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5章 燃える社員を育てる「人材マネジメント」を実現する③

クレイア・コンサルティング 2018.4.12

3.会社と社員を元気にする「人材マネジメント」とは?

では、前項で紹介した3つの視点にもとづき、「有効な人材マネジメント」を実現するための具体的な提案をしていきたいと思います。

会社と社員を元気にする3つの提案

提案は、3つあります。

《会社と社員が元気になる「人材マネジメント」のポイント》

①キャリアを形成させる
この視点の背景には「成長」というキーワードが隠されています。

つまり、社員の「自分の可能性を認めて、自分の実力を高めたい、自分を磨きたい」という“成長欲求”と、会社の「社員に成果をあげることができる高い実力を備えた管理プロフェッショナルになって活躍して欲しい」という“成長期待”の一致を図ろうとするものです。

働き甲斐を促進する
この視点の背景には「自律」というキーワードが隠されています。

つまり、社員の「あれこれ指図されないで自分の仕事を自分でデザインしたい、そしてその貢献を実感したい」という“自律欲求”と、会社の「社員に仕事に対する当事者意識をもって、どんなことでも自分で考えて責任を持って仕事にあたって欲しい」という“自律期待”の一致を図ろうとするものです。

③社員の貢献を管理する
この視点の背景には「公正」というキーワードが隠されています。

つまり、社員の「適正な評価と報酬を受けたいと考えている。過度な報酬を望んでいるわけではなく、周囲からの認知の中で正当な評価を得たい」と思っている“公正欲求”と、会社の「成果主義を強め、社員の納得性を高めるためには公正さが担保されてなくてはならない」とする“公正期待”の一致を図ろうとするものです。

つまり、これらに対し、会社も社員もともに同じような“期待”をしているわけです。

では、ここからは、それぞれを実現する「人材マネジメントのあり方」について、順を追って考えていきます。

キャリアを形成させるには?

社員は「自分の可能性を認めて、自分の実力を高めたい、自分を磨きたい」と思っています。一方、会社は「社員に成果を上げることができる高い実力を備えた管理プロフェッショナルになって活躍して欲しい」と考えています。

つまり、お互いに「将来に向かって、いま以上の人材価値を高めたい(高めて欲しい)」「自分なりのキャリアをつくり出したい(つくって欲しい)」と考えているわけです。

ですから、これが実現できれば、会社と社員のお互いにとってメリットが生まれます。

では、このような社員のキャリアを形成させる仕組みは、どうあるべきでしょうか?

ポイントは次の3つあります。

《「キャリアが形成できる会社」の人材マネジメントのポイント》

①エンプロイアビリティとエンプロイメンタビリティの向上
社員には「エンプロイアビリティ」、会社には「エンプロイメンタビリティ」の向上が求められます。

「エンプロイアビリティ」とは、(社員が会社に)雇用される能力という意味で、「他の会社に行っても通用するスキル」を修得することが大切です。

一方「エンプロイメンタビリティ」とは、(会社が社員を)雇用する能力という意味です。つまり、優秀な人材を自社に引きつける能力ということで、「会社の魅力」であり、これは『社員に魅力ある成長環境をいかに提供するか』にかかっています。

②社員に成長を意識させる
キャリア形成には、社員に自身の成長を意識させることが大切です。

とはいえ、成長というものはイメージしづらく、成長を意識させるのは難しいことです。

成長とは、「新たな習慣をつくる」こと、および「一皮むける」ことであると考えてみましょう。どちらも社員に地道に経験させ、そこで必要なことを修得させることが大切です。

③社員に“節目”をくぐらせる
「節目のマネジメント」の経験は重要です。

節目とは、会社で働いている中で、ある状況に身を置き、自分がなんとかその状況に適応しようとする場面のことです。

会社で働くとは、この節目の連続を経験することです。社員には、できる限り多くこの節目をくぐらせ、うまく状況に適応する良質な体験を積ませることが大切です。

では、一つずつもっと詳しく見ていきましょう。

①エンプロイアビリティとエンプロイメンタビリティの向上

社員がが成長をとげるには当然、社員自身の意識とスキルが磨かれていなければなりません。常にいまよりも一段付加価値の高い仕事にチャレンジし、自分の実力を高める必要があります。

