事例

導入支援を重視した人事制度統合

  • 出自が異なり、人事処遇制度も大きく異なる3社の経営・人事統合
  • 3社の分析から現場の管理職の意識統合まで、人事面の統合を総合的にサポート
  • 人件費上昇を回避しつつ、法的リスクとモチベーションリスクを最小に
  • 一部給付減額を含む年金統合を、合併1年以内で迅速に完了




クライアントプロフィール

業種
大手商社L社傘下の販売会社3社(M社、N社、O社、統合後の呼称はP社)
従業員数
統合後約1,000人
期間
現状分析3ヶ月、人事制度構築6ヶ月、導入支援6ヶ月、計1年3ヶ月

プロジェクト開始の背景

プロジェクトの背景を教えてください。

大手商社L社の傘下にあった関係会社3社の経営統合にともなう、人事統合を含んだ人事制度構築と導入支援の事例です。

3社はほぼ同一製品を取り扱う販売会社でしたが、その出自には大きな違いがあり、M社はL社の当該分野における事業戦略に基づき数年前に自社の事業が分社化されて誕生。N社はM社と競合関係にあった他社の子会社を買収し、その後関係会社数社をさらに統合。そしてO社は近年買収した先進気鋭の企業です。

L社の経営課題としては、類似の製品を販売しているにも関わらず、担当エリアが3社それぞれで分散あるいは重複していること、管理部門等の類似組織が3社に存在していること、そして関係会社管理における管理負荷が大きな問題となっていました。

そこで、当該製品の販売エリアの整理・拡大と、重複機能の削減によるコストダウン、L社のガバナンスの簡易化・効率化を目的として、3社を統合することに至りました。

当初どのような課題が想定されていたのでしょうか。

P社を形成している元の子会社3社は、それぞれの出自が異なり、かつN社のように既にいくつかの会社の統合によって生まれた会社もあったため、それぞれの人事制度は全く整合が取れていませんでした。

特に福利厚生や退職金・年金を含めた報酬制度について、3社それぞれの処遇の内容とレベルが大きく乖離していたため、制度を統合する過程で不利益変更が発生する可能性も大きく想定されていました。

また、今後さらに事業を拡大していくにあたり、外部から人材を大量に採用していくことが想定されたため、競合他社と比べても採用競争力の高い報酬制度を整備し、メリハリある処遇を実現する必要がありました。

加えて、度重なる統合による疲れもあり、「また統合なのか」「今度はどうなるんだ」と不安に思う社員も多く存在していました。優秀層の離脱を防ぎながら、従業員のやりがいを高めるためには、確実に社員の納得を得られるような、高い精度の人事制度設計を行う必要がありましたし、導入の際も手厚く丁寧に説明を加えることによって、着実な制度の定着を図り、社員が離脱しないように目を配る必要もありました。

幸いなことに、経営陣からは過去の経緯を踏まえリスクを最小化しつつも、ゼロベースで新しい人事制度を作っていこうという方針が出されたため、様々な検討を行いながら、統合後のP社に最適にフィットする人事制度を設計・導入するべく、プロジェクトを進めていきました。

人事の統合はとても複雑という印象があります。どのような形でプロジェクトがスタートしたのでしょうか。

統合プロジェクトはその特性として、スタート当初は社内でも極秘プロジェクトとして運営され、情報管理が徹底的になされます。

我々がプロジェクトに参加したのは、組織を統合するという方針だけが決定した段階で、各社内でも秘密裏に話が進められており、統合の具体的な方法について全く決まっていない状態でした。他の財務や情報システムの統合についても別チームで検討が進む中、人事の統合が最大の懸案と目されていたため、クライアント側でもかなり早い段階でコンサルタントを使うという意思決定がなされたようです。

今回のケースのように、初期フェーズは統合のリスクと是非を人事の観点から検証していくことが多く、その際は人事統合ありきではなく、統合可否の判断という最上流工程から関与していきます。つまり、分析の結果、人事は統合しないという判断を出すケースもあるのです。

