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3章 「ワーク・モチベーション」のメカニズムを知る⑦

クレイア・コンサルティング 2018.2.20

欲求の階層性を明らかにした「欲求段階説」

1950年代に入り、モチベーション理論は次にあげる2人の学者によって、さらに発展していくことになります。

《欲求段階説を提唱した2人の学者》

①マズロー
人間の行動を科学的に分析し、その行動の源となっている欲求が5段階に階層化されていることを発見しました。

②アルダーハー
マズローが提唱した欲求5段階モデルを修正し、階層化のレベルを3段階とする説を唱えました。

では、詳しく見ていきましょう。

①マズロー

マズローは、人間の欲求には5段階の階層があるとして、「欲求5段階説」を唱えました。下位の欲求が満たされると、その欲求に対する興味が薄れ、次は上意の欲求が支配的になっていくと考えました。

5段階の欲求

(a)生理的欲求(第一段階)
生理的欲求は、「空気、水、食べ物、睡眠、性」などに対する欲求で、生命そのものの維持に関わっているため、この欲求が充足されるまでは、欲求の中ではもっとも強いものとなります。この欲求は、“生命維持本能”に基づく行動の源で、この基本的欲求の充足が人体の正常稼働にいたるまでは、人間活動の大部分が生理的欲求の充足に費やされます。

(b)安全・安定欲求(第二段階)
ひとたび生理的欲求が満たされると、もうそれ以上は、食べ物や睡眠を求めようとはせず、「安全な状況を求め、不確実な状況を回避しようとする欲求」が台頭してきます。この欲求は、肉体的危険や生理的欲求阻止から身を守ろうとするものです。人間には、当面の問題とは別に、将来に対する不安があります。もし、財産を維持することが困難であったり、雇用が不安定な状況で、明日以降の生活が不安にさらされていたら、「財産の保全や雇用の安定を求めること」が意識の大部分を占めるでしょう。

(c)社会的欲求(第三段階)
安全・安定的な状況が確保されると、次は、「集団への帰属、友情や愛情に対する欲求」が支配的になってきます。人間は、「国家や地域、会社や家族、あるいは趣味の活動」など、いろいろな集団に所属しています。このとき、通常の人間は「所属する集団に受け入れられたい」という親和的な欲求をもちます。この社会的欲求が支配的になると、「その集団に帰属し、その中の人と友情を築き、また愛情も育もう」と努力するようになります。

(d)自我・自尊の欲求(第四段階)
最初のうちは、単に集団に帰属しているだけで満足していますが、徐々に「自己の価値の認知(自身および周囲)に対する欲求」が支配的になってきます。その集団の中で「一目置かれる存在、尊敬によって周囲の注目を集める存在になりたい」と感じるのです。このような「他人の承認と尊厳という社会的評価を求める欲求」が、自我・自尊の欲求です。ただ、集団の認知は“建設的行動”だけでなく、“破壊的行動”や“無責任な行動”によって集まることもあります。社会的に未熟な人間が世間の目を引くような大きな罪を犯したりするのは、自我・自尊の欲求の挫折からもたらされた一つの例でしょう。

(e)自己実現の欲求(第五段階)
自我・自尊の欲求が建設的に充足されると、欲求の階段の最上位である「自己の成長や発展、自己の潜在可能性の実現に対する欲求」にいたります。自己実現の場は、経営・政治・スポーツ・芸能・ボランティアなど、人によってさまざまです。

これまで述べてきた欲求の段階は、あくまで普通の場合の“典型的段階”にすぎず、常にこのような形に当てはまるわけではありません。

たとえば、オランダの画家ゴッホは、その短く劇的な生涯において、数々の感動的な作品を描きあげましたが、生前ゴッホの才能を理解した者はほとんどおらず、生前に売れたのは1点のみでした。

それでも、意欲を失わずに絵を描き続けたのは、自己実現の欲求がゴッホを突き動かしていたからでしょう。

あるいは、インドのガンジーは、何週間も断食を続けて政府の不正に対抗しました。最下位の欲求さえ満たせていない中で、ガンジーを支えていたのは、自己実現の欲求だったといえるでしょう。

