい問題です。例えば大学教授の場合の業績は、大きくは「教育成果」と「研究成果」であると考えられますが、特に「教育成果」について、妥当性の高い評価指標や評価方法はなかなか見当たりません。(一部に、学生の満足度評価を業績と捉える考え方もあるようですが、教育の本質を考えると、果たしてそれで良いのかという議論があって当然でしょう)

更に、学校法人の関係者とお話していると、日常的に学生・生徒を「評価する」立場である先生方には、他者から「評価される」ということに対する抵抗感があるようです。

一方、職員に関しては約4割の大学法人で人事評価制度が導入されているようですが、人事評価制度を処遇に反映することは容易ではないようです。職員に人事評価制度を導入している217の大学法人のうち、人事評価制度を「給与(手当含む)に反映させている」法人は45.6%、「賞与に反映させている」法人は63.1%に止まっています。人事評価を処遇へ反映できない最大の理由は「評価の信頼性、公正性を欠く危険性」の懸念です。約70.8%の大学法人が、このことを「人事考課制度のデメリット」として挙げています。

民間企業でも、評価の信頼性や公正性は常に問題となります。誰もが納得し、公正だと感じる人事評価を実現するというのは、極めて難しいことです。それでも、ほとんどの民間企業では人事評価を行い、処遇に反映させています。営利企業である民間企業は人件費管理によりシビアにならざるを得ないということもありますが、「完璧な人事評価制度が完成することを待っていたらいつまで経っても導入できない。そんなスピード感では、市場での競争に負けてしまう」という意識があるからだと、私は思います。

そもそも人事評価の信頼性や公正性は、評価基準や評価手続き等の「仕組み」と、評価者の責任感や評価スキルなどの「運用」の両方が揃うことで実現します。このうち「運用」については、真剣に人を評価し、その結果を本人にフィードバックした経験が少ない上司には極めて難しいことです。評価の経験を積む中で運用力を高めていくしかありません。つまり、最初から信頼性や公正性が担保された人事評価制度などない(客観的に測定可能な結果でのみ評価するという割り切りをすれば別ですが...)わけですし、人事評価制度を導入しなければ「運用力」が高まることはないのです。

ところで、今回のコラムは人件費の観点からスタートしているので、人事評価制度についても「処遇への反映」ということに焦点を当ててきましたが、もちろん人事評価制度は、処遇への反映のみを目的として実施される制度ではありません。学校法人の教育理念や組織ビジョンの実現に向けて教職員を方向付けることや、自らの成長を実感させることでモチベーションを高めること、または自身の強みと弱みを客観的に把握できる機会を通じて成長スピードを速めることなど、多様な目的を持って実施されます。処遇への反映において、最初から信頼性や公正性が担保できないから人事評価制度の導入を諦める(先送りする)というのは、極めて残念なことであると思います。

次回は、今回取り上げた人事評価制度の課題の対策について考えてみたいと思います。

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