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エンゲージメントを高めるには~テレワーク下の課題と対策~

生津 大知、 桐ヶ谷 優 2022.7.14

テレワークによる従業員の変化

ニューノーマルにより、時間や場所を共有しない働き方、すなわちテレワークが多くの企業で導入されています。そのため、職場で上司や同僚・部下とともに、顔を合わせながら働くことは、当たり前ではなくなりました。パーソル総合研究所が行った調査(2022年2月)によれば、「テレワークを続けたい」と答える社員の割合は8割を超えています(*1)

本稿では、そうした働き方の変化によって何が起きるのか、そして従業員の意識、ひいては会社経営にどのような影響を及ぼすかについて、近年注目される「ワークエンゲージメント」の視点から解説します。

ワークエンゲージメントとは

「ワークエンゲージメント」とは、ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らが提唱した概念で、「仕事に関連するポジティブで充実した個人の心理で、活力(仕事から活力を得ていきいきとしている)・熱意(仕事に誇りとやりがいを感じている)・没頭(仕事に熱心に取り組んでいる)の3つが揃った状態」と定義しています(*2)

また、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた「一時的な状態」ではなく、仕事に向けられた「持続的かつ全般的な感情と認知」と特徴づけられています。

つまり、ワークエンゲージメントは「個人」と「仕事全般」との関係性を示す概念で、持続的かつ安定的な状態を捉えていると言えるでしょう。

ワークエンゲージメントとは
(*3)島津明人・江口尚 『ワーク・エンゲイジメントに関する研究の現状と今後の展望 「産業医学レビュー」 Vol.25 No.2』(2012年8月)を参考に弊社作成

ワークエンゲージメントは仕事における前向きな感情という点で、類似する概念が多く存在しますが、ここでは特に比較されることの多い「職務満足感」「組織コミットメント」との違いを通して、ワークエンゲージメントの特徴を確認します。

職務満足感との違い

ワークエンゲージメントと職務満足感は、仕事への態度・認知が「快」であるという点で共通しています。

しかし、職務満足感は仕事「に関する/対する」受動的な感情であり、仕事「をしているとき」に高い活動水準を示すワークエンゲージメントとは異なると言えるでしょう。

組織コミットメントとの違い

ワークエンゲージメントとMawday et al.(1979)らが提唱した組織コミットメント(特定の組織に対する個人の一体感と関与の相対的な強さ)は、仕事において熱意があるといった点で共通しています。

しかし、組織コミットメントは個人と組織の関係を示す一方で、ワークエンゲージメントは個人と仕事全般の関係を示しています。

ワークエンゲージメント向上による効果とは

次に、働く人のワークエンゲージメントが高まることで組織には具体的にどのようなメリットがあるのか、研究論文をもとに、ワークエンゲージメント向上における効果を、①個人のアウトカムと②企業の業績という2つの面から見ていきます。

①個人のアウトカムに与える影響

ワークエンゲージメントの向上、つまり「いきいきと誇りを感じながら熱心に仕事に取り組むようになること」で、さまざまなポジティブなアウトカムを予測することが多くの実証研究において支持されています。

代表的なものは、仕事におけるパフォーマンスや革新性・創造性、自発性の向上、組織コミットメントの向上、定着率の向上、抑うつ、不安の減少、健康増進などが挙げられます。

②企業の業績に与える影響

Xanthopoulou, Bakker, Demerouti, & Schaufeli(2009a)は、ワークエンゲージメントと収益に正の相関があることを、ファストフード3 店舗の従業員42名を対象とした研究から明らかにしました(*4)

この研究では、ワークエンゲージメントを、長期にわたって安定しつつも短期的に変動しうると想定したうえで、日ごとのワークエンゲージメントの高さが日ごとの店舗の収益と相関することが示されています。

また、「ワークエンゲージメントと経済指標などの客観的なアウトカムとの関連を検証した研究はごくわずかしかない」とされています(*5)

