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【コンサルタントコラム】
人事の新潮流(2018年) - 女性活躍推進の真の目的に立ち返り、今一度点検を【前編】

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はじめに

「働き方って、私たちが若かったころと比べて、ずいぶん変わりましたよね。」これは、同性・同世代の同僚とのある日のランチ時の何気ない会話の1フレーズです。既婚ではあるものの子どものいない筆者と2人のお子さんを育て上げた彼女とでは、見てきた時代・事象は同じでも、体感することには違いがあっただろうとも思います。

筆者が、社会人となったのは1990年代前半のことです。筆者の人生最初の上司は女性でしたし、管理職として活躍する女性の姿が身近にあり、女性社員の活躍が期待されていることを感じられる職場でした。が、当時は、キャリア・出世(管理職)も、妻も、母も、ましてワークライフバランス(無論、当時この言葉を聞くことはほとんどありませんでしたが)も、すべてを手にしている女性は、社内外を含め、そうそう見当たりませんでした。妻で、母で、職場では管理職を担っている女性は、限られた時間で責務を果たそうとされ、「いつも、急いでいる(=高効率に働く意識が高かった)。」ように見受けられ、ベビーシッターさんやご家族のバックアップを得ながら、懸命に成立させていた姿を目の当たりにもしました。


時代は巡り、冒頭の会話のフレーズにあるとおり、働き方は大きな転換期を迎えています。AIをはじめとするテクノロジーの進化、労働力不足という環境要因と相まって、女性の労働参加の機運は高まっています。一方で、女性活躍推進の取組みが、道(目的)半ばの状態で、足踏みしてしまっているのではないか、という問題意識があります。例えば、子育てとの両立支援策が既得権化する(かのように映る事象)など、今の状態が放置されることは企業にとっても、社会全体にとっても、マイナス面が大きいのではないか、という危機感も感じています。

また、筆者は、20年以上働く中で、男性でも女性でも優秀な人は優秀であり、「男性は~である。」「女性は~である。」と、ステレオタイプに語られる内容には、男性でも、女性でも、「例外」に思える人がごまんといる、ということを体験的に目にしてきました。男女の間には、確実に生物学的な違いがあり、同じではありません。ですが、能力、性質は『性差』ではなく、『個人差』であると捉えた方がしっくりきます。

男女の違いは、環境的・文化的な要因が大きいなど、性差によるバイアスとは矛盾する研究結果があるものの、日本は、他の先進国と比べて女性活躍の推進が遅れているとされています。

本コラムでは、性差によるバイアスの存在も含め、トピック、事例を交えながら、女性活躍推進の取組みの現状を振り返り、今後、どのように女性活躍を推進させるかについて前編・後編に分けて考察してみたいと思います。


女性活躍推進30年の歩み

① 価値観の変化

1986年に男女雇用機会均等法が施行されてから、32年が経過しました。女性の労働参加の必要性の議論は、景気変動の影響を受け、濃淡ありながらも、30年以上なされてきたことになります。1986年以降、さまざまな法令が整備され、2016年に女性活躍推進法が施行されるに至りました。加えて、「女性が輝く社会」をつくることは、安倍内閣の重要課題のひとつとされ、「すべての女性が、その生き方に自信と誇りを持ち、活躍できる社会づくりを進める。」と示されています。このような背景において、企業の女性活躍推進は、今、どのような状態にあるのでしょうか。同時に、女性の意識はどのように変化しているのでしょうか。