最初の現状比較と統合リスクの分析において、統合自体が実現可能であるという判断がなされ、そこで本格的に統合作業がスタートしたというのが実際の流れでした。


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プロジェクトの内容

1.3社の現状比較と統合リスク分析

初めに、P社の土台となる3社の課題を洗い出すために、3社の人事データを細かく検証し、定期的にミーティングを行いながら、現状の仕組みと運用実態を確認しました。

分析の対象は「人員構成」「人材像・評価基準」「報酬水準(給与・賞与)」「退職給付制度」「就業条件」「人事の運用」の6つの観点で実施し、それぞれ「各社の差異」と「統合した場合のシミュレーション(統合したらどんな問題が起こるか)」を検証していきます。

人員構成分析

まず人員構成分析では、縦軸に年齢、横軸に等級をとり、全体の年齢分布に加えて、昇格スピードと昇格運用の厳格さを比較し、年功序列の度合いなどを見ていきます。

その結果、各社の全体的な年齢構成については大きな差異は見られませんでした。しかし、M社とN社は等級と年齢に相関関係が見られたのに対し、O社は若い管理職を抜擢している一方で、低い等級にとどまっている高齢社員も存在していました。

この結果から、M社とN社は年功的人事運用の傾向が強く、O社は実力主義的人事運用の傾向が強いことが推察されます。この傾向は人事運用の検討の際に詳細に検証していくことになります。



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人材像・評価基準の分析

ここでは評価体系と評価項目を比較し、評価対象に違いがないか、違いがある場合には、その背景にはどのような考え方の違いがあるのかを把握していきます。

3社の評価体系を比較すると、どの企業も「目標管理によるパフォーマンス評価」と「能力評価」という2つの体系で構成されており、「能力評価」項目の比較においても特徴的な差異は見られませんでした。

一方で「目標管理によるパフォーマンス評価」の中身を精査すると、M社とN社においては主に定性的な目標が設定され、下位等級においては自己啓発目標が目立っていたのに対し、O社は全ての等級で定量的な目標が中心であり、個人目標と部門計画との連動性も確認されました。

「目標管理によるパフォーマンス評価」の考え方について、M社・N社とO社では、その思想が大きく異なることがわかりました。

報酬分析

3社の人事統合を行うにあたって、もっとも障害になると思われたのが報酬と退職金・年金の部分であり、この部分は特に手厚く分析を行いました。

報酬については、3社の給与データの分析を行います。月例給、賞与、年収のそれぞれについて、等級別に制度上の上限額と下限額を確認し、更に実在者のデータを一つの表にプロットとして比較をします。

その上で制度上の上限額・下限額の差異に加えて、制度の範囲内で運用されているか、もし制度外の運用がなされている場合にはその理由を確認し、実態を明らかにしていきます。

分析の結果、M社とN社は等級毎のレンジが比較的狭く、O社は等級毎のレンジが広い上に報酬水準も相対的に高いことが明確になりました。

M社とN社は年功的に昇格していく可能性が高いため、狭い報酬レンジでも運用が可能でしたが、O社は実力主義の昇格運用を行っており、同一等級に在籍し続ける社員が多く存在したため、昇給余地を確保するために報酬レンジを大きくしているものと想定されました。

このまま単純に報酬テーブルを統合すると、M社とN社の人件費が大幅に上昇するか、O社の社員のモチベーションが大幅にダウンすることが危惧されます。

ここではM社とN社の社員のうち、本当に実力が高い社員の報酬のみを引き上げ、O社の中でも生産性の低い社員はM社やN社の水準に引き下げていくことが必要との認識を共有しました。



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退職給付分析

退職給付制度(退職金・年金)の分析においては、まず、企業年金制度の有無と体系とを比較しました。

企業年金制度は組織統合に合わせて統一しなければならないため、年金制度の体系が異なる場合、新会社であるP社の年金体系に合わせて年金資産を移管・統合できるかを確認する必要があります。

年金資産を移管できない場合には資産を分配しなければならないので、退職給付水準については、昇格モデルに沿って、モデルとなる退職金カーブを各社間で比較します。

年金制度については、3社とも確定給付年金と確定拠出年金の2本立てとなっており、年金資産の統合は可能な状況でした。一方で、退職給付水準については各社の水準が大きく乖離していました。

下図では、実線が各社の分析時点における退職金の水準、点線が導き出したあるべき平均モデルを表しています。


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そこから下図のように平均モデルを取った場合の現在の各社のモデルとの増減を比較し、調整の方法を検討しました。



