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【コンサルタントコラム】
「やる気」の構造 ~これがモチベーションを高める組織だ!~(2017年) - 3章 「ワーク・モチベーション」のメカニズムを知る⑤

4.あなたが働く会社は、どのタイプ?

ここでは、3つの因子の代表的な“出現パターン”を紹介します。

3つの因子の出現パターンとは?

まず、3つの因子の「保有度合い」(保有率)を3段階に分け、それぞれの因子が高い人・中程度の人・低い人に分類しました。たとえば、ある人は人間関係因子は高いのに経済性因子が極端に低かったり、ある人はすべての因子が中程度だったりします。

前項でも見てきたように、一人の人間の意識には3つの因子が併存していて、個人がもつ「3つのモチベーション因子」の保有率はそれぞれ異なっています。それらがお互いに絡み合いながら、「仕事へのやる気」をつくり出しているわけです。

出現パターンは、3つの因子の保有率の組み合わせなので、全部で27種類あります。

では、はたしてどの出現パターンが組織とって有効なのでしょうか?また、それらのパターンの違いは、どのような組織特徴から発生するのでしょうか?

じつは、アンケート調査の結果、同じパターンの人たちが所属している会社を見てみると、似た業界特性をもっていることがわかりました。逆にいえば、似た業界や組織風土の会社に勤めていると、同じような因子の保有率――つまり、同じような“モチベーションの類型”になってくるのです。

ただ、ここでは、27種類すべての特徴を解説するのは大変ですので、顕著な特徴が表われた因子出現パターンの4グループを解説します。その4つとは以下の通りですが、それぞれの詳しい3つの因子の保有率は下図の通りです。




モチベーション因子のおもな出現パターン

①天下泰平リーダー企業
このパターンの人たちは、自己実現因子と人間関係因子が高く、経済性因子が中程度です。このような会社は、規則緩和がはじまり競走構造が変化した場合には、このパターンのままでい続けることは難しくなるでしょう。

②戦国チャレンジャー企業
このパターンの人たちは、自己実現因子と経済性因子が高く、人間関係因子が中程度です。このような会社は、競争が激しい業界にあります。社内では仕事の目的性や計画性が高く、経営方向に基づいた仕事の仕方を激しく要求されます。

③低付加価値2軍企業
このパターンの人たちは、自己実現因子が低いのに、人間関係因子と経済性因子が高くなっています。このような会社では、まず社内の人事マネジメントを充実させていかなければなりません。

④エクセレント業界バーンアウト企業
このパターンの人たちは、自己実現因子も人間関係因子も低く、経済性因子だけが高くなっています。いわゆる、エコノミックアニマル的タイプです。このような会社は、仕事の達成圧力が高いのに、それに対するだけの教育を行っていない点をまず改めなくてはなりません。

では、ひとつずつ詳しく見ていきましょう。

天下泰平リーダー企業(Aパターン)

このパターンの人たちは、自己実現因子と人間関係因子が高く、経済性因子が中程度です。つまり、「仕事そのものにもモチベーションを感じ、かつ仲間とうまく仕事をできることにも関心が強く、報酬面ではそこそこにもらえればよし」と考えている人たちです。

このパターンの人たちが所属している会社の特徴は、比較的競争レベルが低い業界で、かつその中のリーダー的位置づけです。大体が規制産業か公共的性格をもつ企業です。要するに、「安定した市場に君臨するリーダー企業」です。

ワーク・モチベーションの総量は27種類のうちベスト5に入っており、“仕事のやる気”は比較的高い人たち・企業であるといえます。

これらの会社は、「意思決定がボトムアップ的で、社内コミュニケーションは良好で、チームワークが取れている」という特徴をもっています。つまり、“人間重視”の会社で、仕事の責任を追及するような雰囲気はありません。社内の雰囲気はおっとりとしていて、社内でも厳しい出世競争はなく、年功序列がいまだ重んじられています。

一般的なリーダー企業は、市場の最大シェアをもつ立場から競争の安定を保とうとし、業界内の調和を図ろうとします。競争構造が変わらない限り、リーダーとしての恩恵を享受できるからでしょう。このため、社内も自然と“調和型”になるようです。