筆者の社会人スタートは、先に述べた通り、1990年前半でした。活躍する女性の諸先輩方に尊敬や憧れを感じる一方で、キャリア・出世(管理職)、妻、母、いずれに比重をかけるかは「個々人の選択」であり、いずれかの比重を上げれば、いずれかの比重が下がると思っていました。専業主婦の母、それを望む父という家庭環境で育ち、高校卒業時、四年制大学進学を選択肢として描くことさえなく短大進学を選び、仲の良い友達も皆、同じ進路(同じ志向だから仲が良いとも言えますが)であった筆者にとって、独身の時は、バリバリ働くとしても、結婚・出産などライフイベントの際には、家庭に比重を置くであろうことを前提にし、ゆえに、結婚後は、キャリア・出世(管理職)を手にすることを想定しない、強く望まないという考えに疑問を感じることもありませんでした。まさに粉骨砕身(1989~1991年に、「24時間戦えますか」という栄養ドリンクのCMがありました)に働いて生み出す実績によって得るポジションが管理職だとすれば、仮に、能力が同じでも投入する量が異なれば、それが男性でも女性でも、管理職というポジションを得る可能性が低いことは、ごく自然なことであると思っており、女性が(男性に比べて)不遇であると思うこともありませんでした。

筆者が高校を卒業した当時は、マクロでみても女子学生の大学進学率は短大進学率よりも低かったのですが、男女雇用機会均等法施行から10年経過後の1996年に初めて、女子学生の大学進学率が短大進学率を上回りました(図1)。1986年の男女雇用機会均等法は、コース別採用の是認など、不十分という指摘もありましたが、男性に限定した募集・採用が規制されたことで、大卒女子の門戸が開かれたことも影響したであろうと考えられます。男性と同等の高等教育を受けた女性たちが増え、仕事で成長し、キャリアを積みたいと考えることは、ごく自然の流れであるといえます。


< 図1.大学(学部)、短期大学(本科)への進学率(過年度高卒者を含む)>

出典:学校基本調査 文部科学省


このような変化とともに、価値観も変化・多様化していきます。2017~2018年の結婚情報誌ゼクシィのCMのキャッチコピーは、見事にそれを表していました。「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」。筆者は、「結婚情報誌のCMのキャッチコピーが、これか。」と時代の変化をしみじみ感じました。ネットなどでも、「結婚しない人のことを否定せずに、結婚の良さを伝えている。」「誰も傷つかない。」などと話題になっていました。1997年以降は、共働き世帯が片働き世帯を上回り、上昇傾向にある(※1)など、結婚、出産しても仕事を続ける女性が多くなっています。その一方で、女性管理職比率は、欧米をはじめとする先進国の中で低いことが注目されています。

(※1)男女共同参画白書 平成29年版 内閣府男女共同参画局


② 女性活躍推進の実感値

日本経済新聞社が2017年12月に行った2000人意識調査*1では、「自社の女性活躍が進んだ実感がある女性は2割どまり。6割は職場改革が進んでいないと感じている。」と報じられています。さらに、「活躍推進の実感には属性による差がある。年代別では、20代は「進んだ実感がある・どちらかというとある。」が25%だが、40代は17.6%。子どもありの女性は25.9%に対し、子どもなしは18.2%。入社時から期待を伝えられている世代や、両立支援制度を活用する機会があった層は実感割合が絶対的に高い。」とあります。


③ 両立支援策は、女性活用推進の取り組みのゴールではない

企業の女性活躍推進の取組みとして多くの企業が取組んでいると回答するのは、「子育てとの両立支援」に関する施策です。「女性活躍推進」の“女性”とは、政府が、「すべての女性」を主語にしているとおり、対象となるのは幼い子どもを育てている女性のみではありません。ですが、女性活躍推進が叫ばれる背景のひとつが、労働力人口の不足であるため、出産・育児中の女性がフォーカスされ、出産・育児によって退職を選択するのではなく、働き続けられる体制整備にまず取り組むことは、法令でもあり、優先順位として理解できます。ですが、先の実感調査で、年代および子どもの有無によって実感値に差異が生じる結果だったことは、多くの企業の女性活躍推進の取組みが、両立支援策に留まっていることを表しているとの見方もできます。

また、もう1歩踏み込んで言えば、そもそも、企業が取り組む両立支援策の目的は、“子育ての支援”ではなく、“子育てしながらキャリアを積むことができる環境の支援”だったのではないでしょうか。