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就業条件の分析

就業条件と福利厚生の分析においては、就業規則と福利厚生関連規程の条文を比較し、各社の定める項目と内容の差異を整理するとともに、世間水準との比較も行います。

分析の結果、これまでの度重なる各社の統合において条件が付加されたために、意図が明確でないものが多く、十分な整理を行っていく必要があることが確認できました。

また、M社とN社は過去の統合時の存続会社の条件を引き継いでおり、それぞれの条件設定の意図が不明確な一方、O社は世間水準に設定していることが明らかになりました。


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人事運用の分析

人事運用の分析では、処遇(昇格、昇給、賞与等)の決定を左右する人事評価の評価傾向を分析し、人事運用に対する考え方や評価能力の違いを把握します。

3社の評価の実態を比較すると、M社とN社の2社はそれほど評価に差を付けておらず甘めの評価がなされている一方、O社では低い評価もつける厳しい運用を行っている事態が判明しました。

従って、新会社においては、評価基準の一層の明確化と徹底した評価者へのトレーニングが必要となることが確認されました。

ここでは例として賞与を比較することで評価精度の差を見ています。M社とN社が甘めの評価を行っている一方、O社が標準評価を多めにしつつ、低い評価もつけて厳格な評価を行っていることが読み取れます。


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この評価の分析においては、先の評価の甘辛の差が改めて実証されると同時に、現在の3社の等級が必ずしも実際の実力を示しているとは言えない実態が明らかになりました。

下図ではM社とN社の各等級内の評価の分布を見ています。高い評価をつけられた人が多く、アンバランスな構成となっていることがわかります。


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下図では各社の能力・行動と業績の評価の基準を見ており、基準が明確に設定されていない会社が多く、評価調整の方法も異なっています。



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2. 人事統合シナリオの設計

3社の現状を比較し、統合時のリスクを分析した結果を基に、処遇や等級、年金、意識統合等の方法について、複数のシナリオを検討しながら、最適な統合シナリオを選択、詳細化していきます。

まず、人員体制(人員数と等級別人員数)と総人件費の観点から、人事統合後のあるべき姿を設定します。そして、あるべき姿を実現する上で発生するリスクを想定しながら、段階的に人事処遇を変更していくためのステップを検討します。

具体的には、まず最も実行上リスクの少ない統合方法を採用した場合にどのような事態が発生するかを想定しました。その場合、確実に人件費が増加し、人員構成も歪むことが想定されたため、どの程度まで人員構成と人件費と修正していくべきか、複数のゴールを想定し、そのゴールに至るまでのステップを策定、効果とリスクを比較検討しました。

今回のケースでは、総人員数を削減する必要性は高くなかったものの、このまま統合すると管理職層が過大になることが明らかであり、1人あたりの人件費と総額人件費がともに上昇することが見込まれました。

そこで、人件費シミュレーションを繰り返しながら、現管理職層を中心とした格付けの見直しや役職任用の適正化を行い、「厳選された管理職層については報酬水準を高めに維持」、「その結果として人件費総額は旧3社の合計額の範囲内とする」、という基本方針を策定しました。

管理職層の格付けの見直しによって、管理職層として適格ではない人材が浮き彫りになり、処遇維持とモチベーション維持が困難と想定されることから、転身支援制度を整備して本人同意のもとで転身の支援を行っていくことも検討しました。

転身によって低減する人件費部分は、人員増ではなく組織に残る社員に分配して1人当り人件費を増加させ、モチベーション向上を図ることとしました。人員削減が最終目的ではないため、転身支援制度の適用人数に目標値などは設けていません。

そして、上記の方針を統合後3年以内に実現するために、以下のようなステップを設定しました。

1年目は新人事制度を導入し、新基準での評価運用を開始します。上位等級の1年目は暫定とし、1年間の評価と人材アセスメントによって、上位等級の見直しを行っていきます。1年目の処遇は新給与体系に移行するものの、調整給等により支給額は現行維持であり、賞与支給月数についても若干の格差があったもののほぼ現行維持になることを想定しています。

