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M&Aにおける投資先・買収先の組織変革

M&Aにおける投資先・買収先の組織変革に人材マネジメント面からのアプローチが必要な背景

近年、日本において投資会社による企業買収が非常に活発になっています。

主な理由が事業承継問題で、中小企業の買収や事業構造改革を目的とした大企業の子会社の買収など、今後も投資会社によるM&Aは増加を続けていくと思われます。投資会社によるM&Aは、バリューアップ後の売却によるリターン回収がゴールになるため、バリューアップにつながる施策を迅速に実施し、買収先を変革していくことが求められます。

また、投資会社だけでなく事業会社による企業買収もより活発化しています。自社の既存事業とのシナジー創出を目的とした企業買収においても、ただ買収し株式を所有するだけ、ではなく事業戦略や業務プロセスの統合など、買収先の変革を行うことが求められます。

いずれにしても、M&Aにおいては、事業戦略の転換やそれを支える経営基盤の整備など大幅な変革を伴うことが常です。変革を成し遂げるためには、事業を担う社員一人ひとりへの落とし込みが重要なことは論を待たないでしょう。

組織には慣性があり、変革を行おうとしても元に戻ろうとする性質があります。人材マネジメントの変革や社員の行動変容を行わなければ、新たな事業戦略はお題目と化してしまいます。

買収前と社員の物事の考え方や仕事の仕方は、業界や業種の性質、会社の戦略や風土、など様々な要因が複雑に絡みあって規定されています。社員の行動変容を行うには、単に組織構造や評価の基準を変えたり、研修を行ったりするといった、継ぎ接ぎの施策では不十分です。事業戦略に基づき人材マネジメントの方針を見直し、様々な施策を組み合わせることで、初めて行動の変容を促すことができるのです。

しかし、M&Aの場面で実施される人材マネジメントに関わる施策は、DAY1からの円滑な滑り出しに特化していたり、事業戦略を見直し実行する過程で社員が新たな事業戦略に適応できていないことが分かって初めて検討されたりするなど、真にバリューアップやシナジー創出につながる施策になっていないことがあります。

真のバリューアップ・シナジー創出を実現するためには事業戦略の見直しとリンクした形で、人材マネジメントの変革を適切なタイミングで実施していく必要があります。

MA&における、投資先・買収先の人材マネジメントの変革とは

そもそも投資先・買収先企業の、人材マネジメントの変革はどのようなステップで行うべきなのでしょうか?

企業買収における人材マネジメント変革のフェーズは大きく4つに分けることができます。

企業買収における人材マネジメント変革

フェーズ1・2はリスクの軽減や基盤の整備、社員との信頼関係の醸成という「守り」に重きを置いたものであり、直接的なバリューアップやシナジー創出につながりづらいものです。

フェーズ3・4は事業戦略に呼応した人材マネジメントの変革や、さらなる成長に向けた変革が真にバリューアップ・シナジー創出につながる人材マネジメントにおける変革であると考えます。

以下に各フェーズについてご説明します。

フェーズ1(DAY0~1):DAY1に向けた統合・現状把握

人事デューデリジェンスを通じてDAY1に向けた課題の現状把握やPMIプランの検討を行います。カーブアウト案件であれば、スタンドアローンイシューへの対応を行い、DAY1以降に独立した企業体として自走するための最低限の基盤を整えます。

フェーズ2(DAY1以降1年目):変革に向けた基盤整備

フェーズ1で明らかになったリスクへの対応を始めとするPMIプランを実行するとともに、フェーズ3の改革に向けたあるべき人材マネジメント像の方針検討を行います。

この期間で重要となるのは、株主や経営陣の変更に伴う社員の不安を軽減し、既存のビジネスが止まることなく動き続ける状態を維持することです。この期間は、環境変化による社員の流出やモチベーション低下などが発生する可能性が高く、信頼関係や安心感の醸成に重きを置くことになります。

大きな変化は社員の不安を招く可能性が高いことから、労務リスクへの対応や人事運用の改善、労働環境の改善といった社員に直接影響しない改革や社員の不満を解消するような改革に注力することになります。

フェーズ3(2~3年目):改革期

フェーズ2で培った信頼感を基盤に、事業戦略に応じた人材マネジメントを行うための施策を実行します。バリューアップ・シナジー創出を念頭とした新事業戦略が実行段階に入っており、事業を推進できる人材マネジメントへの変革が強く望まれます。

フェーズ4(4年目以降):次なる成長に向けた転換期

さらなる成長を促進するための施策の検討と共に、人材の世代交代に向けた取り組みが必要になります。買収後に実施した事業戦略の効果、また、フェーズ2・3で実施した人材マネジメント施策の効用・副作用が明らかになる段階であり、次の成長に向けた施策の検討が求められます。