ここからは、「両立支援策」の対象者が、“子育てしながらキャリアを積むことができる環境づくりの支援”と捉え、制度を活用しているのかについて、近年、話題になったトピックから考察していきます。




    A.「保育園落ちた、日本死ね」

    B. 保育所の利用申請、育休延長目的の「落選狙い」横行*2

    C. 子育て女性 成長求め転職「職場の配慮」が逆効果*3





A.「保育園落ちた、日本死ね」

国会でも取り沙汰され、話題になりました。働きたくとも、保育園に預けることができず、働けないという切実な訴えです。背景には待機児童の問題があります。子育てしながら働きたい、キャリアを積みたいという意欲ある女性が発した言葉ですから、社会としても、企業としても、支援すべき対象として解決していく必要がありますが、企業単独で手を打つことが難しい内容でもあります。

B. 保育所の利用申請、育休延長目的の「落選狙い」横行*2

2018年10月18日の日本経済新聞 朝刊の記事です。「育児休業を延長したい人が「落選狙い」で保育所の利用を申し込む事例が目立っている。育休の延長には保育所に子供を預けられないことを証明する落選通知が必要だからだ。保育所を利用する気がないのに入園が決まり、本当に預けたい人が落選してしまうなどの混乱が出ており、厚生労働省は保育所の手続きを見直す。」と報道されています。

原則的に子どもが1歳になるまでとされている育児休業が、保育施設が見つからない場合には2年に延長できる、いわば、セーフティネットの位置づけである施策施行が契機となり、落選狙いで、意図的に倍率の高い保育所へ申し込み、落選の通知を受けようとする事例が増えているようです。

社会保障の観点で、どうあるべきかの議論は避けますが、“子育てしながらキャリアを積むことを支援する”という観点での議論に絞ると、職場を離れる期間が長期化することによって、成長の遅れが生じる可能性は否めません。また、企業にとっては、人員計画の面で企業運営に影響を及ぼします。当該女性社員の育児休暇期間中に業務を賄う(穴埋めする)上司、同僚の負担が長引く可能性もあります。

このような行動をする一部の子育て女性社員の姿は、女性活躍の推進、子育て社員の働く環境づくりを進めようとする企業の取組みの機運に水を差しかねません。このような事例が生まれる理由には、当該女性の意識の問題も、もちろんあると思いますが、それまでの職場体験などによって、そのように考えさせてしまったという側面もあるのかもしれません。

C.「子育て女性 成長求め転職「職場の配慮」が逆効果」*3

2017年12月5日の日本経済新聞 朝刊の記事です。「小さな子どもを持つ女性の転職が目立つようになってきた。やりがいを感じられる仕事をしたい、経験や知識を生かしキャリアを積み続けたいという思いからだ。ママ社員を戦略的に採用する企業も出てきた。」とあります。

両立支援策を整備し、復職後も、良かれと思って、与える仕事を考慮(セーブ)してきた企業にとって、本末転倒の結果であると思います。子育て中の社員であるか否かに関わらず、意欲ある社員をみすみす失うことは企業にとっては避けたいことです。


これらのトピックは、子育て中の女性社員のすべてを表しているわけではありません。子育て中の女性であっても、一様ではなく、多様な価値観を持った人々と捉えなければならないことがわかります。仕事観、結婚観やとりまく環境などによって、多様なライフスタイル・コースが女性の間で生まれていることは事実であり、この環境下で女性活躍推進を企業としてどのように進めればよいのか、制度としてどのように運用していくのか。今一度、点検し、考える段階に差し掛かっているのかもしれません。世界各国との比較も大切ですが、ここでは国内で女性活躍推進の先進的企業と認知されている資生堂の事例を取り上げ、資生堂が辿った道のりを知ることで得られる示唆がないか、みてみたいと思います。