しかし、ワークエンゲージメントの高い社員は誇りややりがいをもちながらいきいきと、そして熱心に仕事に向かうため、自社の戦略への理解度や戦略の実現に向けた貢献意欲が高いことに加え、前述の個人のアウトカムもポジティブなものとなることから、結果として高い業績が実現されると考えられています。

なぜ今エンゲージメントが注目されているのか

VUCAの時代の到来に加えて、ニューノーマルにより他者と接触しない、また他者と時間や場所を共有しない働き方が浸透するなかで、近年「企業を取りまく環境」や「従業員の意識」は大きく変化しています。

そのような大きな変化が起きている今だからこそ、ワークエンゲージメントの効果(前述のとおり、ワークエンゲージメントの向上は離職率の低下、仕事のパフォーマンスの向上などのポジティブなアウトカムにつながる)を求め、注目を集めています。

企業を取りまく環境の変化

企業が従業員のエンゲージメントを重視する要因として、主に次の3つが挙げられます。

1.人手不足

日本の労働市場は、約10年間、慢性的に人手不足の状態にあります。日本銀行の「全国企業短期経済観測調査(短観)」の雇用人員判断D.I.によれば、2013年に人材過剰から不足に転じて以降、人材不足感が継続しています(*6)

コロナ禍の不況においても、(全産業でならせば)人材は不足しており、また景気回復とともに不足感はビフォーコロナに近づきつつあります。従業員の獲得と定着は、今後ますます重要な課題になるでしょう。

大企業における人材不足感
(*6)日本銀行「短観」をもとに当社作成

2.人材獲得競争の激化

時間や場所の制約が表面化したことで、デジタル化やDXなどのビジネスの高度化が起こるとともに、関連する人材獲得競争激化の傾向が見られます。

アメリカを始めとする諸外国に続いて日本においても、AIやデータサイエンスなどに関する高いスキルを持つ優秀なデジタル人材の新卒・中途採用を行う際に、通常よりも高い報酬水準を設定する例が見られます(*7)。そうした社員のリテンションのためにも、エンゲージメントは重要です。

3.人的資本経営に対する意識の高まり

「人的資本経営」とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方を示した概念です。

2021年6月施行の改訂コーポレート・ガバナンスコードに「人的資本に関する開示・提示」が盛り込まれました。実際に投資家は中長期的な投資・財務戦略において、IT投資・研究開発投資とならんで人材投資を重要視しています(*8)

投資家は中長期的な投資・財務戦略で人材投資を重要視している
(*8)一般社団法人 生命保険協会「「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート」(2021年版)」を参考に当社作成

株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所が行った調査によると、こうした投資家の要望に呼応する形で、日経225のうち統合報告書が確認できる企業の約3割が自社の人材戦略のモニタリングのために従業員エンゲージメント調査を実施していることが分かりました(*9)

従業員の意識の変化

ニューノーマルや社会情勢の変化により、従業員の意識も大きく変わりつつあり、ワークエンゲージメントを重視すべき理由が3つ挙げられます。

1.「日本型雇用」の揺らぎ

「日本型雇用」においては、新卒入社から定年までの雇用が保障されるのが一般的で、給与も勤続とともに上昇することが見込まれていました。

しかし企業が終身雇用を維持することが事実上難しくなっているなかで、従業員が組織への帰属よりも仕事そのものを重視するようになっています。いきいきとやりがいを感じながら熱心に取り組める仕事は、従業員の視点からも需要が高くなると考えられます。

2.テレワークの浸透

コロナ禍におけるテレワークの浸透により、職場で顔を合わせながら働く機会が減少したことから、組織への帰属意識は弱まりつつあります。また、在宅勤務の経験を通じて、「従業員」としてだけではなく「家族の一員」としてのペルソナを認識した従業員も多いでしょう。

