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【コンサルタントコラム】
人事の新潮流(2018年) - IT人材の変化とマネジメントのあり方

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要旨

IoT、AI、ビッグデータ・・・

今後、これらのテクノロジーと無縁でいられる企業はほとんどないでしょう。

ICT(Information and Communication Technology)人材の需要は、あらゆる産業・事業領域で拡大していくと想定されます。既に、ICT人材の獲得競争は相当な過熱状態にあります。

ICT人材は、従来のIT人材と同じでしょうか?

ICT人材を獲得し、有効に活用するために、どのようなマネジメントが求められるのでしょうか?

今回のコラムでは、このような「ICT人材のマネジメントのあり方」について考察してみたいと思います。


IT人材の変化

そもそもICTとITの違いは何でしょうか。

「Information Technology」の間に「Communication」が入っているのがICTです。

ICTとITが厳密に使い分けられている場面は少ないですが、(ITではなく)ICTを用いる場合には、「ネットワークを駆使した情報の伝達・共有・活用の技術」が強調されていると考えられます。ちなみに、国際的には既にITよりもICTという用語を使うことが一般的とされているようです。


上述のように、「IT」と「ICT」が厳密に使い分けられている場面は少ないのですが、目まぐるしく進化する情報技術分野の人材のあり方を考える上で、敢えて「IT人材」と「ICT人材」を区別して考えてみたいと思います。(現在、各社でIT人材と呼ばれている人はICT人材ではない、ということではありません)

「IT人材」と「ICT人材」を敢えて区別するとしたら、ICT人材には、IT技術に加えて、ネットワークと情報活用に関する技術や見識が求められるところが特徴的であると考えられます。

これは、単純に「情報技術の種類」に留まらず、人材の思考・行動傾向にも違いがあるということを示唆しています。ネットワークとはまさに「繋がる」ことであり、内に閉じた思考や行動ではなく、積極的に外部の世界と繋がり、ネットワークにおいて共通化された様式に沿って思考・行動できることが求められます。「内に閉じた思考・行動」とは、いわゆる内向的な性格とか、人と話すのが苦手、ということとは違います。情報技術の世界では、コミュニケーションにテクノロジーが介在することで、いわゆるヒューマンコミュニケーション力(伝統的な意味でのコミュニケーション力)が得意ではない人でも、活発に外の世界と繋がり、情報共有や協働作業をすることができます。(※本コラムはビジネス社会を題材としているので、「外の世界」とは「社外」というイメージで捉えます)

「ネットワークで共通化された様式に沿って思考・行動できること」という要件は、企業の人材マネジメントに大きな変化を要求します。

「自社に特有(独特)の仕事の仕方、意思疎通のしきたり(阿吽の呼吸)」は、ネットワークの世界で人材を育成し活用していく局面では、障害となります。しかし、日本企業では、IT人材であっても「自社に特有の仕事の仕方や意思疎通のしきたり」に馴染むことが求められてきました。これに馴染むことができない人材は、「技術力はあっても、仕事はできない」と評価されてきました。

例えば、多くの企業がERPの導入に際して「システムを自社の業務フローに合わせてカスタマイズすること」を重視しました。「標準化されたシステムに合わせて仕事のやり方を変える」のではなく、「人が行ってきた作業をシステムに置き換える」ことが、ERP導入や業務のシステム化の際に行われてきたことだったのではないでしょうか。このようなIT活用では、IT人材に対しても、情報技術だけでなく、自社の業務のやり方(その多くは、社員が慣れ親しんだ慣習やしきたり)を学ぶことを求められ、その学習に多大な時間と労力が費やされました。IT技術に長けていても、社内の業務や意思疎通のあり方に馴染めない人は、各職場のニーズや機微を理解することができず、つくり上げるシステムは「使いづらい」「現場をわかっていない」と評されてしまいます。


このようなIT人材の育成と活用では、ネットワークの世界についていくことは難しいと想定されます。

社内に蓄積されてきたやり方、慣習、しきたりなどを忖度する能力よりも、日進月歩の情報技術の世界から自社の事業や業務を冷静に分析し、ビジネスモデルや業務フローを構造から見直す能力の育成を重視すべきでしょう。そして、このことは、人材マネジメントにおいて次のような課題を生じさせるでしょう。


  • 自社で育ってきた経営陣や管理職には、ICT人材の適正な評価(と処遇決定)が難しい
  • ICT人材は、自社へのコミットメントを高めにくく、社外に流出しやすくなる
  • 他の社員とICT人材の軋轢が発生し、双方にストレスが溜まる

本コラムでは紙面も限られているため、「ICT人材のコミットメントを高めるためには」という観点に焦点を当てて考察してみたいと思います。


ICT人材のエンゲージメント

会社が社員のコミットメントを高める手段は、価値観と行動様式、インセンティブシステム(評価と処遇)、人間関係、等々多岐にわたります。これらを複合的かつ効果的に組み合わせて、コミットメントを高め、長年にわたって維持していきます。

ここでは、ICT人材の特性を踏まえ、「エンゲージメント」という考え方に注目してみたいと思います。

エンゲージメント(Engagement)とは、組織とそこに所属する従業員との関係性を表す言葉であり、エンゲージメントが高い状態は「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力(仕事に費やす努力をいとわない状態)、熱意(仕事に誇りややりがい感じている)、没頭(仕事に熱心に取り組んでいる)によって特徴づけられる。特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ、全般的な感情と認知」と定義されています。

