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【2022年】ニューノーマルの形成により生じた組織・人事課題

勝田 隆則、 針生 俊成 2022.5.26

組織・人事におけるニューノーマルの形成

「ニューノーマルの形成」とは、危機などを経て、世界のあり方が不可逆に変化することを指します。ニューノーマル(New Normal)というワードは、ITバブルを経た2003年にベンチャーキャピタリストのロジャー・マクナミーが使用し、その後、世界金融危機(GFC)後の2009年にPIMCO Secular ForumにてPIMCO CEOのモハメド・エラリアンが使用したことで広まりました。

本稿では、新型コロナウイルスのパンデミックという危機を経て、もはや「コロナ前」には戻らないニューノーマルの形成により生じた課題、特に組織・人事における課題に着目して考えます。

「ニューノーマルの形成」により生じた変化

パンデミックの発生から2年が経ったいま、企業は、“一時しのぎ”の出社制限やオンライン化から、いかに「コロナ後」を想定した課題を設定し、取り組むべきかを考え始めています。

では「ニューノーマルの形成」によって生じた変化をどう特徴づけるべきでしょうか。

それは「時間と場所・空間への認識の変化」と、「VUCAの認識とレジリエンスの評価」であると考えます。

「ニューノーマルの形成」により生じた変化①: 時間と場所・空間への認識の変化

パンデミックでは、人と人が離れて働いて暮らすこと、「非接触」への要請が高まりました。人々は、かつては同じ場所で同じ時間に働くことを当たり前のことと考えていたものが、もはや当然のことではないと感じています。

時間や場所を共有すること、そのために移動したり、時間の制約を受けたりすることは、以前よりも負荷を感じさせるものになったのです。NTTデータ経営研究所の調査によれば、2020年4月の時点でも、半数を超える人が、新型コロナウイルスの感染収束後もリモートワークを継続したいとの意向を示しています (*1)

リモートワーク継続意向調査
出典: (*1)株式会社NTTデータ経営研究所「緊急調査:パンデミック(新型コロナウイルス対策)と働き方に関する調査」(2020.4.20)を参考に当社作成

この変化は、働くことだけではありません。「非接触」によるビジネスの変化も、ニューノーマルとして定着すると考えられます。例えば、「物価モニター調査」では、「書籍、CD・DVD・BD、ゲーム機・ゲームソフト等」や、「衛生用品」、「化粧品」などについて、インターネットで購入したいと回答した人がインターネット以外と回答した人を上回っており、この傾向は2021年6月から最新の調査まで続いています(*2)。また対面型サービスの代表例である医療では、オンライン診療の経験者は1.0%未満ながら、感染拡大を契機にオンライン診療の活用を考えることが増えると回答した人が10%を超えています (*3)

「ニューノーマルの形成」により生じた変化②: VUCAの認識とレジリエンスの評価

パンデミックにより、各国政府の外出規制やサプライチェーンの混乱など、様々な混乱を引き起こしました。世界金融危機の記憶や、気候変動による災害の増加も相まって、これらの混乱の経験は、経営者に社会の変動性、不確実性、複雑性、曖昧性(VUCA)の高まりを認識させています。こうした時代には、想定外のシナリオであっても、深刻な困難に対応して乗り越える能力としての「レジリエンス」が重要になります。

従来の“常識”では、無駄を排除し、徹底して効率性を上げて、保有する資産・資源を最適化する経営が指向されてきました。ところが、これは余裕のない経営とも言え、予測困難なリスク(ブラックスワン)や見過ごされたリスク(グレーリノ)には脆弱です。ニューノーマルの形成により、経営活動の各所で、最適化とともに、頑健性、冗長性、臨機応変性、迅速性が求められるようになります。