2年目は、上位等級の見直しを行い、役職任用を適正化します。処遇は新給与体系に完全移行して調整給の減額を開始し、賞与支給月数についての格差の縮小も図ります。また、新評価制度の定着に合わせて、賞与のメリハリも拡大していきます。このタイミングで転身支援制度も施行開始します。

そして3年目は、賞与支給月数を旧3社間で完全に統合します。下位等級での昇格も新基準によって行うことで、新評価制度によるメリハリをさらに拡大します。調整給は3年目を最終支給年とし、3年目末をもって新人事制度に完全移行となるよう設計しました。



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3.人事制度のグランドデザイン

現状比較と統合リスク分析を経て設計した人事統合シナリオを踏まえ、人事制度の大枠のロジックを規定するステージに入っていきます。

人事統合時の人事制度構築において、まず始めに検討するのは「人材フロー」です。旧3社間の人事交流をどう進めていくのか、人材の新陳代謝をどう行っていくか、この2つのポイントが最も重要です。

人材フローについては、人材の流れを適切にコントロールしていくために「求める人材像」をまず定義します。本事例では3社を統合するにあたり、新会社での業務を確実に推進させることと、その後の育成の道筋を付けることを念頭に、4つの職種に分類を行いました。

その後、その職種ごとに、「等級、報酬、評価」の各制度を連携させていきます。下図では等級と評価、報酬の各制度の整合性がとられ、人事制度の全体像が大まかに規定されています。


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評価基準など、求める人材像とその評価の仕方等を規定した後に、求める人材を育てていくための「人材育成の仕組み」について、道筋を考えていきます。

下図では人材育成の体系を大きく研修と自己啓発支援に分け、研修については新入社員研修、昇格者研修等の研修体系を設計しています。


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一方、人材の新陳代謝をどう進めていくかについては、採用などのインフローや人員の整理といったアウトフロー施策の検討も重要になります。組織を統合する際には機能の重複を無くす過程でどうしても人員の余剰が発生する可能性が高く、その事態を見越してあらかじめ対策を検討しておく必要があるからです。

本プロジェクトにおいては、統合後の変化についてこられない社員が発生した場合に備えて、下図のような転身支援制度を整備しました。


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4.等級・評価・報酬(給与・賞与)制度の統合

グランドデザインが完成したら、次に各制度の詳細を具体化していきます。

等級制度

本プロジェクトでは、組織統合をスムーズに進めつつも高い能力を持ったスタッフ人材を育成・確保していくことが重要であったため、資格等級をメインとすることにしました。

複数の組織を一つの組織に統合していく場合、必然的にポストが減少し、現在のポストを手放さざるを得ない従業員が出てきます。

ポストを等級と一致させず、あくまで能力で格付けをすることで、統合後の混乱をソフトランディングさせることができます。また、能力を伸ばせばより上位の等級へと昇格していく道を維持・拡大することにより、今後の人材開発や採用を円滑に進めることも可能となります。

新会社における今後の社員数と売上規模の拡大を鑑み、役割の大きさによって処遇を変えていく役割等級も合わせて設定することにしました。各社で異なっていた職種を4つの職種に分類し直し、それぞれの役割を規定、さらに、育成段階と自立段階とに区分することで、人材育成のフェーズを明確にしました。



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続いて等級の数と各等級における要件を規定していきます。

下図のように、今後の会社規模の拡大と、想定される組織階層の数を踏まえ、管理職層、非管理職層ともに3つの等級を設けました。専門職は習熟の度合いや成果責任の大きさを勘案しつつ、マネジメント職と異なり最終的に1段階とし、管理職層はそれぞれ課長クラス、部長クラス、本部長クラスに該当することを想定しています。

また役割評価を行うために、役割等級の設定も行いました。要件定義では各職種の違いを文章によって明確にすることで、それぞれの職種/等級の「あるべき姿」を、出身会社を問わず社員全員が理解できるようにしていきます。

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次に、具体的な要件を要件定義書に落としていきます。管理職/非管理職それぞれの等級において、求められる要件について等級間の違いが明確になるまで書き下していきます。


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等級制度を成功させる鍵は、どのように等級を決定するか、その格付けと任用にあります。

複数社を統合する場合、管理職をはじめとした従業員の職務能力のレベルが大きく異なることが一般的です。そのため、格付けのプロセスにおいて、各社のレベル差を客観的な統一基準で明らかにしていくことが重要となります。