「エンプロイアビリティ」(雇用される能力)という言葉があります。これは、「『一つの会社の中でしか通用しないスキル』で職を得るのではなく、『他の会社に行っても通用するようなスキル』をもつことが必要だ」という意味です。

社員の成長期待は、「自分の可能性を認めて、自分の実力を高めたい、自分を磨きたい」ということですから、何もその会社で働いていることが大切なのではありません。その会社で仕事をすることが、自分の実力をつけることに大いに役立つと感じることで動機づけられています。

ですから、社員がいくらこの会社で働いても自分はもう伸びないと感じたらそれで終わりです。

また、エンプロイアビリティを高めて会社から離れていく社員も出てくることでしょう。これはどこへいっても満足な働きができると、自信を深めた結果でしょう。

したがって会社としては、社員にエンプロイアビリティを向上させるように人材マネジメントを行う必要があります。

この要諦は、「今の仕事が自分を磨いてくれる」と、社員に強く認識させることにあります。 そのためには、社員の成長段階を的確に知り、それに適した仕事を付与し、実際のOJTを通して意識を強化させていくことが大切になります。

もう一つ会社が行うべきことがあります。

それは会社の「エンプロイメンタビリティ」(雇用する能力)を向上させることです。

社員にエンプロイアビリティの向上ばかり求めていると、社員には会社が一方的に「もっと自分の能力を開発しろ、もっと専門性を高めろよ、そうしないうちで働けなくなったら他社で雇ってもらえないぞ」と社員をいつも脅しているように受け止めることでしょう。

社員にばかりこのような“期待”をしている会社が、では社員に何を支援しているかといえば、じつは何もしていない場合が多いのです。 社員のエンプロイアビリティが高まるということは、その反面で「会社の人材獲得競争が激しくなる」ということでもあります。

ですから、会社は、成長欲求の高い社員を定着させ、社員が望む自己実現を支援する就業環境を整備しなければなりません。

このようにエンプロイメンタビリティとは、単なる“雇用能力”のことではなく、「優秀な人材を自社に引きつける能力」のことを意味します。言葉を代えていえば、「会社の魅力」です。つまり、「社員が成長しようとする“会社の魅力”があるかどうか」です。

社員は成長できないと、会社から逃げていくのです。 会社は社員にエンプロイアビリティばかり求めず、自社のエンプロイメンタビリティを高めて、それを実現する仕組みを構築していかなくてはなりません。

つまり、「雇用される能力の向上も、雇用する能力の向上も、ともに“社員の成長”のために向けようではないか」ということです。 それは、社員が「いかに自分を成長させるか」について考え、会社が「いかに社員の魅力ある成長環境を提供するか」を考えることによって実現できるのです。

成長をカギにした会社と社員の良い関係

②社員に成長を意識させる

人が成長するとはどういうことをいうのでしょうか?

これは考え出すと実はとても難しい問題です。ですが、成長するということのイメージをとらえておかないと、社員の成長を促すことは困難となります。

私たちが実際に行う人事コンサルティングの場面では、ひとまず成長するということを、「新たな習慣をつくる」、および「一皮むける」ことだと述べています。

「新たな習慣をつくる」とは、目標に向かって、自分を変えることの意義と必要性を納得し、必要だと考えた行動を実際に移し、そして何度もくり返すことです。

人がこれまで慣れ親しんだ習慣を変えていくのは、並大抵のことではありません。とくに中高年の社員になるほど難しく時間は大いにかかるでしょう。けれども実際の行動ベースで、これまでなかった新たな習慣を現実につくり出さなければ、社員は成長を意識することはできないのです。

「新たな習慣をつくる」ことを促進させる基本姿勢が3つあります。

新たな習慣づくりを促す基本姿勢≫

  1. 主体的であること。
  2. 挑戦的であること。
  3. 貢献的であること。

まず、社員の心のうちから湧き出てくる心的エネルギーが大切です。

そのためには、自ら頑張っていこうとする意欲がなければ何もはじまりません。 とかく社員は新しいことに心のブレーキをかけたがります。失敗したらどうしようか、他人から悪い評価を受けたら困る、なんだか難しそうだ、などです。それらの心のブレーキを跳ね返し、なんとか現状を打破していこうと、あえて挑戦していく勇気をもつことです。

そして最後に、他者に貢献するという気持ちです。

“情けは人の為ならず”といわれます。見返りを期待しない“陰徳”といえば古臭く聞こえるかもしれません。ですが、他者を利することに気を配っていますと、回りまわってその徳が自分にエネルギーを戻してくれます。