今後、時間や場所に縛られない「自由な働き方」を希望する従業員が自身の働き方を積極的に見直すことになると想定されます。

3.人々の嗜好の変化

ますます長くなる職業人生において、滅私奉公的に自らをすり減らす働き方は現実的でなくなっています。すでに物質的な豊かさが満たされつつあることも相まって、経済的な報酬よりも精神的な報酬をより重視する流れは不可逆的なものと考えられます。

テレワークの浸透がワークエンゲージメントに与える影響とは

テレワークの浸透は、ワークエンゲージメントにいかなる影響を与えるのでしょうか。

本章では、外部環境や本人・仕事の特性とワークエンゲージメントの関係を示しているJD-Rモデルを用いて概観します。

JD-Rモデル(Job Demands-Resources model:仕事の要求度-資源モデル)

JD-Rモデルは、Demerouti, Bakker, Nachreiner, & Schaufeli(2001)によって提唱されたもので、「仕事の要求度」「仕事の資源」「個人の資源(心理的資本)」が個人のアウトカムに与える影響を示しています(*10)

仕事の要求度

従業員にとってストレッサーとなる仕事の特性を指します。仕事におけるプレッシャーや過重な役割、対人関係における情緒的負担、精神的/肉体的負担などが挙げられます。

仕事の資源

仕事において、ストレッサーやそれに起因する身体的・心理的コストを低減したり、個人の目標達成や成長を促進したりする要因を指します。仕事における裁量権や上司によるコーチング・フィードバック、キャリア開発や雇用の安定性などが挙げられます。

個人の資源(心理的資本)

環境に対する肯定的な心理状態のことで、自己効力感・楽観性・希望・レジリエンス(困難な状況から立ち直る回復力)などが挙げられます。

JD-Rモデルの仕事の要求度・仕事の資源・個人の資源(心理的資本)は、ワークエンゲージメントの規定要因であることが実証研究で明らかにされています。

さらに、Xanthopoulou Bakker, Demerouti, & Schaufeli(2009a)は、仕事の資源と個人の資源(心理的資本)が、ワークエンゲージメントを向上させるだけでなく、両資源を相乗的に強化することを指摘しています(*4)

ここでは、ニューノーマルにより、特に大きく変化した「仕事の資源」に焦点を当てながら、テレワークの浸透がワークエンゲージメントに与える影響と施策を考察します。

JD-Rモデル
(*11)Amold B. Bakker(2007)らJob Resources Boost Work Engagement, Particularly When Job Demands Are High.(*12)Amold B. Bakker & Evangelia Demerouti(2008)Towards a model of work engagement.を参考に当社作成

ニューノーマルによる「仕事の資源」への影響

多数の実証研究により、ワークエンゲージメントの先行要因となる具体的な仕事の資源が明らかにされています。

それらの要因は、以下の3つに分類できます。

  • 仕事の内容や進め方(タスクの多様性・自律性や裁量権など)

  • 対人関係や社会関係(管理者や同僚による支援やコーチング・フィードバック、情報共有など)

  • 組織・人事的要因(キャリア開発の機会や価値観・組織的風土など)

仕事の内容や進め方における課題

仕事の内容や進め方においては、自律性や進歩性、スキル活用など、従業員が意義や意味を感じられる業務であるかどうかが活力・熱意・没頭につながります。

ここでは、職務設計に関するHackman, J. R. & Oldham, G. R.(1976)の理論(*13)を参考に、テレワークにおいても仕事の資源を維持する施策を考察します。

  • 技能多様性
  • タスク完結性
  • タスク重要性

が挙げられています。

技能多様性

職務遂行に必要とされる技能の多様さを指します。必要とされる技能が多様であるほど、私たちは仕事に面白みを感じやすくなります。

タスク完結性

業務の工程全体のうちかかわっている程度を指します。全工程のうちかかわる部分が多いほど、前向きに仕事に向かいやすくなります。

タスク重要性

行ったタスクが他人や組織、そして社会に影響を与える程度を指します。周囲や社会への影響が大きいほど、意義を感じながら仕事に取り組むことができます。

技能多様性の観点では、複雑で困難な業務を、本人の技量に見合わない程度で与えると仕事の要求度を高めてしまうため、かえってワークエンゲージメントを低下させる要因となってしまうことに注意が必要です。