一方で、新しい等級への任用は、現場が混乱を来さないよう、段階的に行う必要があります。任用については公正な仕組みと、従業員感情に配慮した移行シナリオの双方の視点から検討することが求められます。

本プロジェクトでは、3社間の現在の等級にも大きな差異があったため、新制度での評価と人材アセスメントでの評価の2つを活用し、より厳密な格付けを実施することとしました。ただしこの時の等級は「暫定」扱いであり、その後2年をかけて等級の見直しを行うことを想定しました。


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報酬制度

現状3社の体系が著しく異なることを踏まえ、体系はシンプルなものとしつつ、評価に応じて報酬に差が付くメリハリある制度として設計しました。

これは言葉を変えれば、評価によって修正が可能な報酬体系とも言えます。給与はシングルレートではなくブロードバンドとすることで、評価結果によって給与を細かく設定できる体系を採用しました。これは給与差をつけるためではなく、報酬を出来るだけ早く着実に公正な状態に補正していくためのものです。

下図では評価と報酬の関係性を規定しています。資格等級が上がるにつれてプロセス評価よりも成果評価の比重を高めていくことが確認できます。


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給与と賞与で構成される報酬は、仕事の価値と貢献度を反映しやすくするために、必要最低限の体系としました。調整給は月例給が減額となる場合にのみ支給されることを想定しています。


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具体的な昇給の方法については、社員のモチベーションを高めることを念頭に、着実な努力の積み重ねを昇給に反映させるとともに、個人の貢献が確実に賞与に反映されるように設計を行いました。また、上位者になるほど昇給要件を厳しく、減給もありうる設定とし、より緊張感を持たせる仕組みとしました。

このように、社員の貢献度合いによって昇給あるいは降給を行う仕組みを一般にメリット給と言いますが、この仕組みの狙いは報酬水準の是正を行いやすくすることにあります。相対的に見て実力が低い社員の給与水準が相対的に高い場合には、評価が大きく好転しない限りほとんど昇給しなくなり、場合によっては降給することになります。

下図では昇給(月例給)と賞与のそれぞれについて、成果評価とプロセス評価をどのようなウェイトで見ていくかを規定しています。育成段階では成果よりもプロセスを重視した体系になっています。


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給与テーブルも作成していきます。ここでは各等級の昇給に関する評価に応じて、どれくらい給与が昇降するかを規定しています。


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賞与についても3社間で支給の水準が異なっていました。3社で異なる賞与水準の違いは、段階的に調整していきます。具体的には賞与のポイントテーブルを最初は3社個別で設計し、3年間をかけて統一のポイントテーブルに統合していく方法を選択しました。

本来であればもっと早期に統合を行いたいのが本音ではあるのですが、賞与は各社の収益状況に大きく依存します。3社の利益水準が大きく異なっていたこともあり、それに比例する形で設定されていた賞与の水準の乖離は大きく、水準の統一に妥当性を担保させるためにも、早急な統合は見送ることとしました。

その上で、下図のように、賞与の一時金に関するポイントテーブルを設計しました。一時金は役割等級を元にポイントを設定、そのポイントの累積とポイント単価から、最終的な給付額を算出します


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人事制度を改定する場合は、不利益変更の発生を出来るだけ抑えるためにも、調整給等による経過措置を行うことが一般的です。報酬の移行に関して本事例では、下図のように現行の給与・賞与を一切保証しない形から、前年の年収実績の保証、標準年収の保証など、いくつかの保証方法を検討し、そのメリット・デメリットを比較しました。

月例給与を保証する場合は、年収が大幅に減少する社員に対するモチベーションの維持が課題となります。そこで係争リスクが相対的に低く、新会社の評価基準等が浸透しやすい月例給与を保証する案を推奨、調整措置期間も複数オプションの中から最適と思われる次年度以降の給与引き下げプランを選択し、スケジュール化していきました。


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調整措置は、対象とともに期間を規定する必要があります。下図では社員の生活の激変を緩和することを念頭に、次年度以降の給与引き下げを推奨しています。右上の図で言えば、Aさんが調整の対象となり、新等級の上限まで調整が続くことになります。


