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【コンサルタントコラム】
「やる気」の構造 ~これがモチベーションを高める組織だ!~(2017年) - 5章 燃える社員を育てる「人材マネジメント」を実現する①

1.会社と社員の「期待」の一致をめざす

前章で「個人のやる気を刺激する組織」について見てきましたが、この章では、それをより噛み砕きつつ、有効な「人材マネジメント・システム」を策定するうえでの重要なコンセプトについて考えてゆきたいと思います。

まずは、マネジメントを行う側の「会社」と、マネジメントを受ける側である「個人」の関係から見てゆくことにしましょう。


関係する双方の期待が折り合わなかったら?

じつは、「会社(組織)と社員(個人)」の関係には、「会社と顧客」の関係と同様の側面があります。そこでは、“期待”という言葉がカギを握ります。

つまり、「会社と顧客の間で、その提供する(される)商品やサービスに対して双方に“期待”がある」ように、会社と社員の間にも双方の“期待”があるのです。

たとえば、休日で朝をゆっくり寝たある日、朝食を取ろうと自宅近くのレストランに出かけたとします。時計を見れば、午前10時を過ぎていましたが、メニューを見て思わず目を疑いました。ずらりと、お昼のランチや定食などが賑やかに並んでいるではありませんか……。そこで、あなたは「あの~、もっと軽いもので、トーストとか卵料理とかはないのですか」とウエイトレスに尋ねました。しかし、彼女は不愛想にこう答えます。「朝食メニューは10時までです」と。

あなたとしては、休日の朝にいきなり「ハンバーグ定食やカツ煮重はいかがですか」といわれても閉口するばかりです。当然、気の利かないレストランだと感じるはずです。

しかし、レストラン側にしてみれば、朝は6時から店を開けていて、4時間もの間朝食メニューを提供しています。何でも揃えた総合メニューより、時間帯の顧客ニーズに合わせ、朝食や昼食などのメニューを提供するほうが顧客満足を向上させることができると考えてのことでしょう。

要するに、会社は「こんな商品・サービスを提供したい」(○○だから、顧客に喜んでもらいたい)と期待します。同様に、顧客も、「こんな商品・サービスが欲しい」と望んでいます。その双方の期待が重なり合っているときには、双方が幸せなわけです。

ところが、一方が望んでいることを、一方が望まない場合、どちらかに不満が残ります。これが続くとお互いの関係は、長続きしません。

これと同じように、社員の働きに期待しない会社は存在しません。経営者は年度はじめの事業計画など、折にふれて社員に「こうあって欲しい」という要望を出しています。

一方で、社員も、会社に多くの期待を寄せています。世間並みの給料は出してもらいたいでしょうし、よい人間関係のある職場で働くことに反対する社員はいないでしょう。

もし双方が意志をもって、お互いの期待を裏切ったら、どうなるでしょうか?また、期待しあっても、双方または一方が相手の期待に応えられなかったらどうなるでしょうか?

答えは、明らかです。その関係は、破綻するでしょう。

つまり、「会社(組織)と社員(個人)」の関係を良好に保つには、双方の“期待”をきちんと把握しておかくてはならないのです。そして、この両者の“期待”を結ぶ働きをするのが、前章の最後項で紹介した「リーダーシップ」なのです。



会社と社員が置かれている現状は?

では、「会社と社員の間では、お互いにどのような期待をもち合っているか」をA社の事例を通して見ていきましょう。

A社は、石油や液化石油ガス(LPG)の卸・小売を行う中堅企業です。A社には、本社以外に、顧客と接する事業所が3つあります(下図参照)。



事例:石油・LPGの卸・小売を行うA社の組織形態

①本社。
②おもにLPGを地元のガス会社に卸す営業所(一般家庭・業務用への小売りもする)。
③一般の自動車にガソリンなどを給油する給油所(サービス・ステーション)。
④LPGをおもにタクシー会社のガス車に給油するオート・ガススタンド。

さて、この事例で、「会社(社長)の期待」と「社員(各事業所の責任者)の主張」を双方から聞くとどうなるでしょうか?