これらの3つの基本姿勢は、地味ですが、日々の仕事のなかで着実に伝えられていかなければなりません。人事評価制度の行動基準に設定して誘導していくことも効果的でしょう。

ですがトップが直接この価値観を熱く語りかけることほど重要なことはありません。

さてもう一方の「一皮むける」ことを考えていきましょう。

ここでいう「一皮むける」とは、「何か試練などを経て、自分が一回り大きく成長すること」といい換えることができます。

じつは、本人が意識しているか否かは別にして、「一皮むける」経験は誰にでもあります。 私たちが行うトレーニングに、社員の「一皮むける」経験を語らせるというものがあります。

冒頭にどなたかを指名し、いきなり「自転車の乗り方を説明してください」とお願いします。大方、説明をはじめるのですが、途中で頓挫します。まず両手でハンドルを握り、左足を左ペダルに置きサドルにお尻を乗せて自転車にまたがり、右足で右ペダルを踏み込んで前方に動かす……。実際に話してみると、「実際に説明するのは案外難しいものだ」と感じてもらえます。

誰もが自転車に乗れることは確かなのに、そうなのです。これは何を意味するのでしょうか。

人は“暗黙知”を豊富にもっています。ですが、それは“形式知”ではありません。言葉では語り難いのです。

これを「暗黙知はあるが、形式知が不足している」状態をいいます。自転車に乗れるのに、その方法をうまく説明できないのはこのためです。

社員が自分自身で成長していく際の核心となる力は、“メタ認知”であると、私たちは考えています。

豊かな原体験である「一皮むける」経験(暗黙知)を言葉で説明できるようにすれば、自分の成長にともなう行動パターンを紡ぎだすことができます。つまり、「自分がどういう風に成長するべきか」を武器(形式知)として装備することができます。また、他者の「一皮むける」経験を聞くことで、他者がどのように成長をとらえているかを学ぶことができます。

そのためには、「自ら経験を豊かにして“一皮むける経験”の量を増やす」ことと、「そこから大切なことを形式知にして語れる状態にする」ということが大切になります。 3つの基本姿勢をとらせ、「新たな習慣をつくらせる」ことと併せて社員に行わせると有効でしょう。

③社員に“節目”をくぐらせる

では、会社はその社員の成長をどのように支援していくとよいのでしょうか?

それは、「成長の体験を会社の中でつくり出し社員に提供する」ことにつきます。 そのためには、「節目のマネジメント」が重用ですが、節目はサイクルでとらえると理解が深まります。

≪節目から次の節目までのサイクル≫

  • 何かがはじまる。
  • 新しい出来事に次々と遭遇する。
  • 何とかその状況に適応しようと頑張っている。
  • やっと状況が安定化し、終わりかけてくる。
  • また、何か新しいことのはじまる兆候が見える。

会社で働くとは、この節目のサイクルの連続なのです。そこで、この節目にうまく対処することが必要となります。

≪節目のマネジメントのポイント≫

  • 「何かがはじまった」とき
    新しいことに現実的な期待をもちつつ、きちんと準備ができています。新しい世界での意欲も高まり、可能なかぎり新しい仕事の客観的姿をつかもうとしています。
  • 「新しい出来事に次々と遭遇する」とき
    思いがけぬ驚きがありますが、それをきちんと意味づけていくことが大切。
  • 「何とかその状況に適応しようと頑張っている」とき
    課題達成も、協働すべき人々との人間関係でうまくこなせます。信頼も生まれます。目標が定まると、その目標に対して自分の裁量で工夫しながら、仕事がさらにうまくこなせるようになっていきます。
  • 「やっと状況が安定化し、終わりかけてきた」とき
    職場への順応もはかどり、必要な対人関係のネットワークをうまく形成します。うまく状況に適応できたという喜びを感じるときです。その一方で、何かが終わっていく感じがします。

社員が何度も何度も、この連続(=節目)を成功裏にくぐりぬける経験を積むことが重要なのです。

この節目は、ときには試練となるでしょう。困難な状況のほうが、そこをくぐりぬける社員を一層強く成長させることができます。

私たちは多くの人事コンサルティングの場面で、社員に試練となる状況を与える必要性を説きます。それを「試練場」と呼んでいます。

ある会社では実際、定期的に次のような「試練場」を経験させています。それは、「対象者に対して社内公式の場での期待が提示され、その期待に対するアカンタビリティが問われる場を、半期に一度設定する」というものです。