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評価制度

日常業務による成果を会社の成果へと収斂させられるように、統合新会社であるP社の事業戦略と事業計画を、新組織に沿ってブレイクダウンしていくプロセスを統合当初から組み入れました。そして、その経営計画に基づいて、成果評価の評価項目と要件を規定していきました。

下図は新規顧客を主体とする営業部門と既存顧客を主体とする営業部門、間接部門ごとに、どのような成果を各部門の成果として規定すべきか、そのウェイトを検討した結果です。


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あわせて、社員一人一人が新会社の目指す方向に沿いながら、成果を生み出すための行動を取れるよう、プロセス評価の評価項目と基準を策定していきました。プロセス評価においては、各等級においてどのような行動(プロセス)を取るべきか、等級の要件定義を満たす評価基準を一つ一つ策定していきます。


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能力に基づく評価は、最終的には相対評価にならざるを得ません。統合時に能力やプロセスに対する評価を絶対評価で行うと、その評価結果を全社目線で調整していくのは極めて難度が高くなり、その結果最初の段階で評価を誤って高く付けてしまった場合には、その評定を下げられなくなります。

本プロジェクトでは、統合当初は旧3社ごとの組織になっているため、各社内で相対評価による評価が行われます。しかし、旧3社間の人事交流が進んでいくと、次第に各社間の実力差が相対評価によって浮き彫りになっていくことになります。

また、昇格と評価においては、旧3社の社員が統一の基準を使って同じレベルでの判断ができるようにしていく必要があります。

そこで下図のように具体的に、被対象者の行動をどのように捉えていくか、また、評価について評価者が起こしがちなエラーを各社で確認し、実際の評価において活用できるように規定していきました。


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各社間の評価の甘辛については、現状の評価実態の差を参考にしながら、各社の現在の等級と新しい等級とを紐付けるための基準を設定します。


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5.退職給付制度の統合

退職金と年金は本プロジェクトでも大きな課題として存在していましたので詳述します。

まず基本的な考え方を整理していきました。具体的には、今回の3社統合において退職金と年金をどう活用すべきか検討を重ね、(1)優秀層の長期勤続へのインセンティブ、(2)安心感の醸成、(3)採用時の訴求力強化、の3点を可能とするものを設計することに合意をしました。

その上で、現行の水準や外部水準、報酬とのバランスに加え、優秀層と下位層との差異や生計費比較などを行い、その結果として現行取りうるオプションについて整理、シミュレーションによって検証をした上で、方針を決定しました。

具体的な進め方としては、まず下図にあるような、各社の退職金の水準と、厚労省や専門調査機関の統計、月例給とのバランスなどを参考に、給付水準を探っていきます。


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そして下図のように、年金の標準層、優秀層、下位層それぞれの最終的な推移をシミュレーションし、妥当かどうかを検証していきます。最終的に、年金は確定拠出型年金に統一するとともに、確定拠出型年金は資格等級と役割等級から、一時金は役割等級からそれぞれポイントを設定し、積み立てていく形をとりました。



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移行においては、勤続20年以上かつ57歳未満の社員の拠出額が上限を越えるため、その超過金額を役割ポイントに振り分ける移行方法を策定しました。そして、全社共通で新しい退職金・年金制度に移行した場合に、現行制度での到達水準を大きく上回る、あるいは大きく下回る場合について、それぞれ経過措置を設定しました。


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またシミュレーションの結果、下図のように、2社の一部で経過措置が必要になることが判明しました。


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そこで、経過措置のオプションを検討し、それぞれ新制度において導入される一時金によって増減することに決定しました。下記<経過措置 方針>図における緑の線が現制度、青い線が新制度となり、現制度の到達水準を下回る場合、新制度の到達水準を上回る場合に経過措置が設定されます。下記<経過措置一覧>図のとおり、一部で経過措置が取られます。


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加えて、二つ上の図において水色で示されている新制度の標準層に比べて、50代の社員の水準が高くなることが見込まれました。

既存社員の水準を調整するには確定拠出型年金の減額と一時金の減額の2つの方法が考えられます。下図のようにそれぞれのメリット・デメリットを勘案し、後者を採択することとしました。