このことから、本人にとって簡単すぎず難しすぎない程度の仕事を与えることが重要と言えます。

タスク完結性とタスク重要性については、組織や事業により規定される面が大きいものの、テレワークにおいて従業員が意味を感じられる単位で仕事を提供できているかがポイントです。

職場において空間・時間を共有しながら業務を行うことが当たり前だった時代には、本人の様子も確認しながら業務の量や難易度を調整することが比較的容易でした。

しかしテレワークの環境では、業務に臨む姿勢が見えないことから、適切に業務を割り振ることは難しく、配下のメンバーからのアラートにも気づきにくくなっています。さらに、管理者としてのコミュニケーションや作業指示に慣れていない場合、テレワーク環境における業務の分配はより難しくなるでしょう。

当社のクライアントにおいても、コロナ禍直後にテレワークの環境となってから管理者やスキルの高い社員に仕事が偏ってしまうケースが散見されました。これはテレワーク環境において業務指示や業務分配が困難になったため、指示者である上司が業務を引きとったり、業務遂行に多くの説明を必要としない高スキル社員へ業務分配が偏ったりしたことによるものと推察されます。

こうした事態は、業務が集中することによる特定の社員の心身への影響だけでなく、本来であればその業務を担っていたはずの社員のタスク完結性の欠如や成長機会の減少という問題もはらんでいます。加えて、出社制限による「現場」経験や上司や同僚との物理的なコミュニケーション量の減少は、タスク重要性を認識する機会をも減らしてしまう恐れがあります。

対人関係や社会関係における課題

テレワークの浸透により最も顕在的に認識される課題として、コミュニケーションが挙げられます。

2021年の内閣府の調査によれば、テレワークのデメリットとして約3人に1人が「社内での気軽な相談・報告が困難」であることを挙げています(*14)

このことは仕事の資源である「上司による社会的支援やフィードバック・コーチング」の減少を招きやすくなります。

テレワークにおけるデメリット
(*14)内閣府 『第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査』(2021年11月1日)を参考に当社作成

さらに、コミュニケーションの課題は上司との関係だけにとどまりません。

直属の上司というタテの関係における(業務上の)コミュニケーションは(web会議設定や電話発信など煩雑さが増すにせよ)その必要性から維持されているケースも見られます。

一方、同僚や周囲の社員といったヨコやナナメの関係におけるコミュニケーションは、対面で偶発的に起きるケースが多く、日本能率協会の調査によると実際にテレワーク実施者の8割以上が、コロナ禍以前と比較して「雑談がしにくい」と感じています(*15)

仕事の資源の一つである「同僚との情報交換」の減少は、ワークエンゲージメントを低下させる要因となりえます。

ビジネスパーソンの雑談に関する調査
(*15)一般社団法人日本能率協会『ビジネスパーソンの“今”をデータで読み解く 2021年「ビジネスパーソン 1000 人調査」【雑談機会と効果】』(2021年10月4日)を参考に当社作成

組織・人事的な課題

仕事の資源に影響する組織・人事的な課題として、キャリア開発の機会や価値観・組織的風土が挙げられます。これらの課題は、テレワークによる課題というよりも、もともと潜在的に存在していた課題がテレワークにより顕在化したと言うべきかもしれません。

ニューノーマルにより、会社としてのキャリア開発の機会、人材配置、育成、評価への影響も予想されます。配転権行使によるローテーションは実質的な機能不全に陥っているほか、育成の面では研修のオンライン化や非対面でのOJT、上司とのコミュニケーションの減少という課題も生じます。