こうした変化は、いずれも組織・人事課題を考える上で非常に重要となりますが、本稿では変化①に焦点を当てて解説します。

ニューノーマルの形成により生じた変化の特徴と組織・人事課題について

企業経営への影響による組織・人事課題

ニューノーマルの形成は、企業経営そのものに影響を与え、新しい組織・人事の課題を生じさせると考えられます。

IT・デジタルによるビジネスの加速への対応

時間や場所の制約を受けて、旅行業や飲食業などが停滞を余儀なくされる一方で、デジタルを軸としたビジネスのマーケットはさらに拡大しています。例えば、都心立地型の家電量販店では実店舗の売上が減少する一方で (*4)、EC事業のヨドバシ・ドット・コムの売上高は急拡大を見せています (*5)

デジタルによるビジネスとは、単に既存の業務プロセスをデジタル化すること(Digitalization)だけではなく、価値創造のプロセス自体をテクノロジーによって革新すること(Digital Transformation)を目指します。

しかし多くの日本企業は、これまで自社のICTシステムをベンダーやSIerに「丸投げ」しており、システムがブラックボックスになっています(*6)。このため、自社のビジネスとデジタルデータの双方を理解して、ICTシステムとともに構成できる人材を欠く状況です。米国ではIT人材の65%が非IT関連企業に従事するのに対して、日本ではIT関連企業以外に従事するIT人材は28%に過ぎません (*7)

IT企業とそれ以外の企業に属する情報処理・通信に携わる人材調査
出典: (*7)IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「IT人材白書2017 デジタル大変革時代、本番へ~ITエンジニアが主体的に挑戦できる場を作れ~」(2017年4月)を参考に当社作成

短期的には、リスキリング(学び直し)や、人材の入れ替え(希望退職など)の動きが活発になっています。これらは、必要な人材を採用・育成して揃えるものです。ただ、中長期的には、テクノロジー分野の人材を自社に取り込むだけでなく、より効果的に価値を生み出せる組織・人事の仕組みが必要です。

日本型の人事マネジメントでは、個人に「値札」が付くことを前提とした報酬の払い方にはなっていません。流動性があり、価格発見機能が発達した外部労働市場を想定して、自社のビジネスを理解してコミットさせられるほどに人材を定着させる仕組みが必要です。なぜなら「時価」で買った人材は、他社にも時価で買われることを意味するからです。

また、DXを進めるためには、マネジメント層が自社の「業務のプロセス」ではなく、「価値創造のプロセス」を意識することも不可欠です。むしろテクノロジーはそのツールに過ぎないということもあり得ます。

対面型サービスの二極化への対応

いわゆる対面型のサービスでは、「対面であることの価値」が問われます。対面であるがゆえに同じ場所に出向かなければいけないことや、サービス時間に合わせなければいけないことの負荷が上がるのに対して、対面ならではの価値(ホスピタリティなど)に対する評価は、相対的に低下していく恐れがあるからです。

もっとも、対面型のサービスが全く廃れるということではありません。出向いても体験したいサービス、すなわち高付加価値なものへの需要は、パンデミックによって一時的な下振れがあったとしても、回復や成長が見込まれます。同じ対面型のサービスでも、対面であることの価値の厚みによって、ニューノーマルの形成以降の戦略は変わるはずです。

高付加価値な対面サービスを指向する戦略であれば、それができるだけの人やノウハウを整えて維持・向上させていく体制が求められます。例えば、非正規雇用に依存する人材調達モデルからの脱却や、現場を含めて継続的に新しい付加価値をデザインする機能の強化などです。しかしこの戦略は、労働集約的に「安く、早く」をモットーとしてサービスを提供してきた業態とはギャップが大きく、容易ではありません。

反対に、非対面を指向する戦略もあります。つまり、対面であることの価値を向上させるのではなく、無人化や省力化を行う方向です。こうした資本装備率を上げる「工業化施策」を取る場合、異なる組織・人事の課題が発生するでしょう。