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一時金の減額は、下図のように一時金の積立額に任意の乗率をかけることで対応します。ただし新制度では等級によるポイント格差がつくため、優秀層と非優秀層の給付額には大きな差がつくことになります。



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P社の場合、3社の退職金・年金制度が全て異なっており、かつ法人の統合と人事制度の統合が半年ほどずれるため、詳細に各社ごとの移行プランを策定していきました。


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年金の移行については、下の二つの図のように、労使合意や行政への申請など複雑な手続きが必要となります。P社のケースでは、1社において単独の確定拠出年金を終了し、統合型の確定拠出年金に加入し直す必要が出たため、それぞれの年金について社員の過半数あるいは労働組合の同意をとることが必要でした。


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また、単独の確定拠出年金の終了については厚生局への制度終了の承認申請、統合型の確定拠出年金の加入については代表事業主からの承認申請が必要となります。

手続きの不備による統合の遅延を避けるためにも、下図のように厚生局や社会保険事務所、厚生年金基金の事務局などを訪問して必要な手続きを全て洗い出し、それぞれのタイミングで必要な措置が取れるよう、慎重に作業を行いました。


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また、退職金・年金の移行措置として、新たに厚生年金基金に加入する1社については確定拠出型年金の限度額が引き下がり、その拠出分の負担が発生するため、超過分の拠出を一時金に振り分ける措置などを行いました。

具体的には半年の間、厚生年金基金(加算部分)への拠出分の負担が発生しました。移行措置として確定拠出型年金制度の拠出金額変更を伴うため、社員の同意や行政への変更承認手続き等が必要となりました。


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こうした人事制度の詳細設計に加え、就業条件と各種福利厚生施策の統合を行い、その内容を反映した就業規則等の規定類を整備していきました。

6.就業条件の統合

3社間においては、就業条件も大きく異なっていたため、その条件を細かく設定していきました。

所定労働時間や休日、延長時間は労働とその対価に関わる基本的な労働条件であるため、特に合理的な理由がない限りは現行条件からの変更は最小限に留めていくのが一般的です。本事例では休日日数について3社を比較した結果、下図の通り適用人数(社員数)の多いN社に合わせていきました。


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社宅については3社間の運用が大きく異なっていました。そこで、採用競争力とコスト競争力の観点から最適な方針を策定していきました。今後の旧3社間の人事交流が活発になることを見据え、転居の際の借り上げ社宅の扱いも含め細かく設定していきました。


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7.コミュニケーションプラン

社員に対するコミュニケーションについては、事前に十分に準備をしておく必要があります。

そもそもM&Aや企業再編などにおいては、その交渉が無事に完了し統合や買収の期日(Day 1)を迎える日まで、具体的な内容について従業員に伝達できないケースが多く、組織戦略などが固まっていないこともしばしばあります。どの段階でどこまで伝えるか、どのようにすれば効果的に必要なメッセージが伝えられるか、慎重に検討をしていきました。

また、業務フローやシステムの統合など、他の領域の統合プロジェクトとも連携を図りながら、統合プロジェクト全体として整合性のあるメッセージ発信を行うことが重要であり、関係各所と連絡を取りながら実際のコミュニケーションを展開していきました。

その中でも大きなイベントとして、法人統合前の3社それぞれの社員に対する制度移行についての社員説明会がありました。人事統合や人事制度変更にあたって社員は期待よりも不安を抱えることが一般的です。新しい制度になれば、何がどう変わり、それによってどのような恩恵が得られるのか、社員の視点に立って説明することが求められます。

今回は各社の移行措置が大きく異なることから、各社ごとに説明資料を作成し、社員が抱える不安を解消し、新しい働き方へとスムーズに移行できるよう、特に日々の業務遂行時の変更を手厚く説明しました。

また、方針の説明において、評価制度を厳密に行うことを伝えるだけでは、社員の不安を煽ってしまう可能性があるため、下図のように人材育成とセットで行う旨を伝え、社員のやる気を引き出していきました。


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報酬制度については、どうすれば報酬が増えるのか、同時にセイフティネットが用意されるのか、下図のようにイメージを使いながら制度の要諦をわかりやすく説明していきます。


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また下図を用いて、いつからどのように給与が変わっていくのかについて説明をするとともに、調整給による補填を説明し、不安の緩和を図りました。