A社における双方の期待・主張

①会社(社長)の期待
少し勤続年数が長いからといって威張って欲しくない。
プレイングマネジャーだから、「実務のエキスパート」という実力と、「管理のプロフェッショナル」という実力の2つの側面をもっていて欲しい。その事業所のあるべき姿を常に考え、スタッフをリードしていくための高い見識やリーダーシップを発揮してもらいたい。
だから、彼らには意識改革が必要だど思う。何よりも、自分は雇われているという意識を捨てて欲しいのだ。各事業所の責任者は、自分の会社を切り盛りするという意識で、オーナー感覚をもって日々の仕事に取り組んでほしい。
業績評価(結果)と行動評価(プロセス)は今後きちんと行っていきたい。やはり実績を残して貢献してくれないと、充分な報酬も支払えない。年功や勤続に関係なく貢献度に応じて処遇するというのが、彼らには一番よいことだと思う。
②社員(営業所長V)の主張
責任者としての力をつけたいとは思う。でもね、1日の限られた時間は大方、得意先のガス会社の社長と良好な関係を保つことに費やされるのですよ。この会社で長くいる私がやるのが、一番効果があるんです。
なんといってもこの世界は、長年培った“顔”がものをいいます。営業所もマネジメントといったって、プロパンの配送、ガス器具の取付工事・修理、それと燃焼器具の販売などは、それぞれスタッフがやりますからね。いくら所長だからといわれても、そんなに全部は手が回らないですよ。
それに会社はマネジメントの研修なんか、何にもしてくれないしね。昔からこの会社にいるという威厳が、人を動かすのに役立ちますね。
③社員(給油所のマネジャーW)の主張
給油所が自分の店だったらと思うときがあります。それなら、死に物狂いで働くのになぁ。でもここは会社の店で僕はただの雇われの身ですからね。バイトあがりでマネジャーになったから、まだ実力がないと思われています。
いつも本社の店舗統括部の課長さんからガミガミといわれてばかりです。アルバイトの数も減らされているのに、これからは油外商品もたくさん売っていけといわれています。給油にきた車のボンネットを開けて中を点検せよといったって、お客が怒るんですよ。僕らにそんなことは無理です。給油所なのだから、ガソリン入れてなんぼじゃないですか。アルバイトの何を管理せよというのですかね。
先日、昇給額が少ないとアルバイトが僕に文句をいってきました。閉口するばかりです。だって、給料を僕は何も知らないのですよ。
④社員(オート・ガススタンドの所長X)の主張
そりゃ、評価と処遇はきちんとしてもらいたいですよ。常日頃、私がディスペンサーに立って得意先のガス車の運転手さんに愛想よくしているから、毎日給油しにきてもらえるんじゃないですか。こんな努力は全然評価されないんですよ。本社は営業利益を高めろとうるさくいうばかりです。
営業利益といったって、私たちの業界ではね、ガスの仕入れをこちらでコントロールすることって無理なんですよ。本社がきちんと元売りと交渉してくれないとね。それに相場ってもんがあります。元売りが値を上げてきたら仕方ないのです、だってガスを調達できる元売りは限定されていますから、変えるわけにもいかないし。だから営業利益なんて私たちの努力に関係なく動くんですよ。知ったことじゃないっていう感じですね。
それにいつも評価は恣意的なんです。結局のところ、本社の店舗統括部の偉い方たちによく思っていただかないといけないのですかね。

これだけ聞くと、会社と社員双方の言い分には、随分と開きがあるように見えます。

実際に企業の人材マネジメントをコンサルティングしてみても、「会社と社員が望んでいることは、相反するもの」と信じ込んでいる組織が多いものです。

ですから、「会社は、いかに社員のわがままをねじ伏せ、いうことを聞かせるか」にエネルギーを費やし、社員は「いかに現状の大変さを強調し、働く者の権利を会社に主張していくか」といったことを考える“対立的な構造”をとることになります。

A社の事例では、下図のような3つの対立構造が読み取れます。



実際に社員の不満を表明するか、心の内にしまうかは別として、現場では社員が不満をもつケースがのほうが多いですから、会社は「いかにその不満を抑えるか」を考え、雇用者としての力の論理を使って“会社の望み”を押し通そうとします。

その結果、たいていの場合、社員はシラケてしまっています。表面的にはしたがっている風に装っても、しょせんは“不満”を内在させているため、何かしらの形で抵抗してくることになるのです。

会社と社員の期待の共通項とは?