この「天下泰平リーダー企業」は、横綱相撲をとり、市場に君臨し、最高の労働環境を社員に与え続けようとします。そして、それが続くならば、企業にとっても社員にとっても幸せなわけです。これらの特徴を逆に見れば、能力主義的傾向が低いにもかかわらず、社員全員がそこそこ満足するだけの給与を支払っていられるのは、「リーダー企業としての収益確保が十分」だからでしょう。

しかし、これらの処遇は「競走構造が現在と変わらない」という前提のうえに成り立っています。規制緩和がはじまり競走構造が変化した場合には、このパターンのままでい続けることは難しくなるでしょう。

戦国チャレンジャー企業(Bパターン)

このパターンの人たちは、自己実現因子と経済性因子が高く、人間関係因子が中程度です。Aパターンと比較すると、仕事に対する“自己実現欲求”が高いのは同じですが、人間関係より報酬や昇格昇進などを重視します。ワーク・モチベーションの総量はもっとも高く、“意欲満々”に仕事をしている状態です。

彼らの企業は、競争が激しい業界にあります。社内では仕事の目的性や計画性が高く、経営方向にもとづいた仕事の仕方を厳しく要求されます。能力主義で、仕事の成果を厳しく評価しています。もちろん、その評価結果は報酬などの処遇に反映されています。また、抜擢人事や逆転人事といわれるような“実力主義”の人事運営もしています。

調査サンプルは日本企業ばかりでしたが、いわゆる外資系企業のようなマネジメント・スタイルです。

この「戦国チャレンジャー企業」は、生き馬の目を射抜くような激しい競争が行われている業界にいます。ITや通信、ファインケミカル、バイオ、医薬品などです。おそらくは、業界の競争が激しく、しかも、競争相手が国際企業ばかりであるため、自分たちもいわゆる外資系的なマネジメントをとらないと勝ち残れないのでしょう。

業界がそのような性格だと、その中で働く人たちのモチベーションのあり方も必然的に競争的になっていくわけです。

低付加価値2軍企業(Cパターン)

このパターンの人たちは、自己実現因子が低いのに、人間関係因子と経済性因子が高くなっています。自己実現因子が低いと、他が高くてもモチベーションが仕事と結びつきません。結果として、ワーク・モチベーションの総量は、相当低い状態です。

彼らが所属する企業は、業界内での競争状況が激しいものの、その競争の中では優位的なポジションにいません。しかも、知識創造的な業種ではなく、国際性も低いという特徴ももっています。したがって、“経営環境に対する俊敏さ”も調査した企業平均よりも低くなっています。

社内では、トップダウンで指示が出されることが多く、部門間で協力しながら問題解決をしたり、創造的仕事をしていません。いわば、「命じられるままに仕事をこなしている」状況です。仕事の目標は不明確で、評価もあまりされていません。そのような状態だから、当然、評価を処遇に結び付けることもしていないばかりか、社内の教育制度も充実していません。人事的な環境から見ると、よいところは全然ないようです。

この「低付加価値2軍企業」の場合、自己実現因子が低いため、人間関係因子と経済性因子が変質してしまったのです。

じつは、人間関係因子と経済性因子には二面性があります。

まず、人間関係因子の“善玉”は、チームワークであり、職場の信頼関係です。しかし、この因子の“悪玉”は、無責任であり、事なかれ主義です。このことは、もともと「集団性」がもつアンビバレンスです。集団は、よい側面では“協調”を求め、悪い側面では“責任”を放棄する傾向があります。

このような人間関係因子の表われ方の違いは、自己実現因子の有無によります。自己実現因子が多いときは“チームワーク”のよい面が表われ、少ないときは“事なかれ主義”の悪い面が表われます。つまり、チーム組織にそのチームがもつ目的性が強く入ることによってはじめて、前向きな人間関係が形成されるのです。

そして、経済性因子も同様に、自己実現因子が高いときは、モチベーションを刺激するインセンティブといった“善玉”になります。しかし、自己実現因子が低いときは、経済的安定に安住しようという“悪玉”になります。