④ 「資生堂ショック」に学ぶ、女性活躍推進のステップ

「資生堂ショック」という表現で報道、認知されているとおり、「子どもを産みづらい仕組みに変えるなんて、マタハラとしか思えない。」「子育て社員に冷たい。」などと、内容を正しく理解することなくネガティブにインターネットで拡散され、議論を呼びました。資生堂が女性活躍推進の先進的企業として認知され、「女性が働きやすい会社」「子育てがしやすい会社」というイメージであったことが、人々により大きなショックをもたらしたともいえます。

当然ながら、実態や背景は、インターネットで拡散されている内容とは相違があります。すでに複数の書籍で示されているとおり、議論の発端は、「育児時間勤務者も遅番、土日、休日勤務を検討してもらいます。実施は2014年4月からで、それまでに地域や家族の協力、有料保育サービスの利用などを通じて保育環境を整備してください。」と『働き方の見直し(制度の変更ではない)』を打ち出したことにあります。『働き方の見直し』の背景には、職場の不協和音があったといいます。「子育て中のビューティコンサルタントが「育児時間があるから仕事と育児が両立できている」と喜んでいる一方で、遅番・休日勤務が常態化したビューティコンサルタントは「プライベートな時間を持ちにくい」「仕事の負担に偏りがある」と訴えた。」とされています。短時間勤務者の増加や制度利用者の意識のバラつきが、そのような声を産むことになったのです。*4

「資生堂ショック」という表現で世間を賑わせましたが、資生堂は、図2のような「女性活躍の3ステージ」を想定しており、世間で議論が起こったタイミングは、第3ステージへとさらに歩を進めた瞬間でもあったのです。


<図2.資生堂の考える「女性活躍の3ステージ」>

出典:資生堂インパクト 子育てを聖域にしない経営(2016) 石塚幸夫 日本経済新聞出版社


両立支援策によって時短勤務の社員が増えている多くの企業においては、資生堂で起こったことを女性社員が多い企業特有の問題と矮小化して捉えはしないでしょう。両立支援策が“子育て支援”に留まらず、“子育てしながらキャリアを積むことができる環境の支援”として機能できるようにしていく必要があります。著書「資生堂インパクト」*4に全女性社員を対象に行ったキャリアサポートフォーラムで当時の副社長が語りかけたとされる言葉が紹介されています。「会社の子育て支援策はセーフティネット。フル活用する権利を社員が持っているわけではない。仕事と子育てをどうすれば両立できるか、まずは自助努力で、できることを考えて実行してほしい。どうしても自分たちで解決できないハードルがあったら、そのときは会社の制度を遠慮なく使って働き続けてほしい。でも、会社に仕事で貢献する気持ちは忘れないでほしい。」最後の一文は、男女を問わず、時間的制約の有無を問わず、企業で働くすべての社員に共通してあてはまることではないでしょうか。


次回後編では、企業の人事部門が、今後の女性活躍推進の取組みを考える際に、今一度、点検すべき着眼点をとりあげ、考察してみたいと思います。



【参考文献】

*1日本経済新聞朝刊 2018年1月16日
*2日本経済新聞朝刊 2018年10月18日
*3日本経済新聞朝刊 2017年12月5日
*4資生堂インパクト 子育てを聖域にしない経営(2016) 石塚幸夫 日本経済新聞出版社
女性活躍の推進 資生堂が実践するダイバーシティ経営と働き方改革(2016)山極 清子 経団連 出版

執筆者プロフィール

クレイア・コンサルティング株式会社
コンサルタント    吉ノ薗 俊子(よしのその としこ)
市邨学園短期大学(現:名古屋経済大学短期大学部) 商経科卒業。

コンタクトセンターの企画・運営を行う大手テレマーケティング会社にて、総務部門、スーパーバイザー、教育トレーナーおよびトレーナー養成インストラクター、品質管理部門の立ち上げ・運営を経て現職。

人事制度改革の企画・設計段階だけでなく、導入・定着段階でのコンサルティングを数多く経験。役割評価や人事評価の定着・浸透、新人事制度と連動した教育研修や意識改革ワークショップの企画・実施、人材アセスメントなど、新人事制度を確実に定着させるきめ細やかなコンサルティングを得意とする。


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