全社員が集まる中で、部門のリーダーが「6ヵ月間の成果」を発表するのです。 ここでは社員全員が審査員という視点があり、この成果発表会で参加者からアンケートをとるようにしています。

また、経営側から厳しい質問が飛んできます。なんとか、これに答えなければなりません。 会社は、このような節目を社員に多くもたせる必要があるのです。そうすることによって、社員はそのサイクルのマネジメントを身につけていきやすくなるのです。

働き甲斐を促進するには?

社員は「あれこれ指図されないで自分の仕事を自分でデザインしたい、そしてその貢献を実感したい」と思っています。一方、会社は「仕事に対する当事者意識をもって、どんなことでも自分で考えて責任をもって仕事にあたって欲しい」と考えています。

つまり、お互いに「主体的に仕事をやりたい(やって欲しい)」「よい人間関係の中で、自律的にリーダーシップをとって部下と統率して成果を出したい(出して欲しい)」と考えているわけです。 そうすることによって、社員の働き甲斐は倍増するでしょう。

では、このような「働き甲斐を支援する仕組み」はどうあるべきでしょうか?

ポイントは、次の3つあります。

《「働き甲斐を支持すできる会社」の人材マネジメントのポイント》

①オーナーシップとエンパワーメントの充実
社員にはオーナーシップ意識をもたせ、自律的に仕事を切り開いていかせることが大切です。

会社は、社員をエンパワーメントさせる施策を講じる必要があります。エンパワーメントで必要なのは、権限の委譲とともに、マネジャーを勇気づけたり、元気づけたりすることです。

②社員に役割を付与し、「強い思い込み」をもたせる
「役割の付与」が社員に仕事の方向性を与えます。その中で、夢を語ることは大切であり、それは力となります。「強い思い込み」は現実をつくります。この実現のサイクルを回すことが大切です。

③マネジャーをメンタリングする
現場のマネジャーがもっと支援されなければ、本当のエンパワーメントにはなりません。メンタリングの効用に注目すべきです。

では、一つずつ詳しく見ていきましょう。

①オーナーシップとエンパワーメントの充実

オーナーシップの意識なしに、自律は形成できません。いかなる社員であっても、自分は自分の仕事の主体でありたい、また何か新しい状況がはじまるときには、自分がその先駆者でありたいと願っています。

これらの環境では社員に自己決定がともないます。自己決定ができる環境にあるということが大切なのです。

報酬などのインセンティブを「外発的動機づけ」というのであれば、自己決定ができる環境というインセンティブは「内発的動機づけ」でしょう。 「昇格・昇進や業績年棒の処遇などの報酬のためだけでなく、仕事の意義やおもしろさを感じながら、自分の力を試しつつ、達成感や心の充実感をかみしめる」――これらのすべてのアクションを自己決定しながら進めることができるのは、心の底から湧き上がってくる“心的エネルギー”なのです。

ですが、オーナーシップは、「我がまま放題に仕事をする」ということではありません。いくらマネジャーであっても、ともに額に汗して働いてくれる仲間がいるのです。そのような仲間に認められてこそ、より一層自身の主体性が向上するのです。 その実現のためには、次の「(a)→(b)→(a)」といったサイクルが大切です。

≪オーナーシップが発揮される際のポイント≫

(a)何か行動すれば、それが関係者に認められる。

(b)自信が深まり、一段と自律的にリーダーシップがとれるようになる。

会社は社員をエンパワーメントできるか(=任せられるか)どうかを見抜き、権限を委ね、元気づけ、支援する必要があります。社員が自己責任として何でも自分で考え、「会社に寄りかからない職業人としての姿勢とスキルを身につける」ことをめざせるように、社員の働き甲斐を支援していく方策を考えることが重要です。

多くの会社では、「権限委譲すれば、エンパワーメントだ」と考えがちです。ですから、「職業分掌や権限規程の類を仔細に作成して、それで終わり」とする会社が多いのです。

ですが、そこには何かが欠如しています。一言でいえば、「社員をほったらかしにしている」ということです。自律的に心的エネルギーを発揮してもらうことが目的なのですから、社員は勇気づけられなければ、元気でいられません。この視点が、現場で真剣に語られていないのです。