②アルダーハー

アルダーハーは、マズローの5段階の欲求階層を3段階に再編し、各階層名の頭文字をとって「ERG説」としました。この説では、人間の欲求を、低次から順に次のように階層化しています。

3段階の欲求

(a)Existence(生存欲求)
マズローの「第一段階/生理的欲求」と「第二段階/安全・安定欲求(物質面)」に相当する欲求であり、日常生活を営むために最低限必要な欲求です。

(b)Relatedness(関係欲求)
マズローの「第二段階/安全・安定欲求(対人面)」や「第三段階/社会的欲求」、そして「第四段階/自我・自尊の欲求(対人面)」に相当する欲求であり、上司や同僚の他、家族や友人など、その人を取り巻く他者との関係に関する欲求です。

(c)Growth(成長欲求)
マズローの「第四欲求/自我・自尊の欲求(自尊面)」と「第五段階/自己実現の欲求」に相当し、個人の成長に関わる欲求といえます。

欲求の階層性に着目した点はマズローの「欲求5段階説」と同様ですが、アルダーハーは、「3つの欲求が同時に存在することもありえる」、「高次の欲求が満たされない状況では、低次の欲求が強まる」とも考えました。

マズローとアルダーハ―の欲求階層理論の関係

たとえば、出る杭を打つような風土のために、「(高次の)成長欲求」が充足されない状況が長く続くと、職場の同僚との「関係欲求」が併存しはじめ、ついには「関係欲求」のほうが強くなるということは、いまの日本の多くの会社で見られる現象でしょう。

また、「ERG説」の欲求の3分類は、以前紹介した「モチベーション因子」の分類の原型ともいえるでしょう。すなわち、生存欲求と経済性因子、関係欲求と人間関係因子、成長欲求と自己実現因子が対応しているわけです。

動機づけ要因の分類に注目した「意欲要因‐環境要因論」

1959年、ハーズバーグによって、動機づけの要因に関する理論として、「意欲要因‐環境要因論」が展開されました。この理論は、マネジメントと人的資源の有効活用に幅広い示唆をもたらすことになりました。

当初、ハーズバーグは、人間行動に関する仮説を構築しようとしました。そのために、約200人のエンジニアや経理担当者に対して、「仕事上どんなことを不幸と感じ、また不満に思ったか」「どんなことによって幸福や満足を感じたか」という質問を行いました。

この面接のデータを分析した結果、人を動機づける要因は、次の2つに分類できることがわかりました。

《動機づけ要因》

①環境要因(Hygiene Factors)
人間が仕事に不満を感じているときに、作業環境に向けて働く要因です。

たとえば、会社の経営政策・管理施策・監督のあり方・作業条件・対人関係・金銭・身分・安全などがあげられます。

これらは仕事自体に備わる要因ではなく、仕事を遂行するうえでの環境や条件です。環境要因は、労働者の生産能力を高める要因ではなく、「作業場の拘束からくるロスを予防する働き」をもつにすぎません。

なお、この要因は、「衛生的(Hygiene)要因」、または「維持的(Maintenance)要因」とも呼ばれます。「衛生的」と呼ぶのは、この欲求が作業環境に関係し、主として「仕事の不満を予防する働き」をもつからです。一方、「維持的」と呼ぶのは、この欲求が100%充足されることはありえず、絶えず維持されねばならないからです。

②意欲要因(Motivators)
仕事に満足しているときに、物事そのものに対して働く要因です。

たとえば、物事の達成や専門的成長にともなう喜び・やりがいのある仕事を通じて感じる充実感・達成および達成を認められること・チャレンジングな仕事・責任の増大などがあげられます。

これらは、人間を優れた仕事振りへ動機づけるうえで有効な要因です。

また、この両者はお互いに補完しあう“表と裏の関係”でも、“相互に対立する要因”でもありません。満足の反対は不満ではなく、「満足ではない状態」なのです。同様に、不満の反対は「不満でない状態」なのです(下図参照)。