価値観や組織風土についてはどうでしょうか。

ニューノーマル以前からテレワークへのシフトが進んでいたアメリカでは、会社の結束を維持する手段として「コアバリューの共有」が叫ばれてきました。しかし、プルデンシャル・ファイナンシャル社が実施した意識調査によれば、アンケートに答えたアメリカのホワイトカラーの半分以上が「(リモートワークが長期化するにつれて)会社との心のつながりが弱くなっていると感じる」と回答しています。

日本においては、新型コロナウイルス感染症の流行とテレワークの浸透が同時期に発生したことにより、非常事態におけるトップからのメッセージに注目が集まったため、経営理念や経営方針への理解が高まった例もあります。

しかしアメリカの先行事例を見るに、今後テレワークが常態化するうえでは、価値観や組織風土の維持という課題に直面する可能性が高そうです。

ワークエンゲージメントの維持・向上に効果的な施策とは

前節でテレワークの浸透によるワークエンゲージメントの低下要因を概観しました。最後に、テレワークの環境でもワークエンゲージメントを維持する施策について、事例を交えながら考察します。

現場の管理者によるパーソナルなアプローチ

ワークエンゲージメントの要因として、現場の管理者の言動が最も重要です。特にテレワークの環境では、日常業務においてヨコやナナメのコミュニケーションが減少するため、その重要性はより高まっているといえます。

ワークエンゲージメントの維持に有効な施策の一つは、配下のメンバーに仕事の有意味性を感じさせるような仕事を与えることです。具体的には、前述したように、配下のメンバーにとって適切な難易度や量の業務を、意味のある単位で分配するための工夫が必要になります。

対面の場合では、多少曖昧で抽象的な指示でも、仕事を進めながら適時にすり合わせることで滞りなく業務を進めることも可能でした。複数人で進める業務におけるタスクの抜け漏れがあった場合にも、気付いた人がフォローすることで大きな問題にはならなかったかもしれません。

しかし非接触の環境では、メンバーの様子を逐一確認することができないうえ、指示も言語的コミュニケーションによるものが多くなることから、より明確で具体的なディレクションが求められます。そうした状況では、管理者自身に、スタートの時点で一連の業務のゴールを描く能力が必要です。

また業務の背景や目的についても、担当する社員からは見えにくい部分を明確に伝えることで、配下のメンバーがゴールをイメージしながら主体的・自律的に働けるように促すことが可能になります。

一方で、テレワークの環境を好機として、配下のメンバーが関わる業務の前工程や後工程のweb会議に参加させることは、ワークエンゲージメント向上の一助となります。

職場で仕事を進めている場合には、自分が行ったタスクがどのようにつながっているか、仮に最後まで関わることがなくともちょっとした声かけや周囲からの又聞きで察することが比較的容易でした。

テレワークではそうした「察する」ことの難易度が高くなる一方で、会議へ参加することのコストが比較的小さいため、当人の立場として短期的には必要ない場合でもweb会議に出席を促すことで、自身の業務がどのように周囲に影響するのかを感じてもらうことができます。これは先述したタスク重要性の観点にも通じる点です。

また、職場での業務が減ることにより組織への帰属意識が弱まるなかで、管理者によるコーチングや1 on 1の能力は今後ますます重要性を帯びてきます。同時に従業員の多様化も進み、これまでのような上意下達のマネジメントは、もはや通用しなくなってきています。

社員の目指したい姿と企業の理念や仕事内容が同じ方向であることが示されてこそ、社員はやりがいを感じながら働くことができるのです。

組織としての仕掛け

続いて、組織としての仕掛けを、現場レベルと経営レベルでチェックします。

現場レベルでの課題としては、特にヨコやナナメのコミュニケーションが挙げられます。具体的などのようなコミュニケーション方法があるのかをご紹介します。

定期的なチャット会議実施

ヘルス・バー・メーカーのカインドでは、「ヴァーチャル・ウォータークーラー」と呼ばれるチャット会議を週に数回行っています。リアルのオフィスのウォータークーラーの周りで非公式の雑談や情報交換が行われることをオンラインで再現しているのです。入退室は自由で、320人の社員の多くが平均15分程度参加するとされています。