私たちは人事コンサルティングで、エンパワーメントで必要なのは、「現場のマネジャーを勇気づけたり、元気づけたりする熱意と技術だ」と説いています。公式の権限を委譲することは確かに大切ですが、それだけがエンパワーメントの本質ではないのです。

自律をカギにした会社と社員の良い関係

②社員に役割を付与し、「強い思い込み」をもたせる

「あれこれ指図されないで自分の仕事を自分でデザインしたい、そして、その貢献を実感したい」と社員は思っていますから、会社が先に社員に役割を付与しておくことはとても大切なことです。

簡単にいえば、会社は「成すべきこと(=役割)は明確にしておくから、あとは自分でいかなる手段を取ろうともやり抜いてください」と願うべきなのです。

さて卑近な例ですが、ここで「思い込み」の大切さを確認してみたいと思います。

《思い込みの大切さがわかる例》

「朝起きるときに、目覚まし時計は必要か」ということを考えてみましょう。

6時に起きたければ、目覚まし時計を6時にセットします。これは日常よくある風景です。6時を過ぎて寝ている自分を、目覚まし時計は起こしてくれます。

しかし、前夜に、「明日は6時に起きる!」と念じて寝たら、翌朝目覚まし時計が鳴る前に目覚めたという経験をされた方はいないでしょうか。この場合、目覚まし時計は必要なかったのです。それなのに、6時に起きるという現実が生じました。

自己成就的予言」という言葉があります。社会学者のマートンが「期待が実現する」ことを名づけた言葉です。

「思い込む」というとき、何か偏狭に固執したというネガティブなイメージが漂いますが、じつはこの「思い込み」が現実をつくる力となるときが多いのです。

「強く思い込む」ことは念ずることと同じです。目覚まし時計の例では、「明日は6時に起きる」という強い思い込みが作動したと考えれば、理解しやすいでしょう。

ところで、社員が力を発揮する場面を想像してみましょう。 トップはよく現場に危機感を醸成します。プレッシャーを利用し、社員を追い込みます。社員は確かに恐いから動きます。これは「緊張が動機づけられた行動の源泉である」という考え方に基づいています。

しかし、こんな組織で働きたいと思う社員が多くいるでしょうか? もっと夢やロマンが語られている組織のほうがよいものです。会社の中に、次のようなシナリオがあれば、すばらしいのではないでしょうか。

≪会社内にある理想のシナリオ≫

  • トップが明るく、熱く、夢のあるビジョンを語る。
  • そこを目指すと元気が出るから、社員は力を発揮しようとする。

このような組織風土を当たり前につくれる“優れたトップ”は実在します。 「夢を語る」ことは力となります。

そうすると、何が何でもそれを達成しようと社員に「強い思い込み」が生まれます。情熱と意欲を行動のベースとするのです。

ある会社では、「会社のビジョン実現に向けて、個人が真剣に夢を語り、強く思い込んで、行動する」ことを、360度評価しているところがあります。この「強い思い込み」が現実をつくるサイクルを回すことが大切です。 そうすることによって、社員のオーナーシップは一層高まります。

③マネジャーをメンタリングする

現場のマネジャーをエンパワーメントしなければならないのですが、エンパワーメントで大切なことは勇気づけであり、元気づけであると述べました。

マネジャーがエンパワーメントしているかどうかは、どれだけマネジャーを「手入れ」したかにかかっているのです。

「手入れ」とは、放っておけば劣化する人の心を常に一定に保つ努力のことであり、人間の心の力をいいます。「手入れ」をしてあげなければ、マネジャーはエンパワーメントしにくくなるのです。

メンタリングは、この「手入れ」の代表的な施策の一つです。

社員にとってメンターというのは、会社で仕事を進める中で、「自分のキャリアのことで貴重な助言を与えてくれ、チャンスを授けてくれる」存在のことです。 現場のマネジャーの上司にあたる人が、このようなメンタリングを心がけてやっていると、現場のマネジャーの有能感は増して、エンパワーメントします。その結果、「自律的に何かを変えてこう」とする気持ちが強まります。

このような心理状態になるのは、中堅どころとして、「自分にはより若い世代を育成する役割がある」ときちんと自覚している人に、より顕著に現われます。 いくら現場のマネジャーでも、自分中心のスタイルでただ走り続けているだけの人や、若い世代の育成に無頓着な人には、メンタリングの効果は低いのです。

社員の貢献を管理するには?