ハーズバーグによる意欲要因と環境要因の関係

要するに、「いくら環境要因を改善して不満足が減っても、満足を生み出す効果はほとんどない」といえます。

環境要因は人間にとって“当たり前”と感じられるもので、「満たされていて当然」をいう要因です。また、意欲要因をいくら満たしても、環境要因が満たされていない状態では不満が出ます。

「環境要因と意欲要因の関係」について、例をあげて説明します。

《上司の交代にともなう環境要因の変化》

仮に、環境要因と意欲要因の両方が良好な状態にある社員がいたとしましょう。

彼は、やりがいのある仕事を通じて大いに動機づけられ、能力をフルに発揮しています。また、彼は給与や労働条件にも充分に満足し、上司との関係もうまくいっており、かつ気心の通い合った職場グループの一員として収まっています。

ところがある日、突然、上司が気難しい上司と交代し、非常に独裁的な管理体制になったとしましょう。または、何の理由も告げられず突然、給与がさがってしまったとしましょう。

つまり、彼にとって、やりがいのある仕事内容(意欲要因)は変わらないものの、非常に不満足な管理体制または就業条件になってしまい、環境要因が悪化してしまったのです。

こうした要因の変化は、当人の行動にどう影響するのでしょう?

人の仕事振りや生産性は、“能力”と“意欲”の両方に影響されます。意識的か否かにかかわらず、環境要因の悪化は彼の生産性を低下させてしまうでしょう。

昨今、多くの企業において、成果主義導入にともない、給与のインセンティブ性向上が図られています。一般的には、お金は“動機づけ要因”のように考えられています。

ところが、この「意欲要因‐環境要因論」にしたがえば、一定レベル以上になると、給与をいくらあげたところで動機づけにはあまり役に立たないことがわかります。

これは、日常の場面を考えてみると、もっと納得できるかもしれません。

たとえば、世間体には高い水準の給与をもらっていたとしても、隣の人がもう少し高い給料をもらっているのを見て、不満をもったりすることもあるでしょう。

あるいは、給料が上がった瞬間は満足していても、すぐにそれを忘れて、今度はそのあがった給料を基準にして、不満をもちはじめたりします。

この例からわかるとおり、「環境要因が充足されると、不満は解消されます」が、仕事振りの改善や能力向上についての動機づけにはあまり有効ではありません。しかし、意欲要因に応えると、自律的成長や向上が促進され、能力伸長につながることが多いのです。

また、「意欲要因‐環境要因論」は、「3つのモチベーション因子」の性質に関する結論の実証的背景といえるでしょう。

つまり、やる気を直接的に呼び起こす自己実現因子が意欲要因に該当し、環境形成的な役割を果たす経済性因子および人間関係因子が環境要因に該当しているわけです。

人間観にもとづく理論を発展した「X理論‐Y理論」

1969年、マグレガーは、マズローの欲求階層説をもとに「X理論‐Y理論」という理論を構築しました。

「X理論」と「Y理論」は、それぞれ次のような考え方です。

《X理論‐Y理論の特徴》

①X理論
性悪説」にもとづく人間観で、人間は元来怠惰であるとする行動モデルです。

②Y理論
性善説」にもとづく人間観で、人間は基本的に自律的、かつ創造的に仕事をするとする行動モデルです。

では、それぞれの理論を詳しく見ていきましょう。

①X理論

この理論では、多くの人間が次のような考え方をもっているとしています。

《性悪説にもとづく人間観》

  • もともと働くことが嫌いである。
  • 進んで責任をとったりしない。
  • 問題を解決する創造力がない。
  • 動機づけの主因は本能的な欲求である。
  • 強要されなければ目標を達成しようとしない。

X理論に立つ管理者は、部下を規律と懲罰によって統制し、仕事を厳格に管理します。なぜなら、部下が進んで責任を取り、自らの目標を達成しようとして懸命に働くとは考えていないからです。