雑談の生じないテレワークは効率性を高める働き方と見なされやすいものの、過半数の従業員は、雑談が業務の生産性や創造性を高めたり、職場の人間関係を深めたりするなどのプラスの影響があると捉えています(*15) 。事前に計画されたweb会議ではなく、インフォーマルな場を提供する仕組みは、社内の人間関係だけでなく事業の競争力においても重要である可能性があるのです。

レコグニション制度の導入

また、多くのIT企業やベンチャー企業で導入されているレコグニション制度の導入も社員の交流を促す施策の一つです。

レコグニション制度とは、従業員による会社への貢献に対して感謝や賞賛を与える仕組みのことで、業績に連動するもの、業績とは無関係に実施されるものが存在します。

前者の例として、社内表彰や特別な評価を与えることが挙げられます。後者では、社員の親切な行為や協力的な行動に感謝を伝える仕組みがあります。例えばGoogleでは、「gThanks!」という制度によって社員同士がピアボーナスを与えることができます。

テレワークという文脈に限らず、こうした取り組みはコミュニケーションを活性化したり自身の仕事を価値あるものと認識したりすることを促します。

全社員参加型会議の開催

組織への帰属意識が希薄化する中、全社員が参加する会議を開催する企業も増えています。

GoogleのTGIFは、全社員誰でも、どんな内容でもCEOに質問することができる会議として有名です。web会議ツールは、社内の地位にかかわらず同じサイズで顔が表示されたり、挙手ボタンやチャット機能があったりと、組織のヒエラルキーを超えた一体感の醸成に役立つ場合があります。

こうしたツールを活用しながら、企業文化の浸透や醸成を促すことが重要です。

ワークエンゲージメントを維持するための施策として、現場の管理者によるアプローチと組織による仕掛けの両面から考察しました。

しかしこれらの打ち手をやみくもに実施すれば、従業員のワークエンゲージメントが上がるとは限りません。

上記はあくまでもテレワークの環境においてもワークエンゲージメントを維持するための一例であり、仮にニューノーマル以前からワークエンゲージメントが低かった場合には、根本的な解決になりえない場合もあります。

継続的なエンゲージメント向上のために

テレワークの環境でも、そうでない場合でも、ワークエンゲージメントは社員個人のアウトカムに、ひいては企業業績に大きな影響を与えます。

継続的なワークエンゲージメントの向上のためには、何よりも経営陣のコミットメントが重要です。具体的には、毎年健康診断を行うように、定期的なエンゲージメントサーベイを通じて、自社の従業員のエンゲージメントの現状を把握したうえで、課題に対する適切な打ち手を講じる必要があります。

また、ポストコロナの時代に入りつつあるなかで、急激なテレワークの導入に伴う課題を解決した企業が次に直面するのが「まだらテレワーク」の問題であると、総務省の懇談会で提唱されています(*16)

ニューノーマルにより、テレワークと出社を併用する企業が大半となることが予想されます。全員が出社する、または全員がテレワークを行うのではなく、出社する社員とそうでない社員が混在する場合には、社員間に不平等感・不公平感が生じる恐れがあります。

現に弊社のクライアントにおいて、テレワークを利用している社員とそうでない社員では、仕事への満足度ややりがいに大きなスコアの差が生じているという調査結果も見られます。

「まだらテレワーク」の実態についてはまだ十分なデータがないため、具体的な対応策は今後様々な知見が提起されてくると思いますが、表面的で画一的な施策では対応できないことは明らかです。