低付加価値二軍企業の人たちは、この悪玉の方に当てはまります。

このような会社では、まず社内の人事マネジメントを充実させていかなければなりません。たとえ事業の性格が知識創造的な要素が低かったとしても、仕事に目標をもち、組織的・計画的に目標遂行していく組織風土を醸成すれば、ワーク・モチベーションが高い会社になれるでしょう。

エクセレント業界バーンアウト企業(Dパターン)

このパターンの人々は自己実現因子も人間関係因子も低く、経済性因子だけが高くなります。いわゆる、エコノミックアニマル的タイプです。ワーク・モチベーションの総量はもっとも低くなります。社内には、まったく活気が感じられないはずです。

このパターンの企業は、非常に特異な性格をもっています。競争環境が激しい業界に所属し、会社の知名度は高く、成長性も高いのです。また、知識創造的な仕事をしており、新規事業にも積極的で、国際性豊かで、環境に対して俊敏な対応をしています。ここまでは、エクセレントカンパニーであるといえます。

では、なぜこのような企業で、ワーク・モチベーションが低いのでしょうか?

社内マネジメントの傾向は、トップダウン的で全社目標・部門目標とも、明確で計画的に仕事をしています。そのため、仕事優先で人間重視の雰囲気はありません。年功的な基準は排除され、上司部下の逆転人事がよく起こるほどの実力主義人事が行われています。ただし、人材育成の風土は低く、集合研修の場も少なく、また、OJTも熱心ではありません。

この「エクセレント業界バーンアウト企業」は、非常に厳しい経営環境の中で戦っており、社員も疲弊しています。ここで現われている経済性因子の高さは、「給与や賞与への不満・雇用の安定性への不安・適正な評価によって決まる昇給への渇望」を表わしています。戦国チャレンジャー企業のように、競争環境が厳しくても前向きにチャレンジしていく意欲は感じられないのです。

このような企業では、市場での厳しい競争に打ち勝つために、社員への要求も必然的に厳しくなります。目標達成の圧力は、社内のマネジメント・システムを通じて組織下部にどんどんおりていきます。システムが充実しているだけに、途中のよどみもなく、ストレートに要求がブレイクダウンされていくわけです。そのため、過度の緊張感が社内に充満しており、仲間同士で気を許したり、お互いに高め合う余裕はありません。

もっとも戒めるべき点は、「仕事の達成圧力だけは高いのに、それに対応するだけの教育を行っていない」ことです。これでは武器を与えずに熾烈な戦場に丸腰で送り出すようなものです。

その当然の結果として、社員はバーンアウトして会社を去っていくわけです。

やる気の出る会社のタイプとは?

では、これらの「出現パターン」と「やる気の出る会社」との間には、どのような関係があるのでしょうか。ここで、最初に事例として登場した2つのケースを、3つのモチベーション因子の視点から見てみましょう。