十分に次世代のリーダーが育ち、自走できる状態になっているか点検し、中長期目線で人材育成を行うことで会社が自走してバリューアップ・シナジー創出していける状態とすることを目指します。

具体的な人材マネジメントのアプローチ

では、バリューアップにつながる人材マネジメント面からの具体的アプローチについて考えていきます。

すでに述べた通り、企業買収においてはバリューアップ・シナジー創出につながる施策を迅速に計画・実行することがポイントとなります。人材マネジメントに関わる施策は効果が見えにくく、後回しにされることも多いように思います。

しかし、繰り返しですが、事業戦略の転換や経営基盤の整備を行うにあたって人材マネジメントの変革は必須です。

組織には慣性があり、いくら新たな施策を打ち出したとしても、従来の意思決定や行動様式と異なるものはなかなか浸透しづらいことがあります。また、変革の結果、想定外の影響が表れることもあります。これらをよく踏まえたうえで変革期の人材マネジメントの在り姿を検討し、適当な施策を実行することが必要になります。

ここでは必要になる人材マネジメント施策について、小売業を例に挙げて具体的に考えてみます。

1.「客単価を増加させる」という事業戦略をとる場合

客単価をあげるために購入点数を1つ増やす、という取り組みを行うとしましょう。

来店客がもう一点買いたくなるようにするには、DPや陳列等売り場の見直しや店員からの声掛けなど、多様な取り組みを日々見直していくことが必要になります。そのためには日々売り場に立ち来店客を一番よくみている店員が「もう1点多く売る」ための取り組みを自発的に行える状態にすることが必要です。

そこで「顧客にもう一点追加で買ってもらえるように声掛けをしましょう!」というお題目を経営陣や部門長が唱えたり、マニュアルを整えたりするだけで社員の行動は変わるのでしょうか?

多くの小売業の現場では、「たくさんの顧客をスムーズに捌く」という方向に社員が意識づけられているのが実態です。このような現場で評価されてきた社員は、効率よくオペレーションを回せる社員です。そして評価する側の店長などのマネジメント側も効率を重視する考え方が刷り込まれているでしょうし、評価の基準にもそれが反映されていると思われます。

このような組織において求められてきた人材像は「要領がよい人」であり、採用時もきびきびとした印象を与える人を優先していると想定されます。

購入点数を増やすために顧客を観察する、声がけを行うという業務はオペレーションの手を止めてしまい、これまで良しとされてきた行動に時として相反するものになります。新しい方針に従い「もう一点買ってもらえる」というようなオペレーションを構築したとしても、採用する人材や評価される人材にまでその考え方が徹底されていなければその効果は薄まります。

このように事業戦略の見直しは、求める人材像に変化をもたらします。この人材像の変化を社員に十分に浸透させ行動様式を変化させるには、オペレーションだけではなく評価基準や役職任用の基準、社員教育の考え方を見直す必要があります。小手先のオペレーションの見直しだけでは、徐々に元に戻ろうとする組織の慣性を止めることはできず、オペレーションの無視・旧来のオペレーションへの回帰が起こるなど現場の暴走が始まり、経営のコントロールが効かなくなってしまうことも懸念されます。

2.人件費を効率化し、営業利益を増加させる場合

競合と比較してコスト高に陥っている小売業において、人件費の圧縮を目的として、正社員中心から単価の安いパートタイマー中心へと雇用ポートフォリオを見直すとしましょう。

日本の雇用慣行では正社員を削減することは難しく、正社員の削減は新規採用の中止と自然減により徐々に行われていきます。具体的には、新規出店時にこれまで正社員を10名新たに雇用していたものを、正社員4名の既存店からの異動とパートタイマー25名の新規雇用に見直すというように、徐々に比率を下げていくという方法になります。

この時に問題となるのが、数が絞られる社員の役割、数が増えるパートタイマーの役割はこれまでと同じでよいのか、パートタイマー中心の組織はこれまでの正社員中心の組織と同じ仕組みで問題なく機能するのだろうか、ということです。

正社員中心の組織とパートタイマー中心の組織では、正社員・パートタイマーがそれぞれ担う役割は異なります。

一般に、正社員はパートタイマーと比較して勤続年数が長く、業務経験も豊富です。それと比較し、パートタイマーは、勤続年数が短くなる傾向にあり、勤務時間の短さから正社員程早くは業務に習熟しません。パートタイマーを中心とした組織に転換するにあたって、正社員は業務指導やイレギュラー対応が重要な役割となります。

しかし、正社員中心であった組織では業務指導を担える社員は経験が長い社員に限られていたり、社員であってもイレギュラー対応力が低くても良しとされてきていた可能性があり、十分に上記の役割を担えないことが想定されます。