テクノロジーを活用した効率化は製造業のような「規模の経済」を活用することが必要です。そのためには、分権的で地域密着型の組織から、集権的な組織に多少シフトすることになります。しかしこれは、地域や店舗、顧客ごとの細かなニーズに対応していくというサービス業の命題とは離れてしまいます。

上述した課題は、パンデミックの以前から少子高齢化による人手不足で指摘されてきましたが、ニューノーマルの形成によるマーケットのニーズの変化によって加速します。そして、後述のように、対面型サービスで「働きたくない人」の増加も、課題を深刻にするのです。

職場のマネジメントへの影響による組織・人事課題

ニューノーマルの形成によって、完全リモートワークにせよ、リモートワークと出社を組み合わせる「ハイブリッド型」にせよ、従来に比べれば、働く人たちが時間や場所を共有する度合いは低下するでしょう。このことの影響は、職場のコミュニケーションの形が変わること、職場の同質性が低くなること、そして一人ひとりの裁量と責任が明確化されることであると考えられます。以下では、これらがもたらす課題ごとに、上述の影響を含めて検討します。

組織目的・組織文化・組織言語の確立、浸透

業務遂行に必要な情報を伝達する手段としては、ビジネスチャットやWeb会議で(もちろん業務の性質によりますが)、かなり代替できます。しかし職場のコミュニケーションは、Web会議のような明示的な形態だけではなかったことも事実です。

職場での日常的な雑談や、上司がこぼす愚痴、部下の何気ない動作、こっそり耳打ちするようなやり取り、噂話などは、いずれも明示的で意図された形態のコミュニケーションのみで構成される職場からは捨象されます。しかし、それらが無意味で、機能がなかったとは言えません。

多くの組織では、組織の文化や「共通言語」の形成と浸透に、非意図的で暗黙的なコミュニケーションに依存してきたと考えられます。長期雇用によって社員を自社のカルチャーに染めやすい日本企業ではなおさらであり、記述された「組織理念」や「行動規範」が制定されていても上滑りして感じられるのは、このことゆえです。

しかし時間と場所を共有しない職場では、異なる原理を想像する必要があります。組織のメンバーに組織目的を伝えることは、「ワークエンゲージメント」(いわゆる働きがい)にとっても重要です。また自社の事業を発展させるために、適切な組織文化を形作ることの大切さは言うまでもありません。

「組織目的や組織文化を、これまでのように暗黙的に形成し伝承するだけではなく、言語で明示的に浸透させ得る、マネジメント、リーダー、メンバーの間でのコミュニケーション」を意図的に組み立てることが必要でしょう。

多様性のマネジメント

オフィスで同じ時間と空間を共有していれば、フォーマルなコミュニケーションからインフォーマルなコミュニケーションまで、有形無形の「同調圧力」がはたらきます。この同質性は、特に高度経済成長期には組織の一体性として競争力に寄与したと見る向きもありますが、人材の同質化や、異質な人材を弾き出すために、視野狭窄に起因するリスクの見過ごしや、機会の取りこぼしといったデメリットも指摘されてきました。

時間と空間の制約を超えることで、こうした同質性への圧力は弱まり、人材の多様化が進むと期待されます。しかしながら、多様性と包摂(ダイバーシティ&インクルージョン)とその効果を実現するには、これだけでは力不足です。むしろ、画一的なキャリア意識を前提とした人材育成や、年次管理の発想に基づく選抜・登用、属性に依存した業務のあり方などを見直し、それらを支えてきた処遇システムと人事管理を変えることのきっかけと考えるべきです。

また同時に、職場をマネジメントする上司や、共に仕事をする同僚が、多様な人材を適切に扱えることも欠かせません。「ダイバーシティ研修」といった多様性を扱える能力を向上させるとともに、会社として多様性に直面するマネージャーに支援を提供していくサポート体制を整えて、職場のマネジメントの「クオリティ・コントロール」を行うことが要求されます。