出現パターンとやる気の出る会社の関係例

①ファースト・コーポレーションのモチベーション因子
まず、≪事例1≫のファースト・コーポレーションを取り上げてみます。
この会社は、成長の美酒に酔ったのち、約15年かけて社員のモチベーションをダウンさせてきました。カリスマ初代経営者の真似をした2代目が、「人間の意欲に着目しないマネジメント」を行ったために凋落していったのです。
もっともいけなかったのは、人間関係因子の無視です。
その代表例が米国型チェーン・オペレーションでした。米国のビジネスモデルはもともと経済合理性を追求したものが多く、「どのような人でもオペレーションができるシステム」という考え方が強い傾向があります。いわゆるマニュアル化が進んでいるわけです。中でもスーパーのシステムは、価格競争が厳しい米国で生まれたものであり、効率化の追求は当然のこととされています。
しかし、日本の小売店の社員はアルバイト・パートといえどもほとんどの人が高等教育を受けています。そのような人たちをまったく信用せず、判断も任せなければ、意欲が湧いてくるわけがありません。また、問題に向かって戦った仲間たちが去っていくのを見ることは、大きな空虚さを感じたことでしょう。ここに、人間関係因子の欠如による失敗が見られます。
また、「顧客離れ」という社会的信頼失墜の事実を突きつけられたうえに、お店で発注する権限を奪ったり、創意工夫を退けたりすれば、やはりモチベーションは湧いてきません。仕事をすることそのものに楽しみを感じるからこそ出てくる自己実現因子を重視していないのです。
結局は、「ハードのみ重視して、そこで働く人の創意工夫を重視しなかったこと」「会社から社員が信頼されなかったこと」「現場で判断し行動する自由を奪われたこと」「能力重視だった会社がたった一人の人物によって壊されていったこと」「尊敬する先輩たちが否定されていったこと」「ゴマスリ人間が重用されていったこと」「ともに戦った仲間がどんどん追い出されていったこと」「未来に展望がもてなくなったこと」――これだけモチベーションを奪うマネジメントを行えば、会社は滅びるのは当然です。
②東海薬品のモチベーション因子
≪事例2≫の東海薬品は、3つのモチベーション因子がそろった状態です。
ミッションに沿った仕事をすることで社員たちは、自分たちが社会的存在であることを感じますし、ビジョンに向かって邁進することで大きな達成感を味わうことになります。まさに、自己実現因子が刺激されるわけです。
大半の社員は、何らかの形で会社に残り、定年まで働きたいと考えていましたが、「年数を重ねたら昇進できる」とは限らないので、それは「ただ会社にぶらさがっていたい」という消極的な動機からではありません。管理職を外れたあとでも、会社を通じて社会に貢献できることを誇りに感じている人が多かったのです。
また、会社方針の浸透の方法としてワークショップを行っているので、参加意識が高まると同時に、いろいろな人とコミュニケーションをとることになります。自分の周りの人たちと協力して目的を達成するのは、ポジティブな側面の人間関係因子を醸成することになります。
しかし、東海薬品は楽しいばかりの会社ではありません。厳しい側面もあわせもっているのです。責任ある仕事とその役割をまっとうすることに報酬を支払うので、大変メリハリが利いた人事運用になります。いくら長い時間在籍しても、価値ある仕事をしなければ報酬に結びつかないのです。
厳しいゆえについていけず転職してしまう人もいましたが、そのような人も東海薬品には感謝して辞めていきました。それは会社が、入社してからずっと、「個人の能力を高めるためのあらゆる努力」を惜しまなかったからです。
また、評価制度を支える管理会計の仕組みも充実しています。評価結果が直接報酬に結びつくのであれば、それを算定する会計システムが充実していなければ、社員は安心しません。この点では、経済性因子の側面が充足されています。
このように東海薬品では社長自らが行動して、社員のワーク・モチベーションを高める結果になりました。


昨今、多くの企業が社員のモチベーションを喚起するために、処遇制度をはじめとする「人事制度の改革」を行い、経済的インセンティブを高める諸策を導入しています。

しかし、これまで見てきたように“金銭的報酬”だけでは、社員のやる気を維持することはできません。社員の持続的なやる気は、「人間関係因子」「経済性因子」の充実を考慮しつつ、「自己実現因子」を高めることによって醸成されるのです。

3つの因子を高めるためには、その会社の組織風土や経営戦略、また過去の歴史や社員たちの価値観などさまざまな要素を考慮して手を打っていかなければなりません。

コンサルタントである私たちも、組織改革のコンサルティングを行うときは、単純に3つの因子を分析するだけでは、対策を考えることはできません。社員の持続的なやる気を醸成するうえで、すべての会社に当てはまる理想的な企業風土やマネジメント・システムは存在しないのです。

浜口社長が成功したのは現場を知って、そのうえでモチベーションを刺激する対策を行ったからです。現実の組織を事細かに体感したことが功を奏したのです。

大切なことは、自社のワーク・モチベーションが形成される仕組みをしっかりと認識し、自社のモチベーション因子のタイプを認識することです。そして、会社のあるべき方向に向け、モチベーション喚起の仕組みを構築しなくてはならないのです。

※この内容は2003年に書かれたものです。



ワーク・モチベーションの総量
3つのモチベーション因子の絶対的な保有量の合計値。

アンビバレンス
am-bivalence。二律背反。相反する2つのことのどちらにも価値を認める気持ち。

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