会社で働く社員にとって、大切なことが2つあります。

《働く社員にとって大切なこと》

  • 会社で自分がどのように評価されているのか?

  • 給与がなぜその金額なのか?

不思議に思われるかもしれませんが、社員の評価をまったく行っていない会社もあります。また、経営の一部の人が密かに閻魔帳をつけているのみで、会社として評価制度の仕組みをもたない例もあります。

そのような会社では、給与も社員個人にバラバラに支払われており、何ら仕組みの中で組み立てられた制度となっていないことがよくあります。 このような状況ですと、社員としてみれば、「自分の働きぶりは正しく見られているのだろうか」と不安になります。「もしかしたら特定の人が恣意的に自分の評価をさげているのではないか」と疑うかもしれません。 そして、「毎月の給与や夏と冬の賞与が妥当なものか」ということにも疑問を感じてしまうこともあるでしょう。 社員は、「適正な評価と報酬を受けたい」と考えているわけです。

つまり、過度な報酬を望んでいるのではなく、「周囲からの認知の中で、正当な評価を得たい」のです。 ですから、会社が「評価と処遇」という問題をいい加減に放置していると、社員の信頼を失います。評価と処遇は、きちんとしなくてはなりません。

一方で、多くの会社では、年功や勤続に関係なく社員の貢献度を評価して、それに応じた処遇を行われようとしています。成果主義をベースとして、社員に実力をつけてもらい、よい業績をあげてもらいたいのです。

成果主義というのは、「社員がよい実績を残すことを促進し、よい実績を残したことを認めてあげて、それにきちんと報いる」ことです。 よい実績は、「よい結果」と「よいプロセス」からなります。「結果としての業績がよければ、それで構わない」ということではありません。 短期的に終わらず、長くよい結果を出し続けるには、確かなプロセスが不可欠です。仕事を行う中で社員の実力は発揮されるのですから、結果を認めてあげることとあわせて、プロセスも評価する必要があるでしょう。

そのためには、社員の貢献度に応じた成果配分についての納得がいく仕組みをつくり、すなわち“公正さ”を担保しなくてはなりません。 それが、社員に「会社に対する貢献度を高める自助努力をしなくてはならない」という要求をするための前提条件になります。

では、社員の貢献を管理する仕組みは、どうあるべきなのでしょうか?

ポイントは次の3つあります。

《社員の貢献を管理するためのポイント》

①アカンタビリティとフェアネスの徹底
社員の貢献をきちんと管理するためには、成果主義をベースとした評価・処遇制度が不可欠です。

「社員が果たすべき職務責任の内容」(=アカンタビリティ)を定義し、評価・処遇制度を整備して、それをフェア(=公正)に運用しなくてはならないのです。

いくら評価・処遇制度を精緻化しても、社員が「アンフェア(=不公正)だ」と感じてしまっては、肝心なところでやる気を低減しかねません。社員の納得感を高める働きかけが大切です。

②成果主義の大切なところを見つめ直す
成果主義とは、「戦略をベースとした期待」(=成果期待)を従業員に対して明確化し、その期待にしたがって成果・貢献をあげる人材にインセンティブを与え、さらにそうした人材を戦略的に重要なポストに配置・育成していくための考え方です。

成果主義を確実に実現するには、会社の長期的なビジョン・方針が重要です。さらに、それを現場の言葉に置き換える「現場レベルでの上司」の役割が必要になります。

③社員の貢献を形にして周知させる
貢献した内容を形にする努力が多くの会社で不足しています。

社員は、自分の貢献したことを確認でき、その成果が組織内にきちんと伝わっていけば、社員同士がお互いの貢献内容を知り刺激を受けることになります。

では、一つずつ詳しく見ていきましょう。

①アカンタビリティとフェアネスの徹底

社員の貢献度をきちんと評価・処遇するには、「社員の職務責任」(=アカンタビリティ)を明らかにしておかなくてはなりません。

アカンタビリティが明確でないと、会社は貢献が不十分だと指摘しているときに、社員は十分に貢献したと言い張る水掛け論がいたるところでおこりかねません。

人事制度の中には、「アカンタビリティの大きさにしたがい階層を設けて、等級化を行う」仕組みがあります。この階層・等級ごとのアカンタビリティをきちんと定義することによって、そこに格づけられる社員に「達成してもらいたいこと」を明確に伝えることができるからです。