このように、組織と人事が動いていく基礎となる仕組みと、一人ひとりの意識と能力の、双方が揃って多様性のマネジメントが可能になります。この契機を生かして両者の取り組みを加速できる企業と、そうでない企業では、多様性を価値創造につなげる組織能力に大きな差がつくと予想できます。

有機的なつながりの確保

イノベーションは人と人の有機的なつながりから生まれると言われます。上述の多様性の増大はこれに沿うものですが、逆行しかねないものもあります。それは、時間と場所を超えて仕事をしようとすると、個人の業務と責任の範囲の定義が必要になることです。

異なる場所あるいは時間で働くならば、当然に「隣の人と相談しながらする」というような仕事の進め方は難しくなります。同じ時間、同じ場所で仕事をする場合は、個人ごとの業務の範囲が明確でなくとも適宜の会話で簡単に調整できますが、リモートワークなどの場合には、毎回のコミュニケーションを意図して実行しなければならないので(いちいち会議を設定する、電話を掛けるなど)、それでは負担が大きすぎるのです。

リモートワークでは社内での気軽なコミュニケーションに支障を感じる人は3割を超えます (*8)。それゆえに、個々人の業務範囲ならびに成果責任と裁量の範囲を定義して、一定の単位で自律的に業務をさせる傾向になるでしょう。

テレワークのデメリット
出典: (*8)内閣府「第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2021.11.1)を参考に当社作成

したがって、メンバー同士のコミュニケーションの総量は減る可能性があります。また、明示的で意図的なコミュニケーションが主となるので、廊下の立ち話のような偶然性の高いコミュニケーションは困難です。これは、有機的なつながりを作ることからは遠ざかる傾向であると考えられます。

もっとも、従来のオフィスがどれほど有機的なつながりを生んでいたのかは分かりません。Web会議やビジネスチャットでは、誰がどのような人とコミュニケーションを取っているのかを簡単に分析でき、問題の明確化はしやすくなったとも言えます。また責任範囲の定義により、業務を完遂する能力は高まる可能性もあります。

今後は、リモートワークと出社を組み合わせる「ハイブリッド型」が一般化すると予測されています。出社の意義を改めて定義し、それに適う空間を形成していくことが、失われたコミュニケーションを補うことに加えて、以前でも実現できていなかったつながりを作るために必要となるでしょう。

人材開発

パンデミックによる出社制限により、新入社員研修もオンライン化を迫られました。特にOJTについて、これまでのように「隣で仕事を教える」ことができなくなったことは、多くの人事担当者を戸惑わせたことでしょう。しかし、これも全く新しい問題が発生したというより、いままでも燻っていた課題が浮き彫りになったという面があります。

OJTは人事部の手を離れて、各現場に委ねられるものであり、実際のところ、OJTでどれくらい手間をかけて人材投資がなされるかは、現場次第にならざるを得ない部分があります。各職場は、一般に、会社全体の人的資本を強化することよりも、最小の「手間」で「即戦力」を手に入れることに関心を持っています。

かつては、隣で仕事を見ておいてもらうだけでも、その効果が如何ほどか、会社が期待するものであるかは不明でも、OJTをしたことになっていました。また各現場のOJT担当者を指定していても、その担当者以外のメンバーの善意で成り立っていた側面もあったでしょう。

ところが、同じオフィスに集まらなくなったことで、いままでのやり方は難しくなりました。もちろん本当に教えることができなくなった事柄もあるでしょうが、これまでOJTをしていたことになっていた「放置」や「不作為」が、可視化された結果であることも否めません。

ニューノーマルの形成に伴う人材開発の変化を、ただオンライン化やリモート対応として定義することは、議論を矮小化してしまうため、人材育成や人的資源への投資の責任の確立や、自律的キャリアにおける会社と社員の分担といった文脈で捉えることが不可欠です。

過負荷や疲労、メンタルヘルスへの対応

リモートワークにおいては、オフィスを離れることによる孤独や、「頑張り」が見えない(または見せられない)ことへの不安が、メンタルヘルス不調をもたらす要因として指摘されてきました。これらは、働く人同士が隔絶されることに着目したものと言えます。