活動水準が高く仕事に対して肯定的な態度・認知を持っている状態であり、バーンアウト(燃え尽き症候群)の対概念とされています。



エンゲージメントの高さは、個人の特性(「個人の資源」)と仕事をする環境(「仕事の資源」)の影響を受けて変化します。担当の仕事の難易度や成果を出すまでの期間、裁量の大きさ、上司からの支援の質・量などが適切であればエンゲージメントは高まり、逆に、その人に合わない場合は低下します。つまり、対象に合わせた環境を準備することがエンゲージメントを向上させるカギとなります。



「個人の特性を踏まえて、仕事のマネジメントをしましょう」と言ってしまえば、何とも単純で当たり前のことに思えます。しかしながら、日本企業の多くにおいて、「(個人の特性を活かす以前に)会社の行動規範や慣習に適応すること」の方が重視されているのではないでしょうか。

そのような背景の中で「個人の特性を踏まえた仕事のマネジメント」を行おうとすると、次のような阻害要因(3つのカベ)に当たってしまうことが想定されます。


1.上司のカベ

まず想定されるのは上司のカベです。これは、上司がマイクロマネジメントによってメンバーの行動をすべて監視し、公式のルールから外れることや前例のないことに対する理解がなく、メンバーの自律的な思考・行動を阻害する状態を指します。

上からの指示に忠実に従いながら仕事をしてきた人物が上司となった場合や、短期的な組織目標必達以外のことには理解・関心を示さない上司の場合には、このような状況が発生しやすいと考えられます。

私たちの経験では、上司のカベの根本原因のひとつに、管理職昇格試験(あるいは昇格アセスメント)の副作用があると感じることが増えています。多くの企業では、管理職への昇格は狭き門であり、昇格審査では、過去の人事評価や上司推薦に加え、昇格試験やアセスメントが要件となっています。この昇格試験やアセスメントの基準が「拡大再生産型組織のマネジメント力」をベースに作られていると、計画通りに整然とマネジメントができる人、リスク回避が上手な人が高得点を取り、一貫性のないマネジメントは低評価となります(個人の特性に合わせたマネジメントは、一貫性がありません)。

特に技術・研究開発系領域において、「技術者のモチベーションを引き出すことが上手な人なのに、整然とした管理が苦手だから、アセスメントに受からなくて困っている」という悩みを聞くことが多くなっています。

2.組織のカベ

上司のカベを超えた後に想定されるのは、組織のカベです。これは、官慮主義やセクショナリズムによる全体最適視点の欠如によって、自律的な行動が阻害される状態のことを指します。

対応策としては価値観の明文化やクロスファンクショナルチームの設置などが考えられます。

例えば、高いホスピタリティで有名なリッツカールトンホテルでは、自分たちが大切にする価値観がまとめられたカードを常に携帯し確認できる状態にすることが、従業員の身だしなみの基準として定められています。

価値観や行動規範の中には、ICT時代においても普遍的なものもあるでしょうが、見直しが必要なものもあるかもしれません。ICT時代に適応した行動規範のあり方について、再検討してみることも有効でしょう。

また、セクショナリズムはそれぞれの部門が自部門のみの視点で考え、全体視点が欠如していることから発生します。そこで、部門横断的な活動を支援するクロスファンクショナルチームを設置し、組織の境界に対する意識のハードルを下げることが有効であると考えられます。

3.文化のカベ

上司のカベと組織のカベに加えて想定されるカベとして、文化のカベが挙げられます。これは、前例踏襲的で、新しいことへの挑戦に対して否定的な従業員によって発生するカベです。

ICT人材の発想や行動は、これまでの仕事のやり方に慣れた社員から見ると異質に見えることも多いでしょう。社内の慣習やしきたりを気にしないような立居振舞いが不快に思える社員もいるでしょう。文化のカベを乗り越えるには、相応の時間がかかるかもしれません。

現実的な策は、組織を分けることでしょう。私どものクライアントにも、ICTの中核を担う部門を分社化し、人事をはじめとするマネジメントを独立させている企業も少なくありません。カベがなくなることが最も望ましいのでしょうが、日進月歩の情報技術の世界では、組織構造を変えることによって、スピードを落とさないようにすることも必要です。


まとめ

今回は、ITとICTの違いに着目して、情報技術領域の人材マネジメントの変化について考察してみました。

ITという言葉も概念も、もう目新しいものではありません。IT人材の中にも「新型」や「旧型」と呼べるような違いが生まれてきています。

多くの企業のおいては、ITは経営ツールのひとつでしたが、今後はビジネスモデルの根幹となってくでしょう。そもそも情報技術が日々進化していくものですから、「IT人材のマネジメントのあり方」も変化していくはずであるという認識のもとで、人事領域のご担当者もITに関心を持ち続けることが必要であると思います。


執筆者プロフィール

クレイア・コンサルティング株式会社
コンサルタント    後藤 英樹(ごとう ひでき)
国立大学大学院 農学生命科学研究科修了。

海運企業にて国内法人営業および海外拠点責任者として現地スタッフの採用・評価・教育など人事管理全般の業務を経て現職。
組織改革の一環における人事制度構築(キャリア開発・人材育成体系の設計)、コミュニケーションプラン策定、階層別研修の設計・実施等に従事。


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