さらに、パートタイマーが増えることで職場の人間関係に配慮が必要となり、社員にはこれまで求められていなかったコミュニケーション能力が新たに求められるようになります。パートタイマーはフリーターや学生、主婦など背景や価値観が違う人材が集うため、その間を取り持ち、健全な人間関係を構築することが社員の役割に加わるのです。

このように雇用ポートフォリオの見直しは正社員が果たすべき役割に変化をもたらします。この変化に則した人材マネジメントの見直しを行い、採用や教育、評価の仕組みを再構築する必要があります。社員が役割の変化に対応できなければ、パートタイマーをマネジメントできず退職が相次ぎ、常に採用に追われ、人手も減った中でオペレーションが崩壊していく、という悪循環に陥ることが懸念されます。

変革期の人材マネジメントのあり姿は、新たな事業戦略や組織像に基づき描くものであり、人材の役割に変化をもたらす要素をつぶさに分析、新たな役割を明確にすることが必要です。新たな役割に基づき、適切な行動変容を行ったり、必要な能力を身につけさせたりすることが人材マネジメント面からのアプローチの役割になります。

クレイア・コンサルティングのアプローチ

バリューアップに寄与する人材マネジメントの変革を行う上でのポイントは、まず、事業や組織の改革が人材マネジメントに及ぼす影響を明らかにすること、特に求める人材像を再定義し、現有人材が担っている役割からの変化を明らかにすることです。そのうえで、新たな役割を担える人材を特定し、行動変容に向けたアプローチとして意識改革と新たな行動様式を定着させるための仕組みの整備を検討します。

クレイア・コンサルティングは、経営戦略や組織戦略、あるいは評価や報酬などの制度設計に関するプロフェッショナルであると同時に、「ヒト・人材」に関するプロフェッショナルでもあります。組織における「ヒト・人材」の行動原理を踏まえた、幅広く、かつ本質的な変革施策を提案していきます。

1. 求める人材像を再定義し、現有人材が担っている役割からの変化を明らかにするためのアプローチ

新たな事業戦略の実現にあたり求める人材像を再定義します。求める人材像をさらに細分化し人材ポートフォリオを検討します。各人材の役割を定義し、人数や評価・処遇の方向性を検討したうえで、現有人材との質的・量的な比較を行います。

人材ポートフォリオ

求める人材像と現有人材の比較を行い、具体的にどのような行動変容が必要になるのか明らかにしていきます。

また、人材ポートフォリオを作成することで、現有人材の質的転換で事足りるのか、外部からの採用が必要になるのか、要件を満たさない現有人材はどの程度いるのか、といった定量的な検証を行うことも可能になります。

定量的検証を行うことで、あるべき組織の姿を実現するための要員計画を立案することや、事業計画の実現可能性の検証や採用・育成の切迫感に経営陣が共通の認識を持つことができるようになります。

人件費シミュレーション人材ポートフォリオも併せてご覧ください。

2.行動変容に向けた意識改革を行う

求める人材像と現有人材の比較をもとに、社員の行動変容に向けた意識改革の取り組みを行います。

新たな経営戦略や事業戦略に基づき企業理念やビジョンを設定することで、社員は自らも変わっていかなければいけない、という意識を持つことになります。ここで重要なのは、不安をあおるのではなく、会社がよい方向に向かっていこうとしている意識を醸成し、社員が一丸となって新たな取り組みに向かえるようにすることです。

企業理念・ビジョン浸透も併せてご覧ください。

3. 新たな行動様式を定着させるための仕組みを整備するためのアプローチ

社員に意識改革の働きかけを行った後、人材の行動変容を定着させるための仕組みとして新人事制度を整備します。

行動変容を定着させるために、新人事制度は従来と異なる考え方や基準をもとに設計し、違いを明確にすることが重要になります。

等級制度であれば、求める人材像を明確にするためのこれまでと違った仕組みを構築することがあり得ます。例えばこれまで職能資格に基づき等級を定義していたものを役割基準や職務基準に見直す、等級体系を複線化し部下なし管理職を廃止する、といったことが考えられます。

また、評価制度の設計では、再定義した人材像に基づく、推奨される行動とそうでない行動を明確にすることが重要になります。場合によっては、従来良しとされてきた行動を否定する必要もあります。新たな考え方を一貫して評価基準の文言や評価の尺度、評価表の構成などに反映していきます。

報酬制度の設計では、等級制度や評価制度に基づき処遇水準や処遇の変動ルールを定めていくことになりますが、過度に変えすぎないことも重要です。処遇を大きく変えることは社員の生活を脅かすことにもなり、安心感を損なうことになります。事業や組織が変わり、等級や評価が変わっても、社員が前向きに働き続けることが出来るような段階的な変革も考慮に入れるべきです。行動変容を促すためには新しい役割を果たすことが出来る人材は大きく処遇し、これまでから行動を変えられない人材は徐々に処遇を見直していくなど、一定の配慮の元に変革を行うことが求められます。

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