その一方で、オフィスから離れて、かえって「過剰なコラボレーション」による疲労感を指摘する声もあります。例えば、リモートワークで出席する会議が多くなったと回答した人数は、40%を上回ります (*9)。これらは時間と場所を共有しない分、情報伝達のために意図してデザインされたコミュニケーションが増えすぎていることを表しています。1日にいくつも招待されるWeb会議や、ひっきりなしに来るビジネスチャットは、一人ひとりの労働時間の増加だけではなく、意思決定のスローダウンなどを通じて、組織全体の生産性の低下を招く恐れがあります。

リモートワークにおける会議出席頻度調査
出典: (*9)Twingate “Cybersecurity in the Age of Coronavirus” (2020.6.15)を参考に当社にて作成

口頭ベースでのコミュニケーションシステムから、テクノロジーベースでのコミュニケーションシステムへの転換は、組織のフラット化を促進したり、恣意的なマネジメントを排除したりするメリットもあります。しかし同時に増大する負荷も考慮して、「コラボレーション」と「フォーカス」の両立や、メンタルヘルスの異常を察知する仕組みの整備をしていかなければなりません。

働く人への影響による組織・人事課題

ニューノーマルの形成により、働く人が、時間や場所に縛られない「自由な働き方」を希望するようになると想定できます。この要因は、出社などへの忌避だけではないかもしれません。職務と責任範囲の明確化や組織の同質性低下によって、特定の「働き方(ワークスタイル)」を強いられる必然性が低下するからです。このとき、どんな課題が生じるでしょうか。

事業の競争力と従業員の働き方ニーズの非整合への対応

欧米ではリモートワークによって生産性が向上したのに対して、日本では生産性が低下したとの指摘があります。その原因はどこにあるのでしょうか。

しばしば「業務の進め方」であると言われますが、それは「紙の廃止」や「成果主義」のような単純な話ではなく、日本企業の強み・弱みと同じ根っこである可能性があります。

「ものづくり」を研究してきた藤本隆宏氏は、日本企業の製品やシステムの設計・開発の強みは「インテグラル型」であり、欧米企業の強みは「モジュール型」であるとの考え方を提唱してきました (*10)

インテグラル型とは、部品と部品の細かな調整をしながら統合する開発の方法であるのに対して、モジュール型とは、標準化された要素を組み合わせて開発する方法です。日本企業は前者の高度なすり合わせによる製品開発や生産の改善が得意であるというわけです。

モジュール型の場合には、世界中から良質なモジュールを見つけて、新しいアイデアをもとに組み合わせることで、付加価値が生じます。そこでは、企業内での調整プロセスよりも、新しい組み合わせ、すなわち新しいコンセプトを生む個人の創造力(クリエイティビティ)が競争力の源泉です。

これに対して、インテグラル型の場合には、企業内でのすり合わせによる最適化と統合を極めることが競争優位となります。これは個人の独力による創造というよりも、むしろ組織における調整やコミュニケーションの集団的な能力の産物と言うべきです。

このことを踏まえると、インテグラル型に強みをもつ多くの日本企業と、職務と成果責任を明確化して自律的に働きたいという働き手のニーズの間には、相性の悪さを見て取ることができます。すり合わせ型の業務は、同じ時間・場所で働いて、時には阿吽の呼吸も含めた意思疎通ができる方が、高品質かつ高効率で進むと思われるからです。

自社の強みがインテグラル型にあると認識するならば、「自由な働き方」への応じ方は、慎重にデザインする必要があります。あるいは、事業内容や組織構造、あるべき人材像も丸ごと含めた大転換を伴うことを覚悟しなければなりません。