X理論にもとづき権威主義と中央統制が支配する組織においては、主体的な人々は仕事以外のフィールドに「自我・自尊の欲求」や「自己実現の欲求」を満たす場を求め、仕事を“必要悪”と考えるようになります。

また、管理過多に慣れてしまったほとんどの人は、他律的な行動規範が身につき、仕事を“チャレンジと満足の源”とは考えなくなってしまいます。

②Y理論

この理論では、多くの人間が次のような考え方をもっているとしています。

《性善説にもとづく人間観》

  • 遊びと同様に働くことが好きである。
  • 進んで責任を取ろうとする。
  • 比較的高度な創造力・創意工夫を凝らす能力を備えている。
  • 自我・自尊の欲求や自己実現の欲求も動機づけになる。
  • 自律的に目標達成に向けて働く。

Y理論に立つ管理者は、元来、部下には主体的に目標達成に向けて、創意工夫し、目標達成に向けて邁進する意欲や能力があると考えます。したがって、部下の自律性を損なわないように、うまく部下のやる気を刺激します。

このようなY理論にもとづく管理者の下では、自由闊達でチャレンジングな企業風土が生じます。Y理論に基づく組織では、社員たちが信頼関係によって団結しているため、集団の生産性が高いレベルで維持されます。その結果、仕事上で大きな達成感・満足感が得られ、その結果、さらにチームの結束が固まります。

管理者が支持すべきは、Y理論にもとづく人間観のほうが望ましいといえます。

ところが、一昔前の多くの会社では、「管理職の仕事は部下を管理すること」と考えられていました。まさにX理論にもとづいた権威主義的な管理が行われていたわけです。

ただし、このような管理体制にも、近年の成果主義へのしょう潮流にともない変化が生まれつつあります。

たとえば、自律的に自己の目標を管理する「目標管理制度」、自己のキャリアプランやライフプランの実現に有効な「FA制度」や「公募制」など、Y理論が想定した人間にとっては、モチベーションを喚起しやすい体制へと移行しているのです。

※この内容は2003年に書かれたものです。

性善説と性悪説
性善説とは、人間は善を行うべき道徳的本性を先天的に具有しており、悪の行為はその本性を汚損、隠蔽することから起こるとする説。正統的儒学の人間観。孟子の首唱。また、性悪説とは、人間の本性を利己的欲望とみて、善の行為は後天的習得によってのみ可能とする説。孟子の性善説に対立して荀子が首唱。(大辞林・第二版/三省堂より)
他律的な行動規範
他律とは、自分の行動を他人の支配や助力によって規制すること。細部に渡り入念に管理する上司のもとでは、自分自身で規範を立てたりすることができず、またそうする必要もないため、他律的な行動規範が身につきやすい。
目標管理制度
『「やる気」の構造 ~これがモチベーションを高める組織だ!~ - 2章 日米の「人事制度」を再点検する⑤』の「MBO」を参照。
FA制度
他部署への異動を希望する社員が、自ら直接、異動希望先の上長に対して申し出を行える制度のことである。プロ野球のFA(フリーエージェント)制度と同様のシステムであり、FA宣言する社員は、希望業務・職歴・得意分野などを公表し、採用希望の部署と交渉する。交渉が成立すれば、異動時期に関係なく直ぐに移動が行われる。魅力のない部署からは社員がどんどん流出し、また、社員に採用希望の声が掛からなければ異動は成立しない。近年は、イントラネットなど社内ネットワークの設備が進み、制度が運用しやすい環境になりつつある。
公募制
ある特定のプロジェクト・事業のための要員や一般に欠員が生じた場合の補充の募集源を社内の自由公募に求め、通常、本人の上司を経由しないで応募ができる制度をいう。(厚生労働省の定義より)FA制度/公募制とも、市場原理と自己責任の原則を社内に導入して、人材流動化を進める制度であり、社内の人材活性化が期待できる。

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