この制度下での評価は、あくまでも「アカンタビリティの実際の実現度」とします。それを「会社に対する貢献」と見なすわけです。 当然ですが、これらの評価・処遇制度がフェアに運用されなくては意味がありません。 このフェアな運用は、じつは簡単なようで難しい側面をもっています。 なぜなら、フェアだと感じるのは、社員自身だからです。 いくら評価・処遇制度の仕組みが構築され、きちんとルール化して運用されても、やはりその対象となる社員が「アンフェアだと感じてしまう」ことがあります。

人は他人より低く評価されると、たとえその評価が客観的事実にもとづいて行われていても、「その結果はアンフェアだ」と感じることが多いのです。 比較されているその他人と明らかな貢献差があれば話は別ですが、本人が「あいつとは同等だ」と思っていれば、なおさら不満をもつことでしょう。それは、社員の気持ちの問題なのです。

多くの会社でよく間違えられるのは、この社員の「アンフェア認識」への対処法です。

一番多いのは、「評価・処遇制度をより一層精緻にしよう」とする試みです。 確かにそれは大切なことでしょう。曖昧な評価より、基準も運用も明確なルールにしたがったものが好ましいのは当然です。しかし、忘れてはならないのは、「この精緻化は切りがない」ということです。

社員の納得感に働きかけがなされていないのでは、いつまでたっても社員のアンフェア認識は残るでしょう。 では、どうすればフェアネス(=公正さ)を実現できるのでしょうか。 そのためには、地道な次の2つの社員への働きかけが必要です。これらの働きかけを行う目的は、社員の“納得感”を高めることにあります。

≪評価の公正さを保つための社員への働きかけ≫

  • 社員の意見を会社が尊重していることを示す 社員にとって、「自分がかかわる仕事について、いつまでも意見が求められる」という環境は何よりも重要です。
  • フィードバックの徹底 社員が「最終的にどのような評価が下されたのか」、および「その理由」をきちんと理解する必要があります。さらに、社員に対して求められるアカンタビリティを、きちんと“具体的な期待”として示すことが重要です。

このような働きかけの努力が、評価・処遇制度と相まって、フェアネス(=公正さ)の実現に貢献するのです。

公正をカギにした会社と社員のいい関係

②成果主義の大切なところを見つめ直す

多くの会社でコンサルティングをしていると、「成果主義」の意味するところが誤解されていることが多くあります。

「成果主義とはなんですが?」と尋ねてみますと、決まって「賃金に格差をつけることです」とか、「業務に合わせた評価や報酬制度とする」などの答が返ってきます。

この成果主義ですが、どうやら「導入すると社員のモチベーションは向上する」とあまりにも容易に考えられているところがあります。

ところが、成果主義には、さまざまな副作用があるのです。この副作用のために、社員のモチベーションは向上するどころか、職場の活性化を大きく阻害してしまうことが多々起こります。

つまり、社員のモチベーションをダウンさせてしまうわけです。 それらは具体的に、次のような現象となって表われます。

《成果主義の副作用の症状例》

  • 社員がチャレンジングな目標設定をしなくなる。
  • 仕事のプロセスの重要さを壊してしまう。
  • 社員間で感情のコンフリクトが生じてしまう。

実際に企業の人材マネジメントをコンサルティングしてみると、このような成果主義の副作用に直面している会社には共通点があります。

それは、「成果主義は、いかなる目的で行われるべきか」を考えていないという点です。 有効な人材マネジメントの一つの視点である「経営の方向性との適合性があるか」は、成果主義においても大切です。

つまり、「社員個人の職務行動や貢献のあり方」を「経営の方向性」にあわせる必要があります。

そのためには、一人一人と「戦略と連動した貢献や成果に関する期待」についてコミュニケーションをとり、それを「個人の目標」として設定しなくてはなりません。あくまでも、会社側が与えるのは「戦略やビジョンにもとづく成果期待」であり、その期待にもとづいて目標を設定するのは、働く社員自身です。

また、こうした目標の設定は、人事部などの人材マネジメント部門が行う作業ではなく、「職場のマネジャーと部下の間で行われる」ことも明確に意識しておかなくてはなりません。つまり、現場レベルの上司が部下に対し、会社の長期的なビジョンや方針を現場の言葉に置き換えていく必要があります。