人手不足の深刻化への対応

働き手の選好の変化は、産業によっては、競争力の維持・強化どころか、事業の継続に支障をきたす恐れがあります。自由な働き方を求める働き手が増える一方で、対面型のサービス業では物理的に時間・場所の制約を働き手に要求せざるを得ないためです。こうした産業では、人手不足を予想させる悪材料が複数あります。

近年注目されるデリバリー配達員などの「ギグワーカー」は、金銭的な保証よりも、柔軟性を求めていることが明らかになっています(*11)。これは従来のサービス業の人材獲得には逆風です。また日本より先に行動制限の解除と景気回復が進んだ米国では、就業意欲の低下や一度解雇された業種を避ける動きによって、深刻な人手不足に見舞われました。そもそも日本においては、労働集約的な産業は、労働力人口の減少と低賃金によって人手不足になる長期のマクロ的な構造があります。

これは前述の「対面型サービスの二極化」で記載した影響を強調するものです。働き手の意識の変化によって、従来から採用競争力の低かった業態が、さらに不利な状況になることを意味します。つまりビジネスの需要面と、人材の供給面の両面から影響を被るのです。

まとめ

ニューノーマル形成によって生じた「時間と場所・空間への認識の変化」は、企業経営、職場のマネジメント、そして働く人へ影響を与えます。これにより生じる組織・人事の課題は、雇用のあり方、組織文化、社内コミュニケーション、エンゲージメントなど、多岐に渡ることが分かります。

次回からは、個別のテーマについてニューノーマルの形成によって生じた様々な課題を深掘りしていきます。

AUTHOR
勝田
勝田 隆則 (かつだ たかのり)

クレイア・コンサルティング株式会社 コンサルタント
東京大学法学部卒業

新卒でクレイア・コンサルティングに参画。
主にメーカーなどのクライアントにおいて、人事制度改革や導入支援、グループ再編等のプロジェクトに関わる。

AUTHOR
針生 俊成
針生 俊成 (はりゅう としなり)

クレイア・コンサルティング株式会社 執行役員COO マネージングディレクター
筑波大学第二学群人間学類卒業

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセンを経てクレイア・コンサルティングの立ち上げに参画。
幅広い業種における統合的人事制度改革、コンピテンシー設計、人材アセスメント、人材育成、意識改革、ES(従業員満足度)向上等、多数の人事コンサルティングプロジェクトに従事。合併や分社等の組織再編に伴う人事制度改革、高度専門職の人事制度設計やコンピテンシー設計、ブランドマネジメントと連動した人材マネジメントのコンサルティング等の実績も豊富。

参考

  1. 株式会社NTTデータ経営研究所「緊急調査:パンデミック(新型コロナウイルス対策)と働き方に関する調査」(2020年4月20日)
  2. 消費者庁 物価モニター調査「時系列データ-問1(インターネット購入)」(令和3年6月、令和3年9月、令和3年12月、令和4年3月)
  3. 健康保険組合連合会「新型コロナウイルス感染症拡大期における受診意識調査報告書」(2021年3月29日)
  4. 株式会社ビッグカメラの2021年8月第41期期有価証券報告書では「都心の昼間人口減少にインバウンドの激減が重なり実店舗の販売は低迷いたしました」との記載があります。
  5. 宏文出版株式会社『月間ネット販売 2021年10月号』「第21回ネット販売白書」
  6. 経済産業省 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開」(2018年9月7日)
  7. IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「IT人材白書2017 デジタル大変革時代、本番へ~ITエンジニアが主体的に挑戦できる場を作れ~」(2017年4月)
  8. 内閣府「第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2021.11.1)
  9. Twingate “Cybersecurity in the Age of Coronavirus” (2020.6.15)
  10. 独立行政法人経済産業研究所 藤本隆宏「製品アーキテクチャの概念・測定・戦略に関するノート」(2002年6月)
  11. Katsnelson, Laura and Oberholzer-Gee, Felix (2021). “Being the Boss: Gig Workers' Value of Flexible Work”, Harvard Business School Working Paper, No. 21-124.

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