出社が必要とされる社員に業務が集中しないよう配慮するとともに、より個人の働き方に合わせた細やかなマネジメントが求められるようになります。

今後とも現場を統括する管理者が配下の各メンバーのエンゲージメントの源泉と現状、そして変化を認識できるよう、組織による支援もますます必要になるでしょう。

まとめ

テレワークの浸透で、従業員のワークエンゲージメントの重要性が増す一方、企業が従業員のワークエンゲージメントを維持するためのハードルは上がっています。

ワークエンゲージメントに影響を与える要因を認識したうえで、自社の状況にあった適切な解決策を実行することが重要です。

AUTHOR
生津 大地
生津 大知 (なまつ だいち)

クレイア・コンサルティング株式会社 コンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業

新卒でクレイア・コンサルティングに参画。
重電メーカーや自動車ディーラーの従業員満足度調査のほか、不動産・専門商社・エンタメ・IT業界などの人事制度改定に携わる。

AUTHOR
桐ヶ谷 優
桐ヶ谷 優 (きりがや まさる)

クレイア・コンサルティング株式会社 執行役員COO マネージングディレクター
慶應義塾大学文学部卒業

大手人材派遣会社および外資系コンピューターメーカーの人事部門にて、人材開発や人事制度設計に携わる。その後、国内系人事コンサルティング会社を経て現職。
主に人事制度改革を中心にコンサルティングを行う。最近では、企業再編に伴う人事制度改革や組織改革に従事。また、制度設計だけでなく、人事制度導入局面でのコンサルティング経験も豊富に持つ。

参考

  1. 株式会社パーソル総合研究所 『第六回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査』(2022年3月1日公開)
  2. Schaufeli, W. B., Salanova, M., Gonzalez-Roma, V. & Bakker, A. B.(2002) THE MEASUREMENT OF ENGAGEMENT AND BURNOUT:A TWO SAMPLE CONFIRMATORY FACTOR ANALYTIC APPROACH
  3. 島津明人・江口尚 『ワーク・エンゲイジメントに関する研究の現状と今後の展望 「産業医学レビュー」 Vol.25 No.2』(2012年8月)
  4. Xanthopoulou, D., Bakker, A. B., Demerouti, E., & Schaufeli, W. B.(2009a) Reciprocal relationships between job resources, personal resources,and work engagement
  5. Xanthopoulou, D., Bakker, A. B., Demerouti, E., & Schaufeli, W. B.(2009b) Work engagement and financial returns: A diary study on the role of job and personal resources.
  6. 日本銀行『短観(概要)一覧』
  7. 経済産業省 『第1回 デジタル時代の人材政策に関する検討会 参考資料1:我が国におけるIT人材の動向 みずほ情報総研株式会社』(2021年2月4日)
  8. 一般社団法人 生命保険協会 『企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート 集計結果一覧(2021年度版)投資家様向けアンケート』(2022年4月15日)
  9. 株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所 『統合報告書分析レポート 人材に関する記載情報』(2022年3月2日)
  10. Demerouti, Bakker, Nachreiner, & Schaufeli(2001). The Job Demands?Resources Model of Burnout
  11. Amold B. Bakker, Jari J.Hakanen, Evangelia Demerouti, & Despoina Xanthopoulou(2007). Job Resources Boost Work Engagement, Particularly When Job Demands Are High.
  12. Amold B. Bakker & Evangelia Demerouti(2008). Towards a model of work engagement.
  13. J. Richard Hackman & Greg R. Oldham(1976). Motivation through the design of work: Test of a theory.
  14. 内閣府 『第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査』(2021年11月1日)
  15. 一般社団法人日本能率協会『ビジネスパーソンの“今”をデータで読み解く 2021年「ビジネスパーソン 1000 人調査」【雑談機会と効果】』(2021年10月4日)
  16. 総務省 『「ポストコロナ」時代におけるテレワークの在り方検討タスクフォース(第2回)資料2:「まだらテレワーク時代の企業と組織」株式会社パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員 小林祐児』(2021年年5月18日)

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