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評価制度については、現行制度から何がどう変わるのか、どうすれば昇給・昇格や賞与にプラスの影響を与えられるのか、簡潔に説明していきます


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退職金・年金について、移行措置が取られる会社においては特に細かい説明を加えます。専門的な言葉はなるべく控え、会社への貢献が高い報酬へ結びつくことをアピールします。

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就業条件については、大きな変更があった点を説明します。不利益変更についての質問が出る可能性もあるため、その他の項目も含めた詳細なFAQを事前に作成し、万全の態勢で臨みました。


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8.意識統合/人事制度の運用実態統合

3社出身の社員合同による評価者トレーニングを実施しました。

ここでは新しい人事制度の意義や目的、その内容を改めて解説し、評価者(管理職)に求められる姿勢や行動に加え、具体的な方法論を教授しました。また、より実践的な内容にするべくケース演習を通したロールプレイを実施しました。

カリキュラムは下図にあるとおりです。


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下図は評価者の役割に関する説明箇所です。先に悪い評価者について説明した後、良い評価者が何をすべきかを解説していきます。


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成果評価の理解に関しては下図のようなケーススタディを実施しました。そしてケーススタディの実施後、いかに被評価者をその気にさせるか、その具体的な方法論を教授しています。


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あわせて評価の手引きやマニュアルも整備しています。

上述の評価者トレーニングに加え、評価者自身が今の自分の実力を認識できるように、管理職を対象としたマネジメント力診断用の人材アセスメントを開発・実施しました。

下図では、課題設定力、対人関係力、基盤姿勢の各コンピテンシー(潜在能力)ごとに、全社と出身会社3社ごとの比較を行っています。その結果、全般的に対人関係の力が強く、分析力も強いことが判明しました。


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下図では対人関係力のうちリーダーシップについて見ています。全社の分布に加え、このように強みと弱みを分析し、今後の人材開発への示唆を提供しました。


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ここでの内容は経営陣および人事部門にも別途フィードバックを行い、今の組織の強みと、今後強化していかなければならない弱みを分析しました。

そして、人事制度が最終的に統合される直前に、改めて全社員に対して説明会を実施しました。ここでは3社の別なく、新会社としてどのような制度を運用していくのか、今後どのように新しい等級の移行がなされるのか、などを説明していきました。

下図ではP社が求める人材像を明記。社員一人一人がどのような方向で自分を高めていくべきか、その指針を示しています。


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また、社員にとって重要な関心事である新等級への移行について、下図を用いてそのスケジュールを説明しています。当初の等級はあくまで「暫定」であることを明記するとともに、役割等級は都度決定することを伝え、社員に対して一層の奮起を促しています。


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人事制度が統合された後、全社に対するアンケートを実施しました。ここでは新会社の求める行動の浸透度、共通目標達成への意欲、人事マネジメントの現状について、全体と旧3社出身者別に分析を行いました。現状の課題を浮き彫りにすることで、今後の人事マネジメントに対する示唆を抽出、経営層に報告を行いました。

その後

現在の状況はいかがですか?

制度統合から数年が経過し、社員数は2倍以上に増えています。業績も好調であり、新卒採用/中途採用ともに順調との声を聞かせていただいています。また、その後このプロジェクトに関わった担当の方から他の関係会社の統合についてのコンサルティングの依頼も受けており、一定の評価が得られたものと思われます。初期に整合性の高い制度を構築し、丁寧に導入を行ったことが、社員の納得感につながっているのではないでしょうか。

かなり導入支援に重きが置かれていた印象ですが、このプロジェクトの成功要因は何だったのでしょうか?

何より慎重かつ丁寧な導入準備を行ったことが功を奏していると考えられます。特に通常の人事制度と異なり、3つの会社が1つになるわけですから、そこでの調整作業はかなり手間がかかります。P社の方々が旧3社内を奔走し、最後までしっかりとパートナーシップを持って導入に携わっていただけたことが何よりの成功ポイントだったと言えるでしょう。

また、退職金と年金については関係団体へ足を運んでのヒアリングなど、かなり地道に細かいところまでチェックをしながらシミュレーションを繰り返しました。こうしたデータの積み上げに基づいた制度設計は、やはり社員の方の納得を得る土台になったと思います。

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