要するに、評価や処遇における成果主義とは、「会社側の成果期待にもとづいて個人が目標を設定し、その期待に対し成果をあげれば、高い評価や処遇を受けられる」という制度的の準備のことです。それらがきちんと整備されていれば、「好き勝手な」目標が出てくる可能性は少なくなるでしょう。

③社員の貢献を形にして周知させる

「社員が自分の貢献を感じることができ、組織全体に社員の貢献がいきわたる」ようにするためには、貢献した内容が形になって表われたほうがよいでしょう。

大企業では、よく勤労表彰などあります。しかし、「勤続何年」ということで表彰状と薄謝が贈られるだけで、肝心の表彰する内容がよく見えないのが残念です。 会社は、日ごろの感謝の意を込めて、社員を定期的に表彰することは大切です。

しかし、その際には、「どのような貢献をしたのか」を表わすこともあわせてやるべきでしょう。 現在では、社内の掲示板で社員の貢献内容が詳しく説明されている会社もあります。

このように、組織内に各社員の貢献したことが周知されると、貢献することに意識を向けさせることになります。

※この内容は2003年に書かれたものです。

暗黙知と形式知
マイケル・ポラニーによると、「知識」は「暗黙知」と「形式知」に区別される。「暗黙知」は特定状況に関する個人的な知識であり、形式化したり他人に伝えたりするのが難しい。「暗黙知」には、認知的な側面と技術的な側面がある。認知的な側面には、世界観、信念、視点などが含まれ、技術的は側面には、ノウハウ、技巧、技能などが含まれる。一方、「形式知」は、形式的、論理的言語によって伝達できる知識。
メタ認知
認知に対する認知。すなわち、見る・聞く・書く・話す・理解する・覚える・考えるといった通常の認知活動を、もう一段高いレベルからとらえた認知。「自分のおかれた状況や、自分の認識を客観的な視点でモニターし、コントロールできる力」ともいえる。この「メタ認知」を働かせることによって、ワンパターンに陥りがちな思考を回避し、柔軟な問題解決ができるようになる。
試練場
「社員にとって試練となる状況」のこと。人材育成においては、社員が何度も何度も、「試練場」のような“節目”を成功裏にくぐりぬける経験を積むことが大切だが、重要で困難な状況のほうが、そこをくぐりぬける社員を一層強く成長させることができる。
アカンタビリティ
結果責任とか説明責任と訳される。「職務上の明確な役割分担のなかで生みだすべき説明可能な成果に対する責任」という意味。
オーナーシップ
社員が「仕事は自分のもの」と主体的に考え、情熱を傾けている状態。個人が尊重され、自然に動機づけられることがポイント。
エンパワーメント
パワーを与える(Em+Power)という意味から、現場に権限を与えることで、自主性を生み出すこと。権限委譲とか決定参加という人間関係の側面と、個人が内発的にモチベートされるというモチベーショナルな側面がある。また近年では、個人に適用するだけでなく、集団やチームに対しても、この概念が適用される。
メンタリング
知識や経験の豊かな人々(=メンター)が現時点でまだ未熟な人々(=メンティ)に対して、キャリアや心理・社会的な側面から継続して行う、キャリア成功を目的とした一定期間の支援行動。
自己成就的予言
self-fulfilling prophecy。期待されているという個人の思いこみや、決めつけがその後の行動に影響を与え、期待通りに現実化してしまうこと。たとえば、血液型と相性とに関連があると深く信じている人が、初対面の人と自分の血液の相性がよくないと思い込んでしまうと、その後の関係がうまくいかず、「やっぱりこの血液型の人と自分は相性が合わない」などとさらに確信を強めてしまったりするもの一例。 アメリカの社会学者ロバート・K・マートンがそのメカニズムを明確に説明した。
360度評価
多面評価とも呼ばれる。評価対象者について、上司・同僚・部下など周囲の複数の人からの評価を集計し、対象者本人にフィードバックする技法。どちらかというと人事考課より、能力開発の方法として用いられていることが多い。
メンター
会社で仕事を進める中で、「自分のキャリアのことで貴重な助言を与えてくれ、チャンスを授けてくれる」存在。
有能感
「できないことをできるようになりたい」という動機によって行動し、その結果得られた達成感が、新たな技にチャレンジしてみようという気持ちにさせること。その連続的な心の状況。

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