私たちは、多くのコンサルティング事例を通して、「会社と社員のお互いの期待は相反する」というのは、双方の固定概念であることが多いのではないかと考えています。

それが私たちの仮説どおり、固定概念であるとしたら、なぜ生じるのでしょうか?次の2つの原因が考えられます。

会社と社員の期待が相反する原因

①対峙する双方の言い分を止揚する知恵不足。
②長い時間かけて、お互いの魅力が感じあえる関係を築き上げようとする努力不足。

たとえば、A社で見られた3つの“対立構造”ですが、次のような整理をしてみると、どうなるでしょう?

A社における会社と社員の共通項

(Ⅰ)「社員も責任者としての力をつけたいと考えている」点に注目する
問題は「責任者としての力とは何か」が明確でない点です。
会社が「営業所の所長に期待する役割を明確にし、その役割遂行のためにどのようなマネジメント・スキルが必要であるか」を示さなくてはなりません。そして、現状のマネジャーたちのマネジメント・スキルを評価してみればよいのです。そうすれば、期待と現状のギャップが浮き彫りになります。
そのギャップの能力開発を会社が支援するとしたら、どうでしょう?社員は「ただ単に長くその会社にいるから」ということで形成された威厳にだけに頼るのではなく、きちんとしたスキルを身につけた所長になることができます。
また、会社が長い目で期待する責任者に変化していくことを見守り、そのようなキャリアを形成する支援を継続していきます。
その会社の姿勢を、社員は“魅力”に感じるはずです。「自分が一層成長することを、会社は見ていてくれる」というのは、何よりの動機づけです。
会社にとっても、この社員の成長は本来期待するところのものだったはずです。
(Ⅱ)「社員も自分の店だったら、死に物狂いで働くといっている」点に注目する。
社員は「給油所が自分の店だったらと思うときがあり、その場合なら死に物狂いで働く」といっています。
実際には、普段からマネジャーとアルバイト数名で切り盛りしていて、彼自身がその給油所の責任者なのです。
それなのに、「オーナー感覚がもてない」ことが問題なのです。会社は、思い切って権限委譲したらどうでしょうか。
本社の店舗統括部の管理者は、いったいどんなマネジメントをしているのでしょうか。「真実は現場にあり」といいます。業務の見直しを行って、とにかくマネジャーに店のことを任せてみたらどうでしょうか。
それには、マネジャーがマネジメントするに必要な道具や武器をもたせてみる必要があるでしょう。また、会社が長い目で期待するオーナー感覚をもったマネジャーに変化していくことを見守り、そのような働き甲斐を促進するサポートを行います。
その会社の姿勢が、社員に一層勇気を与えるでしょう。「自分が確実に自律することを会社は支援してくれる」というのは、何よりの動機づけです。
会社にとっても、社員が自律的に仕事に取り組んでくれることは、本来期待するところのものだったはずです。
(Ⅲ)「社員も評価と処遇はきちんとしてもらいたいと願っている」点に注目する。
問題は「評価と処遇が公正ではなく恣意的であり、努力しているところにスポットライトがあたらず、不透明な取り扱いを受けている」と感じているところです。
つまり、きちんとした公式のルールにもとづいた評価・処遇制度がないことが、問題なわけです。
会社が成果や実力にもとづいた人事制度を整えるだけでなく、貢献を管理していく組織風土に変わっていくことを長期の視野で見守り、その整備を行います。
その会社の姿勢が、社員には一層公正さを感じさせ納得感を与えるでしょう。誰もが公正に評価され処遇されるというのは何よりの動機づけです。
会社にとっても、このような人事制度と組織風土を整備することで、社員の貢献を明確にし、それに応じて処遇していけることは本来期待するところのものだったはずです。

このように整理してA社の事例を見ていくと、見えないものが見えてきます。

お互いの期待には“共通項”があるのです。つまり、「会社にも社員にも、同じ想いが内在している」といえます。それならば、会社と社員の期待を一致させるのも、まったく不可能ではないはずです。

※この内容は2003年に書かれたものです。

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